第21話 一方その頃
イアンは苛立っていた。
カリナが家を出てから早5日、未だに行方が掴めない。
「どうなっている!? まだ見付からないのか!?」
ついつい苛立ちを使用人にぶつけてしまう。
「はい...連絡馬車で町を出た所までは分かっているんですが...その後の足取りが不明でして...どこで降りたのかもまだ分かっておりません...」
この町の近隣にある町や村には、全て人相書きを回して手配を掛けてある。この国の王都にも同じく手を回した。それでもまだ見付からない。これだけ探しても見付からないということは...
「その連絡馬車だが、終点はどこなんだ?」
「国境の町ヘインズです」
なんとなくだがイアンは、カリナはもう既にこの国を出ているんじゃないかと思った。なにせ実の父親に裏切られ、貴族の身分を奪われたのだから。実家にもこの国にも未練はないのかも知れない。
せめて自分に一言言ってくれたら良かったのに...今更言っても仕方ないが、カリナにとって自分はそんなにも頼りにならないと思われていたのだろうか? そう考えると悲しくなって来る。
「そこに手配は回したか?」
「いえ、まだです」
「すぐに手配を回せ...いや、僕が直接行く」
「イアン様が直々にですか!?」
使用人は目を丸くする。
「あぁ、人相書きを寄越せ」
「は、はい、こちらです」
「...おい、なんだこれは?」
「えっ!? カリナ嬢に似てませんか!?」
「そこじゃない! 年齢の所だ! バカ正直に10歳と書くヤツがあるか! カリナのあの見た目で10歳だと思う者はまず居ないだろう! 14、5歳とでも書いとけばいいんだ!」
「えぇ~...」
そんなことまで頭回らないって! 使用人はそう思ったが口には出さない。
「もういいっ!」
そう言ってイアンは足音荒く出て行った。
◇◇
その頃、ウインヘルム王国の国王、フレデリック・フォン・ウインヘルムは玉座の間で頭を抱えていた。
「やってくれたな、ベルトラン伯爵代行め...まさかこんな暴挙に出るとはな...」
彼の手にはイアンから提出された報告書が握られていた。そこにはカリナの父であるベルトラン伯爵代行が、実の娘を不当な手段で廃嫡した旨が記されていた。
「あんな男にベルトラン家を任せるんじゃなかった...」
実はベルトラン家と王家との間には代々、密接な繋がりがある。ベルトラン家の血を受け継ぐ者に出現する『空間魔法の使い手』の力を王家が欲するからだ。
護衛としてこれほど適任な者はおるまい。現に歴代の『空間魔法の使い手』は、全員が王家の護衛の任に就いていた。
ベルトラン家の血筋に必ず出現するという訳ではない。現にカリナの母親には出現しなかった。娘のカリナに出現した訳だが、カリナにはちょうど同い年の第2王女の護衛に就いて貰うつもりでいた。
そのためにはある程度の身分が必要となる。なので、不正を働いたベルトラン家の伯爵代行ダレンと、その妻ベロニカは処刑することにする。爵位簒奪の罪はそれだけ重い。まだ9歳だという娘のダリヤは修道院送りにする。
ベルトラン伯爵領は一時期に王家預かりとして代官を置く。そしてカリナが成人した後に新たな爵位を授け、旧ベルトラン伯爵領を下賜する。いったん魔力契約を結んでしまった以上、カリナに身分を与えるには、こうするしかないだろう。全く面倒を掛けてくれる。
そのように方針を定めたフレデリックだったが、この後カリナが行方不明になったと聞かされて、また頭を抱えることになるのだった。
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