第5話 イアンの断罪
怒り心頭に発したダレンが執務室から戻って来ると、ベロニカとダリヤの姿はどこにもなかった。
そこへ侍女が来客を告げに来る。こんな時に誰だ? 怒鳴りつけてやろうと思ったダレンだったが、客の名前を知らされて一気に冷静になった。
「イアン様がお見えです」
侍女はそう言ったのだ。これはマズい! 今一番来て欲しくない相手だ。玄関まで出迎えに出て事情を話し、なんとかして引き取って貰わねば! そう思ったが一足遅かった。
「やぁ、ベルトラン伯爵。ご無沙汰してます」
勝手知ったるイアンは、ズカズカと上がり込んで来てしまった。
「こ、これはどうも、イアン殿。本日はどのようなご用件で?」
「カリナの誕生日プレゼントを持って来ました。今どちらに?」
ダレンの体温が一気に下がる。
「も、申し訳ありません。カリナは今、具合が悪く寝込んでおりまして...」
こう言えば今日のところは帰って貰えるだろう。というダレンの目論見は脆くも崩れ去る。
「なんですって!? それは一大事だ! カリナのお見舞いをさせて頂きます!」
そう言ってイアンはスタスタと、これまた勝手知ったるカリナの部屋の方へ歩いて行ってしまう。
「なっ!? ちょ!? まっ!?」
ダレンは止める間もなかった。イアンのカリナに対する愛を甘く見ていた。急いで追い掛けるも、既に手遅れだった。イアンは変わり果てたカリナの部屋で呆然としている。
やがてダレンの方に振り返ったイアンは、
「どういうことか説明して貰えますか? 伯爵?」
と、氷点下を下回る冷たい声で尋ねた。ダレンはそれだけで凍り付きそうになって固まってしまった。
◇◇◇
ここは伯爵家のリビング。イアンの前にはダレン、ベロニカ、ダリヤの3人が正座していた。
「ほう、なるほど。そんな卑劣な手を使ってカリナから家督を奪ったと。まぁ、そうでしょうね。彼女が自分から家督を譲ったりする訳がない。そうでもしないと無理だったでしょうね。更にその上、あなた方は彼女の貴族としての身分まで奪ったと。更に更に彼女の後釜として、その頭の悪そうな妹とやらを僕の婚約者に仕立て上げようとしたと。舐めてんですか? そりゃカリナが家出して当然でしょう。ふざけるなよ!」
イアンの厳しい追及に洗いざらい白状させられていた。今やリビングはイアンの放つ冷気で凍り付きそうだ。3人はガタガタと震え上がっていた。
「伯爵、このことは王宮に報告します。あなたの実家であるフィッシャー家にもね。追って沙汰が下るでしょう。覚悟することですね。では僕はこれで。急いでカリナを探さないと」
「ま、待って下さい!」
ダレンが必死に追い縋るが、待つ訳がない!
イアンは彼らを一顧だにせず、愛する婚約者を探すために走り出した。
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