第2話囚われの生活
本来見えるはずのない光景を前にツカサは思わず自分の目をこすり、もう一度空を見上げる。
しかしそこにはやはり鮮やかなオーロラが広がっていた。
「なにが起きているんだ?地球の終わり?」
そんな風にツカサが戸惑っているうちにオーロラはどんどん広がり、星空はオーロラで満たされていく。
ツカサはなぜかそのオーロラから目が離せないでいた。
ただ歩いてクラスメイトたちがいるところに行こうともせず、オーロラをじっと見ていた。
そしてオーロラは星空だけでなく、突っ立っていたツカサの視界すらも全て覆ったのだった。
――――――――――――――――――
ツカサはどこからか投げ出され着地した衝撃で目覚めた。
目の前には猛獣を入れるような檻の柵。
ツカサはその中に入っている状態だ。
その外には
「やったぞ!本当に成功した!」
と叫ぶ、いかにも危ないことしてそうなボサボサロン毛のおじさん。
そして隣には手分けして木を探していた男子3人が倒れている。
ツカサは素早く状況を整理した。
「まさか、誘拐でもされたのか…?」
しかし状況を整理しようとしても全く意味の分からない状況に、余計混乱すると言う羽目になった。
そしてツカサが考えることを一旦やめた時、男子3人が目覚めた。
3人ともツカサと同じくオーロラを見たようで、目が覚めても目をこすったりしていた。
しかし少し時間が経ったことで半分寝ぼけているような状態だった3人も、周りの状況が見えてきた。
しなし残念なことに男子3人は周りと自分の状況を確認するとツカサ以上に混乱し、落ち着くことができなかった。
「おい!じじい!ここどこだよ!」
と剛
「てめー、早くここから出せよ!」
と隼人
「え、え、なに、なに、怖い怖い怖い」ブルブルと震えているのが裕太である。
ボサボサのおじさんは柵の中のツカサたちを見て、蔑むように言う。
「どうやら少しおとなしくなってもらわなければいけないようだ。」
そう言って手元のリモコンを操作し、何かを起動させた。
ツカサは何もすることができずにただボサボサのおじさんを見ていると、去り際にツカサの首に浮かんでいる刺青を見て、ニヤリと笑うのが見えた。
「また後で会おう」
リモコンを操作したおじさんは、少し軽快な足取りで部屋を出て行った。
そして数秒後、部屋の壁の通気口のようなところから白いガスが噴き出す。
「「「うわーっ」」」
ツカサたちはその白いガスを吸い込むとともに意識が途切れた。
ツカサが次に目覚めると、個室になっていた。
リアル牢屋だ。そして知らない天井だ。
周りを見渡すと生きるために必要な最低限の設備あった。
ボロくて固そうなベッド、トイレ、以上。
そして手には金属の腕輪がつけられていた。
しかしその腕輪は手錠のように繋がっているわけではなく、また鎖などはついていなかった。
そのため牢屋の中は移動し放題である。
牢屋の奥の壁に空いている小さな穴は窓の代わりとなっているようで、僅かに夜空が見えた。
「腹減ったな…」
ツカサはそう呟きながら固いベッドに寝転がる。
しかしその夜は意味不明な状況による混乱と空腹でなかなか寝ることはできなかった。
しかし今までの生活では体験するはずのない極限の状態のはずなのに、なぜか一度経験したことがあるような錯覚をした。
ツカサは眩しい光が顔を照らしたことで目が覚めた。
朝である。
ボロい天井が広がっているのを確認し、昨日の出来事が現実であることが決定された。
ツカサは起きると同時に腰を抜かすこととなる。
それは床が所々赤黒く染まっていたのだ。
「これは血?なのか…」
そう呟くツカサに掠れた声が届いた。
「そうだ。それはこの前までそこで暮らしていたやつの血だ。」
ツカサがパッと声のする方を見ると、ツカサが入れられていた牢屋と向かい合う形のもう一つの牢屋があった。
昨日は夜で暗かったと言うこともあり、色々と周りが見えていなかったのだと改めて気づかされる。
