第12話 ぽんこつアンドロイドは変態仮面の夢を見るか?

 桜の花びらが完全に姿を消し、新緑が芽吹き始める5月の初頭。つまりゴールデンウィーク。


 人によっては徳島阿波踊りの最終日並みにテンションがハジけにハジけまくっている早朝。


 俺はいつもの執事服に身を包みながら、玄関先でキャリーバックを引いている我が主ジュリエット様と、愛しの後輩ましろんを見送っていた。


 そうっ! 今日はいよいよお嬢様がイギリスへと旅立つ日なのだ!


「それじゃロミオ、ボクが留守にするこの6日間、桜屋敷を頼んだよ?」

「おみあげ買って来てあげるんで、大人しくしてるんですセンパ――ロミオさん?」

「かしこまりました。お2人ともお気をつけて行ってらっしゃいませ」


 うやうやしく頭を下げながら、柔らかい口調を心がけて爽やかに2人を御見送りする俺。


 もちろん気を抜くと2人を月9の主人公バリに引き留めてしまいそうになるので、必死に拳を握りしめて己をりっすることも忘れない。


 俺はもう握り締め過ぎて拳から血が出ていることも気にせず、2人が気持ちよく出立しゅったつできるように顔に笑みを張り続けた。


 これが出来る男というモノだよ、チミ達?


「ジュリエット様。白雪様。お、お車の準備が出来ました」

「あぁ、分かった。それじゃ行こうか白雪の姫よ」

「はい。それじゃロミオさん、6日後にまた会いましょうね」


 運転手のプルプル田中ちゃん(彼氏ナシ、好物はビーフジャーキー)が2人をむかえに玄関へと入ってくる。


 田中ちゃんにエスコートされながら、ジュリエット様とましろんは2人して庭に停められたリムジンバスへと乗り込んだ。


 そのまま音も無く発進していくリムジンを、俺は姿が見えなくなるまで見送り続ける。




 ――こうして、俺の桜屋敷での孤独なサマーウォーズは静かに幕を切ったのであった。




「さて……と」


 人気の居なくなった桜屋敷の玄関で大きく息を吐き捨てる。


 ココに住み始めて約2カ月、こんなに静かな屋敷を見るのは初めてだなぁ。


 なんてことを考えながらそっと自分の来ている執事服に手を伸ばす。


 おそらくこれから俺がやろうとしている事が分かるいなかで「天才」か「凡作」か分かるというもの。


 人気の居ない桜屋敷、住人は俺だけ。


 とくれば、もはやヤルことは1つしかない。




「よし、じゃあ服を脱ぐかな」




 そう言って俺はベルトのホックへと手を伸ばした!


 ここで並みの男ならばお嬢様たちが留守なのをいいことに、彼女たちの下着を並べて華麗なるバタフライ泳法をかましている所だろうが、俺、ロミオ・アンドウは違う。


『俺たちは日本国憲法によって守られている!』と声高こわだかのたまいながら、お嬢様のパンツをゴーグルわりに頭に被り、快楽という名のプールを全力全開で泳ごうとするだなんて……もはや狂気きょうきの沙汰である。


 正直に言ってドン引きだ。


 同じ人間とは思えない。


 やることが低レベル過ぎてヘソからタピオカミルクティーが出てきそうだ。


 まったく、そんな稚拙ちせつなエロを求めてどうする? もっと俺のような大人の楽しみ方を覚えるべきだ。






 そうっ、お屋敷を全裸でお掃除するという楽しみ方を……ね。





 ……いや待ってくれ、俺は変態じゃない。 これには論理的かつ理にかなった理由があるから!


 この無駄に広いお屋敷を掃除するとなるとやはり動きやすい服装であるべきであり、人類が一番動きやすい服装と言えば――そう全裸だ。


 つまりここで服を脱ぎ捨てても……何ら問題ないというワケで。


 ロミオ・アンドウの神秘を玄関前で大公開しても……何ら問題ないというワケで。


 大丈夫、尊厳という服を着ている……なら何ら問題ないというワケで。


 なんなら掃除用のマスクの代わりにお嬢様のパンツで顔を覆っても……何ら問題ないというワケで。



 よしっ、イケる!



「へへっ、ついに来たか。あの脱衣所で大公開出来なかった後悔を晴らす時がよぉ!」


 女の子、しかも幼気いたいけなJKたちが普段使っているフリースペースで服を脱ぐというこの興奮。


 もはや饒舌じょうぜつに尽くしがたい。


 それが俺のつかえている主、及び可愛がっている後輩が住んでいる屋敷の中でとなれば……背徳感が最高のスパイスとなり俺の興奮は天元突破。


 さぁ、行こう! 夢の世界へ!


