第52話 約束の無い未来

202X年 6月11日。

 

 ここは大都会、渋谷センター街。


 私とシン、我問さんは、渋谷の平和な街並を、ウィンドウ・ショッピングがてら散策している。そこには、『誰にも知られる事無く、私たちが大震災から命がけで救った人々』が行き交っている。

 

 それにしても、このトウキョウ、いやニホンって国は、『一般ピープル』の物欲をウマい事刺激して、『お金持ちになって、お金を使う事がシアワセだ』って言う、『資本主義と言う名の宗教』のメッカみたいだ。

 

 あんまりお洒落やファッションに興味の無い私だって、ついついカワイイ服やアクセサリーに興味を持ってしまう。

 

 そこに、通りすがった若いカップルの男性が、シンのメカニカルな手足を見て、

遠慮がちに近づいて来る。

 

 「あの~、貴方が身に付けている『パワードスーツ』みたいな手足のコスプレ、

どこで売っているか、教えて頂けませんか?」

 

 私はその、超アニメチックでド勘違いな質問にシンが答えられずに困っている居るのを見てられずに、

 

「あ、これはね、この丸メガネの『我問さん』が自作したオリジナル・カスタム・パーツだから、普通の店では売ってないのよ」

 

 それを聞いて、ヒソヒソと内緒話しをしていたカップルが、

 

「実は僕たち、来月の始めがエントリー〆切の、大手メーカー主催オリジナル・コスプレで優勝を狙ってるんです! 貴方の様な斬新なデザインのパワード・スーツは見た事が無い。お金は幾らでも出しますから、ソレを僕らに譲って頂けませんか?」

 

 私は、余りに『浮世離れ』に面食らいながら、

 

「ゴ、ゴメンナサイ。これはまだ開発中で、売り物じゃないのよ」

 

 そのカップルは、まだ諦め切れない様子でシンの機械の手足をチラ見しながら去って行く。

 

「なんだか、オレが不格好だと思っていた自分の手足も、今時のアニヲタさん達にとっちゃ、まんざら格好悪くも無いみたいだな」

 

そこに我問さんが口を挟む。

 

「私のデザインした機械がヲタク受けするなんて、なんだか照れくさい様な気がしますね」 

 

「我問さん、それは『アナタ』が、このヲタク王国の日本で一番の『リアル・ヲタク』だからじゃない?」

 

「はぁ、そう言われれば、返す言葉も見つかりませんね、奈々さん?」


 何事も無いかの様に人々が行き交う中、シンがポツリと呟く。

 

「大震災は起こらずに済んだんだな」

 

「ええ、とりあえずは、ですが・・・。ただ、あれほどの地震がいつ自然に発生するかを予知する方法は、まだ確立されていない。私達は、それが起こるのをほんの少し先延ばしにしただけかも知れない」

 

「なんだか、それじゃあ、とてもやり切れない気がするわ」

 

「何を言うんだ、奈々。あのままゲッヘラー達を野放しにしておけば、もっとひどい事になっただろう。自信を持てよ、奈々」


 ワタシの目を見つめるシン、それを無言で見つめ返す。

 

「さあ、これからどうするかな。俺達はパラレルワールドに紛れ込んだ異邦人って所か」

 

「私はゲッヘラーの基地に戻って、ハイドロフラーレンの平和利用の研究を続けます。それと都会の防災意識や耐震技術の普及にも努めたい。もう一人の私とは、兄弟とでも言う事にして」

 

「私も連れて行って下さい。もう家には戻れないし」

 

 シンは、夏の制服からはみ出ている、不自然な機械で作られた機械の手足を見て、

 

「じゃあ、オレも。こんな機械の手足じゃ、見せ物扱いされるのがオチだもんな」

 

「シン? この時代のシンには・・・?」

 

「そっとしておくさ。お前を失って、しばらくは失恋の病に冒されると思うけどな」

 

「しばらく? たったそれだけ?」

 

「ばぁか!」

 

「フフフッ! まあ、そう言う事にしとこっか」

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