そして向かいの牢屋の奥にいる声の主の方をツカサは凝視した。
するとそこには黒い髭を顎に蓄えた、いかつい男が静かに佇んでいるのが見えた。
「あなたは誰ですか?ここはどこなんですか?」
ツカサは一番知りたいことを続けざまに訪ねた。
しかし帰ってきた言葉はよりツカサを混乱させるだけだった。
「俺は"黒髭くん"って呼ばれてるもんだ。俺はたぶんここで数年くらい過ごしてると思うんだが、さっぱりわからねーよ。」
見た目に反して可愛げのある呼び名で少し面白いと思ったツカサだったが、「数年」と言う言葉を聞いてツカサはただの誘拐ではないことを悟る。
しかしそこで新たな疑問が生まれる。
「では、さっき言っていたこの前までこの牢屋で暮らしていたやつというのはどこに行ったんですか?」
そう、今ツカサと会話している男、黒髭くんは数年ここにいると言った。
ではこの前までここにいた人はなぜここからでているのか?と考えたのだ。
いやツカサは祈っていた。
ここで暮らしていた人がいなくなったことと床にこびりついた血が関係ないことを。
しかし帰ってきた答えは無情なものだった。
「少なくともこの世にはいねえな。」
ツカサは今自分が置かれている状況が誘拐などより遥かに深刻な状況だということを察した。
黒髭くんはさらに話を続ける。
「あんたはずいぶん落ち着いているな。こんなにしっかり会話できるのも久しぶりだ。もう少しここについて話してやろう。」
それからよほど話し相手が欲しかったのか、黒髭くんは機嫌良さげに話し始めた。
「ここは研究所だ。人体のな。具体的には俺たち実験体が魔物と何回も戦い続け、それに合わせて人体を改良していくことで最強の軍隊を作るのが最終目標らしい。」
ん?ちょっと聞き慣れない言葉が…
ツカサは戸惑ったが、とりあえず疑問は心の奥底にしまい込んだ。、
「すでに気づいてると思うが、その腕輪が付いている限り基本、魔法は使えない。お前のことを気に入ったから注意しておくが脱走しようなんて考えるなよ。牢屋を抜け出せても、研究所から抜け出すのは不可能だ。たとえお前が優秀な才能の<継承者>だとしてもな。」
んん?
ツカサは一瞬黒髭くんが冗談を言っているのかと思った。
しかし声のトーンや雰囲気がすごく真面目だったので、とりあえず聞くことにした。
このツカサの行動は男から様々なことを聞き出すことが出来たため、この状況では最適の行動と言えた。
ツカサが話を割るようなことをせず聞き手に徹していると、他にも様々なことを教えてくれた。
武器は槍や剣など選ぶことができるが、壊れても1ヶ月に一回しか貰えないこと。
脱走しようとして捕まると、地下に送られるということ。
この施設はロボットが年中無休で常に警備していること。
(魔法で動いているらしい)
怪我をしても、消毒液と包帯くらいしか貰えないこと。
体の改良手術は死ぬほど痛いこと。
たまに人同士で戦うことになること。
ツカサとしてはまさに"ツッコミどころ満載"の話だったが、話している本人は大真面目な顔をしているので、
「またまた〜」と言い出すことは出来なかった。
そこまで言ったところで黒髭くんは話すことに満足したのか、再び牢屋の奥に行ってしまった。
ツカサはその話を全て信じるわけではなかったが、真面目な態度だったこともあり、参考程度には信じることにした。
そしてツカサはこの意味の分からない状況と嘘か本当かわからない男の話を聞いて冷・静・に・今すべきすることを決めた。
今するべきことは絶望することでも、諦めることではなく、ただ戦う力を鍛えておくことだと。
もし魔物と言われているものがオタ組から借りた本のようなものだとしたら、魔法が使えるかどうか以前の問題に身体能力が必要となると考えたからだ。
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