[15] 作戦変更

 焼鳥食べ終わったし、デスペナ明けたし、ぶっつけ本番でやるわけにもいかないしで、草原に出て試してみようという話になったので、道すがらクレハに説明を聞く。

 要するに私に敵の攻撃をぎりぎりまでひきつけてから避けろということのようだ。

 敵の攻撃を受け止めてるわけじゃないけど結果的に他への攻撃機会を減らしているから盾の役割になっている、つまりは回避盾。なるほど、理屈はわかった。


 理屈はわかったが、それを私が受け入れるかどうかはまた別の話になる。

「なにそれ、私、一発でもいいの入ったら即死ぬけど、そんなことやらせるわけ? つまりは私に死ねって言ってんの?」とクレハに食ってかかったところ、

「だからリィナちゃんが一番危ないって言ったでしょ。でもリィナちゃん回避高いし、集中してればそういうの得意だと思うんだけどどうかな?」と言い返された。

 まあ燈架は攻撃に専念するとして、その回避盾やらを私とクレハどちらがやるかという話になったら、それは私の方が断然向いてると思う。そんなのどんくさいクレハにまかせておけない。


「まあまあまあ、ひとまずやってみてから考えることにしよう、な」と燈架がとりなしてきたところで草原にたどり着いた。

 この時点で実は私はまだ自分のやらされる『回避盾』というのがよくわかってなかった。

「まあやってみたらわかるでしょ」とか「やってみてうまくいかなかったら諦めるでしょ」とかそんなことを考えてたと思う。

 それはクレハの説明が下手だったせいであって、私の理解力に問題があるわけではない。決してない。


 新しいフォーメーションを導入するにあたって、どこに細かい欠点があるかもわからないので、まずはザコっちいモンスター相手に実験する。ちょうどよくブラックウルフが通りがかった。

 先頭切って走り出す。狼へと目いっぱい接近。

 ただし攻撃はしない。それだと実験にならないから。


 先手を譲られ狼は姿勢を低くした、攻撃の予備動作、私に向かって跳びかかってくる前兆。

 前だったらこの時点で大きく後ろに下がるか、あるいは出鼻を思いっきり叩くかしてた

 でも今日は違う。私は動かない。すぐ動ける準備だけして、ぎりぎりまでひきつける。

 狼が地面を蹴った。中空を私に向かって飛来する。

 そして――私の横腹に突っ込んだ。大きく吹っ飛ばされる。失敗。

 流石に一発で倒れるダメージじゃない。2人にだいじょうぶと伝えるように手を振ってやる。


 悔しい。もう1回だ。狼に向き直る。

 狼はなんだこいつという具合にこちらをにらんでくる。

 やらせてあげるんだから好きにしなさいよ、私はにらみかえした。

 低くうなって2度目の攻撃姿勢。今度こそ。狼の体が大きく跳ねた。


 ――ここだ!

 狼の体は空中にある。すでに攻撃の軌道を変更できない。ここでいい。

 回避の動作は最小限で。半身だけ、私は体を左にずらした。

 空振り。狼は私の横を通り過ぎて着地する。

 再び攻撃態勢を取ろうとする。けれどもそんな大きな隙を見逃してはあげない。

 燈架の振り下ろした大剣が一撃でもってブラックウルフを粉砕した。


「初めてにしてはかなり上出来じゃないか」

「うんうん、いい感じだったと思うよ」

 2人の感想を聞きつつ私は一人でこの時思っていた。

 ちょっとだけ手が震えている。でもそれは恐怖からくるものじゃない、もっとポジティブなやつ。

 なにこれすごく楽しい! 私これ向いてるかも!

 その後もザコ相手にフォーメーション固めつつ、細かいところも打合せしてその日はログアウトした。

 明日こそダンジョンに再挑戦して、ボスぶっ倒すことを約束して。

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