[17] 決着
「クレハ!」
大声でその名を呼びながら私はゴーレムに向かって跳躍する。
振り返っている暇はなかった。けれども見なくてもわかる。あの娘は状況の変化についていけず呆然としてるはず。
それでもこっちから指示出せばきっと動いてくれる。私は単独でゴーレムで打ち合ってクレハが行動する時間を稼ぐ。
「燈架回収して後方に下がって、そのあと残ったMPでかけられるだけ私に支援魔法かけなさい!」
返事は聞こえなかった。多分だけれどクレハは何か言ってはいたんだと思う。
たまに私はそういう状態に入ることがある。極度に集中して優先度の低い情報がカットされる状態。
そのあたりから私は巨大な石人形の姿しか覚えていない。
1対1で打ち合う。ゴーレムの攻撃は私に当たらず、私の攻撃はゴーレムに響かない。
互いに有効打はなし。けれどもこの拮抗は長くはつづかないと理解している。
死とすれすれの舞踏。私の集中はすぐにも切れる。その前に――今ここで決着をつける!
狙うはクリティカル。急所はどこだ?
あそこしかない。ならその急所に攻撃を叩き込むにはどうすればいい?
ぐちゃぐちゃに乱れて飛び交う思考がまとまる。1本の細い光の道筋が見える。勝利への道筋。
成功率は――あまり高くない。なにしろこちらの装甲が薄すぎる。小さなミスで即失敗だ。
でもそんな贅沢言ってられる状況じゃない。覚悟を決める。かすかな勝利を信じて飛び込んだ。
間合いをはかる。中間距離。ゴレームの右脇がわずかに締まる、読み通りだ。
私は放たれた右ストレートに向かって直進した。自殺行為? 違う。
動きは最小限で。上半身を揺らす。耳元を拳がかすめていく。風の音が聞こえる。
走り抜けた、その勢いのまま石人形のがら空きの膝へと左手の剣を叩きつけ、ねじり入れる。がっちりと深くはまった感覚。成功。
頭上に影、ゴーレムの反撃、私に向かって巨大な拳が振り下ろされる。回避行動に移る。左手の短剣ははまってしまって抜けない――だがそれでいい。
あれは楔。相手の行動を縛るための楔にすぎない。その役割が果たせれば十分。
大きくバックステップ、怪物との間に距離をとる。赤い瞳を遠くに眺めた。
移動不可の状態、目標は自分の拳が届かない位置、となればゴーレムの選択肢はたったひとつに限られる。モノアイからのビーム攻撃。
その瞳の奥が大きく開放されるのが私にはわかった。残ったもう1本の短剣をまっすぐにその赤い眼球へと投げ入れる。
透明なガラスが砕け散る。もっとも脆弱な部分へと短剣の切っ先は埋もれていく。
ゴーレム頭上のHPゲージは減少していき――石人形はその場にひざまずき動かなくなった、機能停止。
私は冷たい床の上にあおむけに倒れ込む。どっと疲れた。もう動きたくない。
今頃になって目覚めた燈架が状況の変化に戸惑っている声が聞こえた。口を開くのも億劫だったので説明は全部クレハに任せよう。
――静かに目を閉じた。
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