二章

第7話 嘘つき




さっき、龍と明人と学食に向かってる途中でヤンキーに絡まれてる可愛い女の子二人組を見つけた。


一人はショートでもう一人はボブの子だ。

確か…身長はボブの子の方が高かったかな?

で、ヤンキーが怖いのか、ショートの子がボブの子にぴったりくっついてたんだけどそれがクッソ可愛かったんだ……!


で、この俺が止めに行ってイケメンオーラ浴びせてやろうとした途端さ、龍馬が「僕が行く。」って言ってヤンキーを撃退しやがった!


今回ばかりはお前に完敗だって心の中で思ったわ。

やっぱあいつはいつかやると思ってたんだよな。




…やっぱすげえ、あの女の言う通りになりやがった。


その後、学食に女の子二人を合わせた5人で行く事になって、途中で女の子達と待ち合わせしてた朱里と合流したんだ。

今は、龍とショートの女の子が、大切な話があるみたいで、俺らとちょっと離れたとこにいる。


やっと龍に春が来た!

あいつマジでいい奴で、見た目も中身もイケメンなのに周りの奴らが全く気付かねえから焦ってたんだよなぁ…。

親友として、あいつが独り身で人生終えるのだけはやめて欲しかったからラッキーだな!

俺やってみたいんだよなー!龍の結婚式の付添人!

…って、ちょっと気が早すぎるか。



で、今俺は朱里と、朱里の友達のボブの子と明人と俺で話す事にしたんだ。

ハンバーグを席に運び、手をつける前に俺から自己紹介をする。

「俺の名前は智明!誕生日は10月14日!趣味は音楽鑑賞とゲームな!!」

と、手を挙げ笑顔で言うと、乗ってくれた朱里が自己紹介を始めた。


「私は朱里!趣味はほぼ智明と一緒!ほら!次晶ちゃんやりな!」

と、ウザいくらいの笑顔でボブの子の肩をトントン叩く朱里。


その子の自己紹介を聞きながら、ハンバーグを箸で切り分ける。

「うち…あ、違う…私は…晶って言います、趣味は…アニメ鑑賞と読書…です、よろしく…!」

と、あわあわしながら訛りを隠そうとする晶。


「別に俺らが訛ってねえからって隠す必要無いぜ?気にすんな、晶って名前かっけえな!」

笑顔で言うと、嬉しそうに「やろ!?」と言った。

やっぱ、かわいい奴には笑顔が似合うな。

…関西弁良いな…俺も今度龍に話しかける時訛ってみよ。


…おっと、そうだ。

「明人、お前も自己紹介してみろよ」

焼きそばをもしゃもしゃ食べている明人の肩をトントンと叩くと、少し驚いてから、焼きそばをゆっくりも飲み込み

「…明人…です…趣味は…リズムゲームです…。」

と、指で口の端を拭きながら呟いた。

すると、晶が齧ったからあげを急いで飲み込んでから少し身を乗り出し、

「リズムゲーム…!我がソウルメイトよリズムゲームも好きなのかい…!?」

と、明人の発したリズムゲームという単語に食らいついた。

ソウルメイト…?へー、知り合いだったのか。


「うん…あの、最近病み曲大量に追加されたやつあるじゃん…?あれ最近すっごいハマってる…んだ…。」

身を乗り出し、瞳をキラキラと輝かせる晶に向かって、もじもじと照れ臭そうにタメ口でゆっくりと話す明人。

晶は、その明人の言葉をゆっくりと確かめるように聞きながら何回も頷き

「あのアーケードのやつ?あれうちもハマってるねん…!今度一緒にやりに行こうや!コンボ数競お…!?」

と、笑顔で誘った。

すると、明人は嬉しそうににっこり笑って「うん。」と呟き頷いた。


…お?……お…?

「おー?なんだー?明人にも春が来たのかー!?」

と冗談半分で言ってみると、少しだけ拗ねたように

「そんな目で見てないよ…」

と、急いで否定した。


あー…こりゃあモテるのも時間の問題かな……。

沢田智明、16にして初めての敗北を知る。




飯を食い終わり、晶と連絡先を交換する事になった。

「智明君アイコン自撮りなんや!パリピやな!」

「なんだそれ…お前もアイコン自撮りじゃねえか…。」

「お人形さんみたいで可愛いやろ?」

「はいはい可愛い可愛い。」

…こいつも絶対モテるんだろうなぁ、オーラと話のノリで分かる。


なんて事を考えながら晶の自撮りを見ていると、、ふと龍が言っていたことを思い出した。

「あー、そういや晶ってクラス表のとこ居たよな、あの時のお礼直接言ってくれよ!」


と冗談半分で言うと、笑顔でこう言った。

「あの時は助かった、ありがとう。」



…今気付いたけど…こいつ、結構綺麗な顔してんな…。

「素直な奴はモテるぞー!?」

笑いながら肩をポンポン叩くと、晶も俺の真似をして、

「ならうちは明日イケメンと美女を囲んでパーティーできるな!」

と、俺の肩をポンポンと叩きながら冗談のようにそう言い、クスクスと笑った。



すると、横から朱里が割り込み

「晶ちゃんモテるんだよ、男にも女にも。」

と、言った。

やっぱりな、俺の勘は当たってた。

……ん?男にも女にも?

へぇ、すげえじゃねえか…。

すると、晶が朱里の言葉を聞き、慌てて否定し始めた。

「違うって朱里!ただ「晶ちゃんになら抱かれていい!」って言われるだけで…。」

「完璧惚れられてんじゃねえか。」








目の前に、夢に出てきた女の子とそっくりな子が座ってる。

現実なのに、夢みたいだ。

ハンバーグをお箸で切り分けていると、目の前の女の子がサンドウィッチを手に持ち、


「…現実味がなくて、信じられないかもしれないけど、聞いてくれる?」

と、手元を見つめながら、恐る恐る呟いた。


「…今の僕には君を信じる事しかできないよ。」

女の子の方をじっと見つめてそう言うと、ゆっくり瞬きをしてからそっと話し始めた。


「…もし…夢を操れたらどうする?」

夢を…?

