第八話 前哨戦


「ユウキ。会見の場所はわかるのか?」


「サトシ・・・。マイ。任せた」


「はい。はい。サトシ。場所は、この前、皆で見に行ったでしょ?」


「え?どこ?」


「はぁ・・・」


 皆が笑い出すが、サトシは本当にわからないという表情をしている。

 マイやユウキも悪い。記者会見を行う場所を、見に行ったわけではなく、近くの公園から記者会見を行う建物を見ただけだ。


「ユウキ。今日は、公共機関を使うのだろう?バラバラに行くのか?」


「いや、俺とサトシ以外は、偽装した状態で、纏まっていこう」


 都内の(オリビアが熱烈に希望した)秋葉原にあるホテルから、29人の中学生くらいの男女が出てきたら目立つ。さらに、先頭を歩く5名以外は日本人ではない。秋葉原では珍しくもない外国人だが、纏まっているのはやはり稀有なことだ。

 それだけではなく、”そこそこ”美形が揃っている。10人すれ違ったら、4-5人は振り返るだろう。


「ユウキ!山の手ラインを使うのか!」


「レオン。この前も使っただろう!」


「ユウキ!この前は、昼過ぎで空いていた。この時間なら、満員電車に乗れるだろう?」


「はぁ・・・。何が良くて、満員電車に乗りたいのかわからないけど、今日は休日だから、そこまでは混んでいないぞ」


「なに!念願の日本で、新幹線にも乗れなくて、あの秩序で満たされた空間を・・・」


「フェリア。そのバカを頼む」「はぁ・・・。レオン。また来ればいいよ。ユウキ。いいよね?」


「そうだな。片付いたら、皆で各国を回ろう。墓参りも必要だろう」


 皆がお揃いの印章が入った物を見つめる。それぞれの施設で、召喚される前に撮影された写真を貰ってきた。それを、合成して一枚にした物が入っている。お守りであるし、今日の会見を”見せる”意味が強い。


