[21] 山道

 ユーニスさんは狐族も魔力もそこそこある。

 よって格闘と魔法、両方いけるバランス型の構成にしているという。そもそも私たちより随分先行ってるから基礎的な能力に大きな差があるわけだが。

「2人はとりあえず好きなように戦ってみてよ。私はそれ見ていい感じにサポートするから」とユーニスさん。

 いい感じってなんだ。好きなようにって言われてもそれはそれでちょっと困る。作戦も何もあったもんじゃないけど、案外そういうやり方の方が高度なのかもしれない。


 鮮やかな赤い色をした葉っぱが山を彩る。目に楽しい。この山はいつ来ても秋の景色なんだそうだ。現実ではありえない。ゲームの中だけに存在するリアル。

 雰囲気に合わせてかキノコマンにちょくちょく出くわす。前に森でも会ったことある私の腰ぐらい身長の手足の生えたきのこ、それのカラフルな強化版。

 目がにちゃっとしてかわいいというより憎たらしい感じ。1匹1匹は弱いけど集団で出てくる上、油断してるとすぐ数が増えるのがめんどい相手。

 狼やら猪やらがいっしょについてきたらほんと厄介で、目を離したすきにキノコマンが増えに増えまくって収集がつかなくなる。結局ユーニスさんが魔法で焼き払ってくれてなんとかなった。


 山頂をすぎたあたりで小休憩。ユーニスさんが道を覚えてるので順調に進んでこれた。

 当たり前だがクレハなんかよりよっぽど役に立つ。あの娘はプレイ時間が違うんだから当然だよって言いそうだけど。

 でもまあ別に私たちは全力でゲームを攻略しようとしてるわけじゃない。そのあたりは適当にいい加減でかまわない。

 つまりだから何というかこれからもいっしょに遊ぶのはクレハでいいや。妥協してあげよう。 


「ここでリィナちゃんにユーニスお姉さんからワンポイント・アドバーイス!」

 ぐるりと正面にユーニスさんが回ってきた。何だこの人はいきなりびっくりするな。

「リィナちゃんは見切りのセンスが半端ないよ。危ない避け方するなとこっちは思っちゃうけど全然そんなことないんだろうね、相手の動きを明確にとらえてるのかな」

「そう言えば昔っからすばしっこかったなー」驚いて返事できない私の代わりに燈架が答えてくれる。

「うんうん、だからそのあたりは教えることないんだけどね、もっと足を積極的に使ってけば戦いがぐっと楽になると思うよ」

「結構ちょこまか動いてたイメージあるんだけどもっと運動量増やせってことか」

「じゃなくて――」


 言いながらユーニスさんは自分の身に着けてる脛当てを叩いた。

「蹴りを取り入れたら戦い方の幅がぐっと広がるんじゃないかな」

 蹴りか。今まで考えてなかった。両手に武器持ってたからそれで攻撃するもんだとなんとなく思ってた。思い込んでた。

 でも蹴りって剣で切ったり突いたりするより攻撃力低そうなんだけど……。

「軽戦士の戦い方は間合いを支配すること、ヒットアンドアウェイ。蹴りでダメージが入らなくても相手と距離をとれればそれで十分でしょ」


 山道後半、私は意識して戦闘にキックを取り入れることにした。

 まずは感覚をつかむのが大事。何も考えずにやってるとすぐ自分が動いちゃうから多少強引にでも機会があれば蹴りを繰り出してみる。

 悪くないかな、というのが第一感。

 ダメージにならないのは予想してた通りだから気にしない。ただ軽量級が相手ならわりと簡単に相手を動かせる。場合によってはそこにさらに追撃を加えることもできた。

 山の中だとキノコマンには特にばっちりはまった。10匹ほどうにょうにょ現れたので、試しに2人は休憩しててもらって1人で戦ってみたら、苦戦してたのが嘘みたいにわりとあっさり処理できた。


 また一段と強くなれた気がする。

「ちなみに私にはなんかアドバイスないのか?」

「燈架は重戦士タイプで私と戦い方が違いすぎるからよくわかんないや」

「うーん、そいつは残念だ」

 どうやら私は運がよかったらしい。


 無事に山を越える。遠くの方、平地の真ん中にぽつんと黒いごちゃごちゃしたものがある。工業都市アセンブレ。まあ山の上からも見えてたんだけどね。

 これでチェックポイントに到達したので、次からはアイテムか魔法を使えば簡単に来ることができるんだそうだ。アイテム自体は消耗品ではあるもののどこの街でも簡単に手に入るとのこと。

「おつかれー」

「お疲れさん、今日はたすかったよ」

 今日はここで解散の予定。工業都市の探索はまた今度ということになっている。

 うーん、どうしよう?

 今がベストなタイミングな気がする。というか逆に今しかチャンスはなくて、今を逃したらそのままずるずるダメになってしまいそうな気がする。

 たいしたことじゃない。たいしたことじゃないはず。言われたとおりのことにすぎない。私が気にしすぎなだけだ、多分そうだ。心臓が痛い。覚悟を決める。もうどうにでもなれ。


「あの、ユーニスさん!」

 自分で思ってたより大きな声が出てちょっとびびった。あと若干裏返ってたし、緊張しすぎだ。

 ユーニスさん、ついでに燈架もこっちを振り返る。突然どうしたという風に何も言わずにこちらを見つめている。

 時間をかけるな。時間をかけるほどやりづらくなるぞ。勢いのまま突っ走ってしまえ。突っ走ってしまえばそれで終わりなんだから。

「――今日はいろいろ教えてくれてありがとうございました!」


 その後2人がどういう反応をしたのか私は知らない。

 なぜなら言ったら即座にログアウトしたから。

 別に恥ずかしかったとかそういうことではない。

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