脳容量
動物の脳をUSBメモリとして使うのはどうだろう。博士はそう考えた。例えば猿の脳みそを使ったとすれば、その猿が限界まで記憶出来る情報量をUSBメモリに書き入れる事が出来るということだ。博士は手始めにネズミの脳でそれをし、その結果を世界に公表した。
結果として、博士の発明はそこそこの反響を呼んだ。実際に使われるのは大分先だと思っている節もあり、倫理的にどうなのかと言う意見もあった。しかし博士は気にせず、更なる科学の発展と、自身の好奇心のためにさらに1歩、2歩踏み込んだ実験をすることとした。それは猿の脳を使う実験。前よりも信憑性が増し、実用も間近となった。その実験も無事成功を納め、博士はとうとうこの発明の最終形態に入ろうとしていた。
ヒトの脳を使う実験。それが博士の目標だった。猿を終わらせた今、ヒトでも成功する確率は十分だろう。そう思い立ち、博士は脳の提供者を探した。勿論非難の嵐だったし、提供者はすぐ見つからなかった。その中、ようやく一人の提供者が現れた。彼は重い病気にかかっており、この先も短くないと言うのだ。博士はそれに甘え、早速彼の脳を使うこととした。本人の許可があるので、非難する人々は何も言えなかった。
そして博士には、もう一つこのUSBメモリを使って作りたい物があった。それはこのUSBメモリを使い、ヒトのように考えるロボットを作る事だ。それを作った博士は、早速公表した。すると、そんな今までに聞いたこともないロボットを一目見たいと、世界中から取材の電話がかかった。偉大な発明だと囃し立てる者もいた。しかし、博士は取材の交渉を全て受け入れてしまったため、毎日博士は取材を受ける日々を送る羽目になってしまった。
そして数ヵ月の間取材をされ続け、とうとう今日の夜。最後の取材班が到着しようとしていた。博士が準備をする間にインターホンの音がなる。博士は焦り、準備をしながら
「どうぞ、お入り下さい」
と言った。取材班が玄関で靴を脱ぎ、廊下を歩いて、目の前のドアを開ける寸前。博士はようやく準備が整った。取材班が博士の部屋に入る。機材や他の発明品が多く置かれていたので、部屋の中は狭かった。取材班は向かいの席に座り、早速質問をする。
「なぜこのような物を作ったのですか?」
すると無機質に、こう答えた。
「単なる好奇心です。昔から、ヒトとロボットが見分けれなくなるぐらいの物を作りたかったので」
しばらく書き込み、また質問を投げかける。
「脳の提供者はよく見つかりましたね」
「心優しい青年ですよ。さっき言った理由もあるかもしれませんが、彼のためにこのロボットを作ったと言うのも、一つの理由かも知れません」
「なるほど…では、早速そのロボットを見せてもらうことは、可能ですか?」
「勿論です。どうぞ」
手を叩いて数秒。奥の扉からそれは現れた。ギクシャクとした動きもせずに、あくまで自然に動いている。取材班は目を疑い、何度も凝視した。
「今の『どうぞ』と言う声と手を叩く音。これに反応したのです。これが、私の発明品です」
取材班はしばらく眺めていたが、時間になったようでいそいそと帰っていった。戸が閉まり、少しの静けさが辺りを包み込むと同時に、席に座っているロボットはだらりと手を降ろし、立ちっぱなしだった博士はため息をつきこう言った。
「やれやれ。あそこまで見ても、どちらが本当のロボットか分からないとは。私は本当に偉大な発明をしてしまったのかもしれない」
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