夢枕

 「どうです、使ってみませんか」

博士は新しく開発した発明品を、とある男に売り込んでいる途中だった。

「あなたが見たい夢を必ず見せてくれる。まさに夢のような枕です。今のあなたに勧めておきますよ」

男の目の下には隈ができている。男は確かに安眠を求めていたが、たった一つの枕がそれを叶えてくれるとは思いづらく、それに博士の科学的根拠に基づく説明を聞かされた時にはさらに不眠が悪化したこともあった。しかし会社勤めの男には、その枕は喉から手が出るほど欲しい物だった。しばらく男が葛藤していると、博士はこう提案した。

「では、効果が出たら代金を頂きましょう。出なかったらこの話は無しと言うことで」

博士は男に枕を渡し、去っていった。男はとりあえず今日の夜にでも使って見ることにした。


 男は気付いたら平原の中に居た。つい前まで寝室で寝ていた事を思い出し、ここはどこかと見渡す。見渡す限り何もない平原だった。男は不意に、枕の効果を思い出した。

「見たい夢を必ず見せてくれる」

気付けば男はそう呟いていた。誰にも邪魔されない、平和な空間。そこがどれ程素晴らしい物か、男は知っていた。男はそこで自由の限りを尽くすのだ。


 しかし目覚めは悪かった。目の隈は無くなっていたが、余りにも明細な夢を見たせいか、少したりとも寝た気にならない。さらに夢は急に終わりを迎えるのだった。何の知らせもなく、急にぱっと目が覚めるのは気分が良くない。男はそう思いながらも、今日の所は仕方なく憂鬱な気分で出社した。


 枕を使い数日がたった。しかし、男の憂鬱な目覚めは改善されなかった。どれだけ良い夢でも、急に終わってしまっては意味がない。しかし、実際男は安眠が出来ていたので、博士に直接文句を言う度胸はなかった。そして今日の朝、男はとあることに気が付いた。夢が終わるのは、必ず枕がベッドから落ちている時、ということだ。つまり枕ありきのあの夢であると、男は気付いたのだった。そこで男は考えた。つまり枕と自身の頭が近くにあれば、良い夢を見れるということである。では、自分の頭と枕をロープか何かで固定し寝れば、誰にも邪魔されないと言うことだ。そう思い立った男は、早速枕と自分の頭を縛り、ついでに自分の目を隠すようにした。男はすぐにあの平原に行くことが出来た。そこで男は寝そべり、果てしなく続く空を見るのだった。


 博士が効果を確めに男の家を訪ねた。インターホンを押し、しばらく待ったが誰も出なかった。おかしいと思い、何度かインターホンを押したが、やはり誰もでない。その後、よくよく考えれば今日は平日だという事に気付いた博士は、急に馬鹿らしくなり、また日曜に改めて伺う事にした。


 そんな中。男はいまだ、夢の中に居た。

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