第203話 大地の塔 その22

〈ログインしました〉


 宿から出て朝日を浴びる。市場には活気が溢れ、あちらこちらで会話が行われる。おかしい。メニュー画面を開いて時間をみると4時半を示していた。


「......間違いじゃ、ないよな?」


 『そんなことはあるわけがないだろ』と思いもう一度時間を確認すると4時半を示していた。変わっていない。本当に4時半のようだ。


「昨日は3時過ぎに解散したのは覚えている。その後は宿に戻ってログアウトしたのもだ。......いつの間にログインしたんだ?」


 記憶の海から探そうとするもログアウトしてからの記憶が全くない。もしかして『寝てないのだろうか』と思案するが体中から活力が漲っているので睡眠は取れているはずだ。

 はぁ、とため息を吐き流石にAWOにのめり込み過ぎているので7月30日はしっかり休もうと心に決める。あくまでも廃人であって電脳体になるつもりは全くないのだ。現実世界リアルは捨てたくないからな。


 起きてしまったものは仕方がないので今から早速ダンジョンに向かう。昨日は冒険者ギルドで報酬金を貰ったときに気づいたがパーティーで攻略をすればドロップアイテムが6倍になるのだ。

 何を当たり前のことを、と思っているだろうが最悪の場合には一刀たちに金を借りて転移石を買えばいいので多少気が楽になった。


 だが、できればそんなことはしたくはないので今日中にできる限りの金策をしてしまいたい。それと朗報があった。それが今日中にミサキさんたちがこの街に到着するというものだ。

 これでやっと導魔の修繕をしてもらえる。まだ、もつだろうがそろそろ耐久値が怪しくなってきていたので非常に助かる。


 それとミサキさんたちが生産に使えるアイテムを買い取ってくれるようだ。それもまとまった数であれば色を付けてくれると言うことなのでダンジョンの魔物たちには今日も今日とて素材になってもらおう。

 今日まで潜ってみて魔物のドロップアイテムは意外と錬金術の素材になる物が多いことに気が付いた。なので、ゾルは良い買取相手になってくれそうだ。だが逆にマーケットでも大量に出品されていると言うことだから私も業者並みに集めないといけないわけだが。


 そして、ダンジョンに辿り着き魔法陣に乗ると41階層に跳ばされる。


 さて、今日の目的は金策のために魔物を乱獲することだが今日の集合時間は昨日とは異なり、21時なのでそれまでは15時間以上ある。なので、今日は51階層まで上がってしまいたい。効率よく金を集めるのならばレベルが低いこの階層でひたすらに狩り続ければいいのだが一応、上の階層の魔物の行動パターンを調べておきたいので効率は悪くなるが上の階層まで足を延ばすことにする。


「とりあえず最終区域まではいつも通り移動だな」


 不測の事態に備えるためとAGIを上昇させるために全バフをかけていく。この時に書術を使うのも忘れない。ここら辺から戦闘中に書術を使うことが少なくなってくるのでこういう時に少しでもスキルの経験値を稼いでおかないといけない。〈白黒〉を前提に戦闘をするのならば書術は使えないがアーツ自体は非常に優秀なので今後のことを考えてもスキルレベルを上げて新たなアーツを習得しておいた方が良いからな。


 バフを掛け終えた後は助走をつけて近くの樹まで近づき、壁蹴りの要領で空中に跳ぶ。そこから地面に着地する前にシールドを行使して足場にすることでさらに近場の樹に向かって跳躍、その樹を足場に跳躍、シールドを足場に跳躍を繰り返し森の中を進んで行く。魔物に見つかろうと構うことなく進み森の最奥を目指す。追いかけてくる魔物は諦めるものもいれば私に喰らいつこうと付いて来るものもいるので進むごとに大量の魔物が私の後ろを追う構図になっている。


 まさにモンスタートレインだがしっかりと処理をするので気にしないで欲しい。それと昨日のうちに一刀から迷宮の羅針盤を借りているので中央までは迷うことなく進むことができる。

 もちろん神官職の私はMPが多いので消費するMP量も無視できないものだったがそこは諦めMPポーションを使用することで回復させる。本当はリアさんが作ったポーションが良かったのだがあれは既に使い切ってしまったので仕方なく品質は落ちるがマーケットに売られていたポーションを購入した。


 それから初期区域、生物区域を抜け遂に植物区域に突入した。植物区域とは私が勝手に呼んでいるだけだがここから植物型の魔物が出現するようになるのであながち間違いではない。特にこの区域からはトレントン系の魔物がいるので地上に降り立ち、地面を走るようにする。魔の森の麓での経験でトレントンの擬態を見極めることはできるが万が一、自分からトレントンに突撃するようなことがあれば手痛い反撃をされる可能性もある。


 今も私の後ろには大量の魔物たちが追いかけているので〈白黒〉も発動しているが、それが解除されたらと思うとゾッとする。それもそれで面白いかもしれないがデスペナルティを喰らいたくはない。地面にもカラープラントなどの魔物がいるがやつらには隠密性能はないので奇襲の心配はない。この区域で奇襲をしてくるのは今のトレントン系の魔物だけだ。


 それからも森の中を走り、ついに最終区域が見え始めた。ここからは後ろにいる魔物を全て倒さないといけない。ざっと数えただけでも100体は確実に超えているがここまでの道すがら〈白黒〉も最大まで効果を上げているので奇襲にさえ気をつければ大丈夫だろう。これも鍛錬。絶対的な危機に陥るほど術理の極致を知ることができるのだ。武を極めるついでに金策もできてしまうとか素晴らしい環境だな。

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