模型


 中学の頃といえば、校内でも登下校時でも、友人たちと顔を合わせては、ずっと鉄道や鉄道模型の話をしていた気がする。


 よくも話題が尽きなかったものだが、運動クラブに所属したり、ひたすら勉強に取り組んだりするというのでなくても、それはそれで青春だったのだろう。


 お気づきの方もおろうが、鉄道模型といってもNゲージではなく、HO(16番)の方ですぜ。


 おそらく私たちが、NからHOへ転向したのではなく、購入するなら始めからHO一本、

(…というよりも、まだNゲージは存在していなかった)

 という最後の世代であろう。


 ボール紙を使って電車の模型を製作するというのも、実は大変だった。


「資料がなかった?」


 いえ、ありました。当時から模型雑誌に図面が載っていてね。

 ただし縮尺が80分の1の図面であるとは限らず、車両によっては180分の1の形式図から作る場合もある。


「模型店に部品を売ってなかった? そもそも模型店が少なかった?」


 模型店は今よりもたくさんあった。デパートにも売り場があるし、パーツも大概のものはそろう。

 模型用の塗料も、鉄道車両用に調色したものがすでに売られていた。ただしコンプレッサーを持っている人はさすがに少数で、スプレー缶入りの塗料が発売されるまでは、筆塗りが多かった。


「じゃあなんで苦労する?」


 電卓がないのじゃ。

 180分の1の形式図があって、窓などの寸法が詳細に記入してあったとしても、それをいちいち全部80で割らなくちゃならない。

 その計算を、紙と鉛筆で何回繰り返す必要があることか。

 信じがたいことかもしれないが、ある模型雑誌は紙面を1ページ費やして、80分の1の「換算表」を載せたことがある。

どんなものかというと例えば、


990 →12・4

1000→12・5

1010→12・6


 と80で割り算をした結果がズラリと書いてある。

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