第70話 クーデター
舞踏会当日の朝、俺は寝不足の重たい瞼を無理矢理にこじ開けて目を覚ました
昨夜は舞踏会に出席する者達の挨拶の順番をどうするかだとか、仲の悪いコイツとコイツをどう配置するかだとか、兄の派閥と俺の派閥をどう調整して振り分けするかだとか、細々とした段取りを夜遅くまで父と母に相談していたんだが...
来るはずだった兄が姿を見せなかったので、結局は中途半端に終わってしまった。お陰で寝不足だ。兄はこんな大事な時になにやってんだ? どうしても外せない用事があるとか言ってたが、そもそもそんな公務はなかったはずなんだがな。
俺は眠たい目を擦りながら、ベッドから起き上がる。
「殿下、おはようございます。朝食は如何なさいますか?」
執事のバルトが部屋に入って来る。
「父上と母上はまだ寝てるんだろ?」
「左様でございます。昨夜は夜更かしされておりましたので」
「じゃあ部屋で食べる。用意してくれ」
「畏まりました」
カリナのお陰で病状は大分良くなったとはいえ、病み上がりの父に無理はさせられない。もっともあっちの方はすっかり元気みたいだが...
昨夜だって俺が顔見せしに行ったら開口一番「カリナちゃんはどこだ?」だもんな...連れて来てないって言ったら「お前なんぞどうでもいいわ! カリナちゃんを呼べ!」とかぬかしやがるから、俺と母とでたっぷりとシメてやったんだが。
あ、いかん。思い出したらまた腹立って来た...その時だった。
「殿下! お逃げ下さい!」
血相を変えたアランが飛び込んで来た。何事だ!? と言おうとしたその前に、
「逃げられちゃ困るな」
冷たい兄の声がした。見るとアランが開けたドアの向こうに、数人の近衛騎士を従えた兄の姿があった。その全員が抜刀している。
「兄上、これはどういうことですか?」
「なあに、ちょっとこの国を頂こうかと思ってな」
そう言って兄は薄く笑った。
「...クーデターを起こすおつもりで?」
「そういうことだ。さぁ、アクセル。一緒に来て貰おうか。父上達がお待ちかねだ」
「アクセル殿下! 行ってはなりません!」
アランが抜刀して俺の盾になろうとしているが、
「アラン、落ち着け。今戦っても多勢に無勢、勝ち目はない」
「しかし...」
「いいでしょう兄上。行きましょうか」
こんな時にカリナを側に置いていなかったことを後悔するがもう遅い。ここは大人しく従っておいて隙を突くしかないだろう。たた兄のすぐ側に、カリナ曰くマジックキャンセラーなる男が控えているので、それも難しいかも知れない。
俺は歯噛みしながら兄の後を付いて行った。
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