 俺はゆっくりとベルトのホックを外し、ファスナーを下ろ――いや待て!?


 落ち着けロミオ! おまえは大切なことを忘れているぞ!


「おっと危ない危ない。コレを忘れちゃ話になんねぇよな」


 俺はポケットから中に入っていたジュリエットお嬢様のパンテェーを取り出した。


 ローライズのキャンディーカラーをした俺一押しの一品だ。


 真ん中にちょこんとついている小さな赤いリボンのような装飾品がなんともキュートと言えよう。


 俺はソレを両手でそっと優しく持ち直しながら、


「パイルダァァァァァ――…………オォォォォォンッ!」


 の掛け声と共に、顔からお嬢様の神々しいパンテェーをおむかえに行った。


 約1カ月ぶり戴冠式たいかんしきである。


 もちろん王冠スタイルではなく、股間部分が口・鼻を覆う変態仮面スタイルだ。


「ふぅぅ~……相変わらずお嬢様のパンテェーは最高だぜ。頭が正月元旦の富士山頂のように澄み切ってやがる。今ならフェルマーの最終定理を左斜め後方から解き明かすことが出来そうだ」


 まるで春の陽射ひざしのように穏やかな気持ちだというのに、肉体はこれでもかと言わんばかりに興奮している。


 肉体マイボディを落ち着かせようと大きく息を吸えば、お嬢様の香りが俺の肺をこれでもかと蹂躙じゅうりんし、余計にストレッチパワーが溜まってしまう。


 本来ならここでもう少しテイスティングを楽しむ所なのだが……先約全裸お掃除♪がある。今日はそちらに集中するべきだろう。


 なぁに、問題ない。ゴールデンウィークは始まったばかりなのだから♪


 不思議な二律背反アンビバレンツを感じながら、俺は本日のメインイベントへと移行していった。


 進路オールクリア! ――ロミオ、イッきまぁぁぁぁす!


「最終装甲具解除パージ開始! ロミオ・アンドウ、セットアップ! カウントダウン、スタート! ……1、2、3――」


 興奮のあまりカウントダウンと言っておきながらカウントアップになってしまったが、問題ない。この程度で取り乱すほど俺はお子ちゃまではない。


 カウント10でズバッ、だ!


 ズボンと一緒にパンツのふちを握り締める指先が期待と興奮で震える。


 おそらく俺は今、大人の階段をホップでもステップでもジャンプでもなく、エスカレーターで一気に上ろうとしている。


 きっともう昔の子どもの俺には戻れないのかもしれない。


 それでも俺は進んでいく。


 変わることを恐れていては、人生何も始まらないのだから。


 だから俺は……今、この瞬間、ズボンを下ろすぞジ●ジョーッ!


「4,5,6――」


 未来への希望からか、もうすでに息子がやんわりとっきしているのをパンツの下で感じつつ、俺は覚悟を決めた。


 さぁ、行こうかみんな……合法のその先へ!


「7,8、9――10っ!」


 そして俺は股ぐらに風を感じながら、一気にズバッ! と全てを脱ぎ捨て――




 ――ガチャッ。




 と、玄関がゆっくりと開いて行った……って、はぁ?


「邪魔するぞ、ぶ……つ……へっ?」

「自由だぁぁぁぁぁぁぁっっ!――えっ?」


 英語で言うと『フリーダム』――俺がガ●ダムだ! と言わんばかりに勢いよくズボンとパンツをズリ下ろした瞬間、突然何の脈絡も無く俺の理想を体現したかのような美少女が玄関からやってきた。


 ゆったりとしたサマードレスに金色の髪がよく似合うその美少女は、俺の姿を目視するなりピシリッ! と擬音が聞こえてきそうな位キレイに固まった。


 まぁそれも当然の反応だろう。


 なんせ玄関を開けたら女物のパンティーを頭に被ったナイスガイが激しく息を切らせながら、ハイテンションでズボンとパンツをズリ下ろしていたのだ。


 しかもお股に自生しているキノコが若干ふっくらした状態で、だ。


 彼女がどんな絶景を目撃したのか……もはや語るまでもないだろう。


「は、はへ……? へっ?」


 口を金魚のようにパクパクさせながら、今にも蒼色の瞳が零れんばかりに見開く美少女。


 俺は彼女を知っている。


 我が主、ジュリエット・フォン・モンタギュー様の妹君にして、トップモデルも裸足で逃げだすレベルの爆裂ボディをした女の子。


 そう、アナタの名前は――



「じ、Gカップ!?」

「Fカップじゃバカたれ!」



 そう言って自称Fカップことマリア・フォン・モンタギュー様は声を荒げたのであった。

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