第42話 許嫁とお手伝い
「二人共! ごめん! 力を貸して!」
朝――いつも通り学校に着いて、いつも通り席に座り、いつも通り鞄を置くと隣の席の四条が俺とシオリの席の間辺りに立ち、パンっと手を合わせて言ってくる。
ヘッドホンをしていたシオリも気が付いたみたいで、外して首にかける。
「どうしたよ? 藪から棒に」
聞くと「あのね……」と説明を開始してくれた。
「今、部活で新入生用の案内の動画を作ってるんだけど……全然人手が足りなくて……」
「ああ。冬休み前も噴水で撮ってたな」
「そうなの。まだ撮影も終わって無くてね……。編集とか合わせると間に合わないかもなんだ……」
「お願い!」と更に手を合わせて頭を下げてくる慈愛都雅の天使様。
俺は自然と後ろを見てシオリを見ると、彼女は「うん。良いよ」と二つ返事で引き受けた。
「ホント!? 七瀬川さん!」
「別に構わない」
「うわぁ……! ありがとう!!」
四条はシオリの手を取ってピョンピョン飛び跳ねて喜びを表現した。
シオリは――恐らく照れている様子だ。
「それじゃあ一色君も良いよね?」
「俺はまだ良いとは言ってないけど?」
「えー。どうしてよー」
俺は頭を掻きながら苦笑いで「いやーバイト――」と言うと四条が反応する。
「見つかったんだ!? どんなバイト」
「そうじゃなくて――」
「探してる最中――でしょ?」
シオリが言うと四条が「なぁんだ」と拍子抜けみたいな声を出してくる。
「それじゃあ良いでしょ?」
「探すのに忙しいんだよ」
答えると「嘘」とシオリがぶった斬ってくる。
「ゴロゴロしてるくせに」
「えー。なにそれー……。――って、何で七瀬川さんがそんな事知ってるの?」
四条が首を傾げてシオリに問うと「あ……」と素の声が漏れてしまった。
俺を斬ったシオリは四条に斬られそうになっている。
彼女は俺をチラリと見る。
俺は首を横にブンブン振って、言うなよ! と念力を送る。
そんな俺を見てシオリは少し焦った表情で言い放った。
「ゴロゴロしてそうなくせに」
出来るだけ無表情を作り言い直すと「分かるー」と四条が便乗する。
どうやら四条には違和感が無かったみたいだな。
「一色君ってテスト前はしっかり計画立てて勉強するけど、それ以外はゴロゴロしてそー」
「なんだ? その具体的な予想は」
「あははー。なんとなくー」
四条が笑う中「純恋」と呼びかけながらイケボの冬馬が登校してくる。
冬馬は俺達を見比べる様に見ると四条に尋ねた。
「二人に頼んだのか?」
「うん。七瀬川さんはオッケーだって。――でも……」
四条が俺を見て、釣られて冬馬もこちらを見て察してくる。
「ほほーん……」
冬馬が眼鏡を光らせてそんな事を言ってくるから「な、なんだよ?」と問いかけるとニタッと笑いかけてくる。
「許嫁という噂が学内に回ったらどうなる事やら。以前のファンクラブの連中を目に焼き付けていなかったみたいだな」
「あ! おまっ! きたねっ!」
「汚い?」
そう言われて冬馬は「七瀬川さん」と呼びかける。
「別に言いふらしても問題ないよね?」
「問題ない」
「――らしいぞ」
ドヤ顔眼鏡をクイッとで俺に言ってきやがる声は何とまぁ爽やかな事で――。
「何で結託してんだよ」
俺がシオリに言ってやると「別に結託してない」と否定してくる。
「そもそも私は別に何を言われようが平気」
「俺が平気じゃないんだよ。――ってか、何でシオリは言いふらされても平気なんだよ?」
そう聞くと「そ、それは……」と少し狼狽える。
――もしかして……俺と噂されたいのか? 俺の事が――。
「許嫁がいると噂されたら、もう近寄ってくる人もいないから」
「やっぱ、魔除け的な……そんな理由だよな」
ちょっとでも期待した俺が馬鹿だった。
「そ、それ以外に……な、ない」
「分かってるっての。それ以外ないだろうよ」
そう答えるとシオリは少しムッとした様子を見せて言い放ってくる。
「許嫁って噂されたらコジローがしばかれるんでしょ? Mのコジローにはこれ以上ないご褒美だね」
「いや、それはMとか、そういう次元の話じゃないと思うけど……」
「Mなのは認めるんだ」
「認めてねーよ!」
一体俺のマゾ設定はいつ誤解が解けるのだろうか……。
「――あのー……お二人さーん」
四条がこちらをジト目で呼びかけてくる。
「痴話喧嘩はそこまでだ」
冬馬が眼鏡をグッとして俺を見て行ってくる。
「ともかく、今日の放課後部室に来てくれ」
もうこれ、俺が行く事確定になってるな。ま、別に良いか……。
「分かったよ」
「うぬ。詳細はまた部室で説明する。――逃げるなよ?」
「逃げねーよ」
笑いながら言うと後ろから「逃げた方がご褒美かもね」とボソリと言われる。
「だから俺はMじゃねぇっての!」
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