第17話 アマンダ王女被害者の会
ウィリアムがケネスの最新情報をもたらしてくれた。
「かわいい女の子が好きだって言ってたよ。抱きしめたくなるような子が」
「却下。好みが全然わからない。むしろ、それは結果でしょう」
「えーと、あと、足元が軽い子が好きだって。どたどた歩くような女の子は嫌いだって」
「それしかわからないの。じゃあ仕方ないわね」
私がお茶会を開催することになった。公爵家の令嬢が主催するお茶会だ。
私たちは人選をした。
ケネスの好みに合わせて、華奢でかわいらしい女の子、アリス・ガーラント伯爵令嬢とマリオン・ギース子爵令嬢をお客さまに呼んだ。二人とも、美人で有名で、まだ婚約者が決まっていない。侯爵家の嫡子なら、候補に入れてもらえるんじゃないだろうか。
問題は、あれほど呼んでも私の家に寄りつかなかったケネスの方だった。
「でも、今は婚約者じゃないし、それほど気にしないんじゃないかしら」
呼ぶ方法がなかったが、アーノルドがその役を買って出てくれた。
内心、ドキドキだったが、案外簡単にOKが出た。拍子抜けした。
「むしろ、喜んでって感じだったよ」
ちょっと意外そうにウィリアムが言った。
「断って欲しかったわけじゃないでしょうね」
ルシンダが厳しく問いただした。この頃、ルシンダがウィリアムに厳しい気がする。
「まさか。何言ってるんだ、ルシンダ」
ウィリアムが、心底意外そうにルシンダに言った。
「ぜひ来てくれなくちゃ。どうあっても説得するつもりだったんだけど、二つ返事で、こっちが驚いたくらいだ」
このお茶会はかなり変なお茶会だった。メンバー構成も妙だったし、男性が混じるのも本来おかしい。成立が危ぶまれたが、会の大義名分を聞くと誰もが許す気になってくれた。
題して「アマンダ王女被害者のためのお茶会」
名付けたのはルシンダで、ネーミングセンスのなさに私は抗議したが、うちの使用人まで含めて、この会の名前をささやかれると、皆ほろりとして、会の開催に賛同してくれるのである。
アリス・ガーラント伯爵令嬢とマリオン・ギース子爵令嬢に至っては、最初、あまり乗り気でなかったものが、会の名前を聞いた途端に、強く出席を希望してくれた。それどころか、友達まで呼んできそうな勢いだった。
まあ、あの婚約破棄劇の舞台裏が聞けると思ったら、参加者は殺到するだろう。
ケネスには会の名前を教えなかった。絶対に言ってはならないとルシンダが
しかし、当日、やって来たケネスが開口一番に言ったのは、
「『アマンダ王女被害者の会』だって?」
アリス・ガーラント伯爵令嬢とマリオン・ギース子爵令嬢を含めた七人は、初対面のわりに、全然、話題に困らなかった。こんなにスムーズに盛り上がれるお茶会は初めてだ。
「アマンダ王女って、結局ワガママなんだよ」
そう言うケネスを、食い入るようにブロンド頭のアリスと濃い茶色の巻き毛のマリオンが見つめる。二人とも、相当ケネスが気に入ったに違いない。着ているドレスも気合が入っているなと私は苦笑した。
「誰にでも気に入られると思っていたみたい。王女だから当然と言えばそうなんだけどね。でも、ここは自国ではないから、自分の国にいるよりハードルは上がっているはずなのにね」
ケネスは断り切れなかったと言った。
二人のケネス好みの女の子たちは、熱心に聞き入っていた。
私は気を利かせて、二人の令嬢をケネスの両隣りに配置しておいたのである。
「身分の高い王女様なんだから失礼は出来ないしね。こんなこと、言うこと自体が、もう失礼なんだけど」
「真実の愛探しって、どういうことなんだよ」
ウィリアムが聞くと、さすがにケネスは顔を赤くした。
「いやだって、そうでも言わないとまずいだろ」
「ああ、そうだったんだ。本気じゃなかったんだ」
アーノルドが納得したと言う様子で言った。
まあ、真実の愛を求めて現役の婚約者を、事前に何の相談もなく廃棄処分するだなんて、頭がどうかしている。
「本気って……たとえば誰か好きな女性が本当にいたとしても、その名前を言うとアマンダ王女が何をしでかすかわからないでしょう?」
「形だけの婚約者の私に対しても、すごい脅しをかけてきましたものね」
つい、嫌味を言ってしまったが、これくらいは許されるだろう。最初で最後だ。その代わり、彼は自由になれたんだもの。
通じたのか通じなかったのか、彼はさらに赤くなった。
「誰か、架空の人にしないといけなかったんだよ。だから、ああ言っただけで……」
これは少女たちには高得点だったらしい。
真実の愛探しは、大声で公表するテーマではない。声高に叫ぶ人は、ものすごいナルシストかも知れないわけで……。
もっとも彼も私も、みんな内心では真実の愛を探しているのかもしれないけど。
彼女たちはちょっと顔を見合わせると、ケネスに向かってニコリと微笑んだ。
イケメンは威力がある。少し垂れ目の愛らしいアリス嬢が甘えるような声でケネスに何か話かけ始めた。マリオン嬢もにっこりとほほえみながら、何事か口をはさんでいる。
私たちは作戦が成功したような満足感を味わいながら、その様子を鑑賞していた。
隣の席のウィリアムがニヤリと笑って得意そうにこちらを見てきた。
会の終わりの頃、私はさりげなく言ってみた。
「オズボーン様、ご令嬢のどちらかを送って行ってくださらないでしょうか?」
もう、ケネス呼びはしない。彼は幼馴染かも知れないが、婚約者ではない。
パッとアリス嬢とマリオン嬢の目が光った……ような気がした。
ケネスは極めて穏当に、二人の家の場所を聞き出してから、家が自分の屋敷に近い方の少女を送って行くと言いだした。
私のことは送ってくれたことが一度もないのにな。
まあ、どう見てもあの二人の方がかわいらしい。
ウィリアムがそばに寄って来て囁いた。
「お嬢様、お宅まで送らせてください」
私はウィリアムをにらんだ。何の冗談なの?
「私の家はここよ」
ウィリアムはそれは嬉しそうに笑い……その声でケネスがチラリとこちらを見た。
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