「(やっとここまで来た)」


 ユウキたちは、正面ではなく裏口から入るように指示されていた。


「今川さん」


「おっ・・・。あっ。そうか、揃っているな」


 今川には、偽装前を見せているので、戸惑っているが、ユウキとサトシ以外は、偽装すると宣言していたのを思い出した。


「本当に、わからないな」


「服装もわざわざ揃えたので、余計にわからないと思います」


「そうだな。まぁユウキが説明して、サトシが最後の締めをするのだろう?」


「そうですね。サトシは、聖剣を出して、鉄を両断するだけですよ。喋らせると、何を言い出すかわからないですからね」


「わかった。控室まで案内する。ユウキは会ったことが有るだろうけど、編集長と上の人間だ」


 皆に緊張が走る。偉い人に会うのは、緊張するようだ。


「大丈夫。気のいいおちゃんたちだ。将軍とか伯爵だと思えば大丈夫だ」


「今更ながら、お前たちの感覚がわからんよ。将軍って、言い方が悪いけど、幕僚長だろう?貴族は居ないけど、上級国民様だろう?」


「えぇそうですね。いきなり攻撃性のスキルが飛んできたり、ナイフを投げられたり、毒が入った飲み物を飲まされそうになったりしないので、安心していますよ」


「俺は、お前の感覚が怖いぞ。まぁいい。適当に挨拶してくれ、ユウキは、最終確認をするぞ?」


「わかりました。レイヤ、エリク。サトシを頼む。マイ。皆のサポートを頼む」


「わかった。今川さん。控室は?」


「案内が来るから、ついて行ってくれ」


「わかりました」


 ユウキだけが今川の後に続いた。29名は、案内に続いて控室に向かった。


「記者会見まで、まだ時間がありますが?」


「あぁすまん。ユウキと話をしたいと言っている人たちが居て・・・。な。すまない。断れなかった」


「そうだったのですか?打ち合わせは、それだけですか?」


「想定問答もあるけど、必要か?この打ち合わせと、もう一組合せたい人たちが居るだけだ」


「俺は、大丈夫ですよ。一応、マイとアリスに渡しておいてください」


「わかった。あっここだ」


「え?」


 今川がユウキを案内した場所は、食堂に隣接している個室だ。

 防音が施された部屋で、他に聞かせたくない話をする場合に使われる。


 備え付けられているインターホンに今川が近づいて、認証を通す。


「今川です」


 ロックが外れる音がしたので、今川がドアを開けて、ユウキを中に入れる。

 部屋には、10名くらいの大人たちが豪華な椅子に座っている。そして、ユウキたちが渡したポーションや物質を持って居た。


「君がユウキ君かね?」


「はい」


「私たちのことは、研究員だと思って欲しい。それから、わけがあって所属や名乗りをあげられないが許して欲しい」


 中央の人物が、立ち上がってユウキに確認をしてから、謝罪の言葉を口にする。言葉では誤っているが、態度は横柄なままだ。


「かまいません。それで、なにか、俺に”聞きたいこと”が、あると伺いましたかが?」


「まずは、勝手なことだが、お願いを聞いてくれるか?」


「俺にできることで、仲間や家族に被害が及ばないのなら・・・」


「それは政府にも約束させる。安心して欲しい」


「わかりました。それで?」


「ポーションを数本・・・。都合することは可能か?」


「それは、”売って欲しい”ということですか?」


 ユウキは、”売れ”という言葉を飲み込んで、少しだけ丁寧な言葉にした。政府と口走ったことから、権力側の人間だと判断したのだ。

 どんな話になるのかわからなかったので、丁寧に接しようと思っていた。研究所と言っているのは、間違いでは無いだろうと判断している。全員が、”研究をしている”か、怪しいとは思っている。時間が無いと言っているが、ユウキが知らされている時間までには、3時間以上ある。


「今川さん。これが、謝罪の理由ですか?」


 今川が頷いたのを見て、状況が解った。


「今川さん。皆の所に戻ってください」


「いいのか?」


「はい。向こうに行かれると、サトシが・・・。ビルを壊すと困るので、マイやアリスやヒナが止めてくれるとは思いますが、確実ではないので・・・」


「わかった。それでは、教授。私は、ひとまず退室いたします。ユウキとの交渉には、関わりませんので、よろしくお願いします」


「あぁ」


 中央の男性が、今川に横柄な態度で退室の許可を出す。今川は、ユウキに相手の素性を”教授”と伝えた。


「それで、ポーションは有るのか?」


「ありますよ。いくらで買ってくれますか?」


「なに?」


「そうでしょう。傷口にかけたら、瞬時に治すような薬ですよ?中級も試されましたよね?骨折くらいなら治ります。上級はお渡ししていませんが、内臓の損傷を治します。俺たちが試した時には、片方の肺が潰れた状態から回復しました。日本の・・・。いや、現在の医療で同じことを行うとしたら、いくら必要ですか?俺が言っていることはおかしいですか?」


「・・・」


「どうですか?」


「に、日本の為に使ってくださいとは思わないのか?」


「は?日本が俺に、俺たちに”なに”かしてくれましたか?その分は、ポーションを提供してお返ししたと思いますが?」


「な。子供が!」


「はい。はい。それは、いいですよ。それで?買うのなら、交渉に応じますが、違うのなら、早く要件を言ってください」


 ユウキは、椅子に座り直して足を組む。子供が大人ぶっているようにしか見えないが、スキルの”覇気”を使っている。限界まで弱めた覇気だが、目の前に座っているような人間たちには十分だ。


「(そうだ。せっかくだから実験でもするか?)」


 今まで、対人スキルの実験は身内に限っていた。特に、異常状態を相手に付与するスキルは検証していなかった。


 部屋の隅にカメラが設置されている。ユウキは、この状況を使って確認しようと考えた。


 座っている大人たちが、何やら文句を言っているのを聞き流しながら、スキルを使った。


「(スリープ)」


 ユウキは、睡眠の対人スキルを使った。極々弱く使った。全員が一度に寝なかったことから、少しだけ強めて、スキルを発動した。

 隠されているカメラには気が付かないフリをして、部屋から出る。


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