第73話 みんなで勉強会?
放課後を告げるチャイムが鳴った後にヤーさん先生がやって来て「終わりやわ。気ぃ付けて帰りや」とドスのきいた低い声で簡潔にHRが終わると、俺は一目散に教室を出た。
急いで帰って色々片付けなければならない。
学校から家までダッシュすると、いつもより早く帰る事が出来るが、元々近いから歩いて帰るのとさほど変わらない為、大した時間稼ぎにはならない。
それでも、少しでも時間を作って部屋にあるシオリの物を片付けておきたい。
いつもより数分早く帰って来た家には誰もおらず、俺の急いでいる足音が部屋に響く。
リビングにやって来てソファーの近くにある壁取り付けコートラックを見て首を捻った後にポンと手を叩いて理解する。
「あ……アイツ着て行ってるからそりゃ無いわな」
一安心したのも束の間、玄関へ急いで向かい靴を――。
「あ……アイツプライベート用の靴はちゃんと直すタイプだったわ……」
ふむ……。急いで帰って来たけど、シオリの痕跡がある物は特にないな。
「――んだよ……。汗かき損じゃねぇか……。はは」
一安心すると力が抜けてリビングのダイニングテーブルにペタンと座り込んだ。
座り込んでから数分後。家のチャイムが鳴り響いたので「あいあーい」と聞こえないと分かっていても返事をしながら玄関へ向かいドアを開ける。
「やっほー。一色君」
「今日も土産持って来たぞ」
四条の元気な声と、相変わらずコンビニで買った袋をぶら下げて来てくれる冬馬。そしてシオリは無言で二人の後ろに立っていた。
「邪魔するぞ」
「するぞー」
「邪魔するんやったら帰ってー」
「あいよー。――ってなんでやねん」
二人のツッコミを受けて「あはは」と笑ってしまう。
「一色君、人にセンスないとか言う割には使い古されたネタ入れてくるよね」
「いやー……必要かなーと。ほら、知らない人もいるだろうし」
「誰に向けて言ってるのやら……」
そんな俺達のやり取りを見て冬馬が眼鏡をクイッとする。
「今日はまともなんだな?」
そんな見透かされた様な眼鏡クイッをされてドキッとなる。
「な、何が?」
「いや……何も……。ともかく入らせてもらうぞ」
「どうぞどうぞ」
「お邪魔しまーす」
先に二人が中に入り「うわー。これが一色君の家かー」と四条の声が聞こえてくる。
「ただいま……」
最後にシオリが聞こえるか聞こえないかギリギリの声で言ってくる。
「おかえり」とこちらも小さな声で返して彼女に言ってやる。
「いつも部屋綺麗にしてくれてありがとな」
「別に。大した事じゃない」
そう言って彼女は全員分の靴を整えていつもの様に家に上がり、リビングへ向かうので、彼女の後ろに続いて俺もリビングへ向かうと転けそうになった。
「うおおおお!」
「いけえええ! メッエエエエエエエシ!」
「まっ! ちょっ! まっ!」
「ゴオオオオル! ふふふ冬馬君。元サッカー部なのに弱いね……」
「ぐぬぬぬぬぬ。まだ前半2分だ。こらからこれから」
「あははは! こちらにはまだCロナが控えているのだよ」
「ドリームチームかよ!」
つい間違ったツッコミを放つと四条がこちらを見て言ってくる。
「でも、あたしの使ってるチームって一色君のアレンジチームだよ」
「違う違う! そうだけど違うわ! お前ら何しに来たんじゃ!!」
言いながら俺はゲームの電源を切る。
「だって、ねぇ?」
「うぬ。小次郎がゲームのコントローラーをこんな所に置いているからだろ」
「俺のせい!? お前らの意思の弱さが原因だろう! おらっ! 勉強勉強!」
「えー」とブーイングをしてくる二人に俺は掌で顔を覆う。
「何しに来たんだ……己らは……」
「――あっ! これって……!」
俺が呆れていると四条がテレビ代の上に置いてある物に気が付いて手に取る。
「これ……期間限定のリップだ。うわぁ。もう品切れで手に入らないんだよねー」
「あ!」
そ、そんな所にシオリの痕跡が――まずいっ!
「――なんで一色君が持ってるの?」
「そりゃ……あれだよ」
「あー……。もしかして……」
まずいっ! どうする!?
頭よりも先に手が動いてしまう。
「そ、そうなんだよー。唇めっちゃ乾燥するタイプ。塗り塗りー」
言いながらリップを塗るフリをして、それをポケットにしまう。
「何その行動……。うーん。怪しいですなー。どう思います? 解説の冬馬君」
「そうですね。今のはもっと上手い言い訳があったと思いますがあからさますぎて面白くもなんともないですね」
「同意見です」
めちゃくちゃ言ってくる二人に「あー! 良いから! 勉強するぞっ!」と叫んだ。
「ふにゅ」
ダイニングテーブルで四人勉強をしていると一人、可愛いから許せる擬音を放ち脱落した。
「もーダメー。何が何だか分からないよー。汐梨ちゃーん」
隣に座っているシオリに助けを求めると彼女は「どこ?」と優しく彼女に問いかけた。
「ここなんだけど」
そう言って二人の天使様が勉強をしている姿は何とも目の保養になる。
勝手な俺のイメージだが、可愛い子同士って仲良くしないよな。自分の中でマウントを取れる容姿の奴と一緒にいて自分を良く見せるというか……。
まぁ二人レベルまでいくと、そんな事どうでも良いというか、そんな考えが根からないというか。
「小次郎」
そんな事を考えていると隣に座っているインテリ風なだけで成績は悪い冬馬が呼びかけてくる。
「んー?」
「鳴ってるぞ」
ノートの上に乗せていた俺のスマホが小刻みにダンスしていた。
「お……。ちょっとごめん」
画面を見ると『父さん』と書かれていたので、俺は誰に断るでもなく席を立ち自分の部屋に入った。
「もしもし」
『あーコジ。悪いないきなり。今大丈夫か?』
「ん。大丈夫。どうかした?」
『ああ。実は……夏に日本に帰る予定だったんだけど、仕事の都合で帰れそうにないんだよ』
「へぇ」
『お前興味なさそうだな』
「まぁ俺としてはあんまり関係ないから」
『それが関係あるんだなー』
「は?」
『いや、大した事じゃない。ほら、そうなると俺の家が放置になるだろ? だから掃除して欲しいんだわ』
「えー……。普通に嫌なんだけど」
『おいい。それ位言う事きいてくれやー。土産奮発するから』
「海外のビールとつまみなんて高校生に買って来てどうすんだよ」
『バレてた?』
「あんたアメーバ思考だからな」
『誰が単細胞じゃい! 単細胞が海外で仕事できるかい!』
「あはは。ま、とにかく夏は帰って来ないのね」
『ああ。また何かあったら連絡するわ』
「あーい」
電話を切り「そうか……。帰って来ないのか……」とこぼしてしまった。
電話ではあんな言い方だったが、内心ではちょっぴり残念である。
親がいるといるでうざいが、一緒に暮らしていないと、それはそれで寂しい。
そう考えるのは俺がまだまだ親離れできないからなのか、普通の思考なのか……。
軽く溜息を吐いて部屋を出るとそんな思考は一瞬で消え失せた。
「大好き」
シオリが面と向かって冬馬に告っていたからだ。
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