[19] 亡骸

 ゴーレムの亡骸。

 人格コアを破壊されている。動くことはない。


「結局知ってそうなやつに相談するしかないと思うんだけど」と言いながら燈架は私に視線をよこす。

「そうなるよねえ」クレハも燈架に賛成しつつなぜだかこちらをみつめてくる。

 何か言いたいことがあるならはっきり言え!

 数秒の沈黙の後、私は2人の視線に耐え切れなくなって「好きにすれば!」と吐き捨てた。


 燈架が早速メッセージを送る。相手はBBQの時に会ったユーニスさん。

 都合のいいことにちょうどインしてて、さらに都合にいいことに隣の職人区に今いるとのこと。

 実物みた方が話が早いので今から倉庫に来てもらう。ついでにいっしょにいた細工師の白さんも来るそうだ。

 あんまり気は進まないけどあの2人ならまだセーフ。それで実際この問題が解決するんならよし。


 暇つぶしに荷物の整理。といっても特に倉庫に置いとくようなものはない。

 装備品は新調する際に古いのを下取りに出してるから手元には残ってない。

 モンスターが落としたものはざっくり売り払って金にかえてある。

 残りはだいたいが回復薬で持ち歩いてた方がいいものだ。


 クレハは例のうるふくん人形をとりだして置いたり手に取ったり角度を変えたりやっている。どうやらいい感じに見える置き方を探ってるようだ。

 やることなくなったので後ろからひっそり近づいて、ぬいぐるみを蹴飛ばそうとしたら、いつになくすばやい動作で隠された。

 人が蹴ろうとしてたのに動かしたら空振りして危ないでしょうがと実にまっとうな抗議をしたところ、思いっきりため息を返された。なぜだ?


「わお」

「うーわー」

 ユーニスさんと白さんが来たので一時的にパーティー登録して倉庫に入ってもらったところ、最初にでた一言がそれだった。

 街中には基本的にモンスターは出現しない。それがいきなりゴーレムの巨体に出くわしたらそうなるよね。当然の反応というやつ。

 ちょっとおもしろかった。持ち出して人の集まってる広場に投げ込んでみるのはどうか?

 パニックになるかもしれない。運営に怒られるだろうか、でもあっちが用意したアイテムなんだし問題はないと思う、多分おそらく。

 まあ燈架とクレハが絶対にやらせてくれないけどね。


 再会の挨拶を適当にかわす。

 燈架と白さんは初対面だがさらっと言葉を交わしている。コミュニケーション能力が高い。すごい。

 私は一歩下がって、クレハの後ろに隠れる。

 人にはそれぞれ得意不得意があるのだ。得意なことは得意な人にまかせるべき。適材適所。

「え、なにこれ? どうやって手に入ったの?」ユーニスさんの疑問。

「あー……リィナ、説明たのんだ」燈架の返答。

 いやいやいや、私に話を振らないでよ。


「だって私は後半気絶して何もしてないし、当人に話をしてもらったほうがわかりやすいだろ」

 理屈は通っている。理屈は通っているがやりたくない。やりたくないがやらなくちゃいけない。

 どう話したものか。必死になって考える。えーと何を言ったらいいんだろう。あのとき、何があったんだっけ?

「……なんかがんばってゴーレム倒したら手に入ってた」

 うん、言った私自身がわかってる。説明になってない。これじゃ何にもわかんないわ。

 何といったらいいのか微妙な顔をしてみんなこっちを見てる。そんな目で見られても困る。

 仕方ない、ここは奥の手を使うしかないようだ。クレハの背中をつっついた。

「後ろから見てたんでしょ。あんたが説明しなさいよ」


「私の推測ですが、ビーム攻撃の瞬間にモノアイを破壊してゴーレムにとどめをさしたのが、関係あると思います」

 そうそう私もそれが言いたかった。

「え、なんでわざわざそんな危ないことしたの?」

「それは私もわかんないです。リィナちゃん、なんで?」

「弱いところ狙った方がたくさんダメージ入るでしょうが。当たり前でしょ」

「――だそうです。クリティカル狙いですね。その時はリィナちゃんしか動ける人いなかったんで、妥当な戦略だったと思います」

「いやだからって……うん、まあ、実際なんとかできたわけだし、リィナちゃんめちゃくちゃだけどすごいね」

 よくわかんないけどどうやら私は賞賛されてるらしい。ユーニスさんの表情から察するに半分呆れられてるような気がしないでもなかったけど。


「多分だけどー、クレハちゃんの推測で当たってると思うよー」

 話を聞きつつゴーレムをぺたぺた触ってた白さんが発言する。

 そういえば今日はクレハは白さんの話し方に引きずられてない。やっぱり1対1で話すのがまずいようだ。

 さておき白さんが話をつづける。

「私たちがゴーレム倒した時ってー、亡骸なんて残らなかったでしょー」

「えーと確か倒した瞬間砂になって崩れた?」

「そうそうー。ゴーレムって普通に倒したらー、自爆? 自壊? するように仕組んであるんだと思うよー」

「なるほど、モノアイ、あるいはその奥の頭部を破壊したことで、そのプログラムが働かなかったってことか」

「多分だけどねー」


 要するに特殊な倒し方をしたために特殊なアイテムが手に入ったということのようだ。

 そんなこと考えて倒したわけじゃなかったのに。

 というか私自身もう1回戦うことになったら別の作戦とると思う。あんなぎりぎりの作戦、それ以外が選べる状況だったら、すき好んで選んだりはしない。


 なぜこのゴーレムの亡骸というアイテムが手に入ったのかはわかった。推測が当たってるのかは知らないが少なくとも私は納得した。

 それはそれとして一番重要な問題が何ら解決していない。

「それでいったいこれ何に使えるってんだ?」

 燈架がその肝心の疑問を口にする。

「わからん」「わかんないー」

 アドバイザー2人はなんとも頼りない解答を返してくれた。


「でもねー、これから何をすればいいかはわかるよー」

 言って白さんはぴっと1本、人差し指を伸ばした。

 みんなの注目が集まる中でも、そののんびりした口調は変わらない。

 十分すぎるほどの間をとってから、ようやく白さんはその『これから何をすればいいか』を教えてくれた。

「次の街に行きましょー」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る