「明晰夢って事?」

と尋ねて、ハンバーグを口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。

すると、少し首を振りこう言った。


「似てるけど違うんだ…私はね、毎日真っ暗な夢を見るんだよ、そこには…条件があるんだけどね?自由に人を出入りさせられるし…自由に物を作れるし…夢の中でなんだって出来るんだ。」


「…そうなんだ。」

普通なら「羨ましい」と思うかもしれない。

でも、僕は彼女に同情していた。

夢で何でも出来るからって、現実が上手くいくわけじゃない。

それだけじゃなくて、一番怖いのは…


「…たまに、たまにね?…夢と現実の区別がつかなくなっちゃうんだ。」

と言い、苦しそうに笑う彼女。


うん、そりゃあそうだよね。

夢は妄想よりもリアルだもん。

だからこそ、区別がつかなくてリアルか夢か分からなくなるなんて当たり前だよ。

…毎日なら、尚更。


「…それは、能力か何かなの?」

と聞くと、少し考えてから口を開き、

「そうなのかも…いや、そうじゃなかったら…今頃解決してるだろうし…。」

と、また苦しそうに笑った。


彼女の言い方からして、病院や、カウンセリングに通ったりしたんだろうな、と想像できた。


…この子のこの表情、苦手だ。

僕まで心が締め付けられる。

お箸をぎゅっと握り、彼女を見つめていると、少し明るい顔で

「…でも君がいて良かった…君は自覚ないだろうけどね…。」

と、苦しそうじゃない、純粋な顔で笑った。


…やっぱり、さっきの笑顔より何倍もかわいい。

…あれ?でも、自覚がないってことは…僕も力を持ってるのかな…?

いや、そうじゃなきゃあの目のことは説明できない。

偶然とか、光の反射とかじゃない。

僕の目が直接光ったんだ。

あの、夢に出てくる怪物みたいに。


その時、ふと怪物のことを思い出した。


「ちょっと気持ち悪いかもしれないけど…聞いてくれる?」

と切り出すと、真剣な顔でゆっくりと頷いた。


その彼女の顔を見てから説明する。


「…夢でしょっちゅう君が出てくるんだけどね…君が僕の名前を呼んでから、おっきい怪物に変身するんだ。」


と言うと、少し驚き僕をじっと見つめた。


そして、ゆっくり口を開き、

「…松田、龍馬…君?」

と、僕の名前を呼んだ。


「やっぱりあれ君だったんだ!どうして僕の名前を知ってるの…?」

少し身を乗り出して聞くと、


「ちょっと複雑な話になっちゃうんだけどいいかな?」

と言い、首を傾げた。

頷き、彼女の説明を聞く。


「夢は、人の頭の中に登録された単語と、その時の体調と運勢からランダムで選ばれるシステムなんだ。」


…なるほど


「でも悪夢はちょっと違ってね?普通の夢と対してシステムは変わらないんだけど、悪夢は「悪夢」っていうジャンルなんだ、そのジャンル中にも色んな種類がある感じ。」


と言い終わってから、サンドウィッチを一口かじる女の子。


「…?」

理解出来なくて、少し首を傾げると、間を置いてから

「ちょっと違うかもしれないけど…夢はオリキャラ創作で、悪夢は二次創作…?」

といい、彼女も首を傾げた。

…オタクなんだ。


彼女の説明で、本当に、何となくだけどわかった気がする。


「どうして悪夢だけは違うのかな?」

素朴な疑問をぶつけると、ゆっくりとサンドウィッチを飲み込んでから


「好きな物は違っても怖い夢は大体一緒でしょ?真っ暗闇でおっきい怪物に追いかけられたら誰だって恐怖で逃げるし。」

と言い、にっこりと微笑んだ。


「私は言っちゃえば悪夢専門なんだ、「人の悪夢」っていうアニメに二次創作として「私の夢」ってタグを付けて投稿してる感じ!」


……この例え気に入ったんだろうなぁ…。


「なるほど…」

と言いながら頷くと、少しにっこりしてからまた真剣な顔になり


「で、何で名前を知ってるかって話なんだけどね?私が名前を知ってる人じゃないと夢の中に入れないんだ。」


と、小声で説明してくれた。

「なるほど…じゃあ…入ろうと思えば…朱里さんの夢にも入れるって事?」

「入れるよ!…でもね…私、君と会った記憶があんまりないんだ、ただ名前だけを知ってる…みたいな。」

サンドウィッチをお弁当箱の中に置き、少し申し訳なさそうに笑う彼女。


「なら、どうしていつも僕を襲わせてるの?悪夢だから?」


話を聞いたときから気になっていた事を尋ねると、小さく笑ってこう言った。

「ふふ、ごめん…この子反応楽しいなって思っていじめてた…。」

「えぇええ!!??」


そんな…意地悪だな…。

彼女の言葉に驚くと、嬉しそうにケラケラ笑い

「一昨日…「…乗ったな、怪物め…」…って言ってたよね?」

「ぬああ…!?」

「言っとくけどあれ悪夢だよ…?何楽しんでるの…ふふ…」


と、一昨日の夢のことを馬鹿にし始めた。


ど…どうしよう…すっごい恥ずかしいんだけど…

「「俺は死んでもここを動かないぜェ…」って…ふふふ…男の子だね…」

「やめて!!お…怒られたいの…!?」

と言っても、悪びれる様子もなくケラケラと笑う女の子。

「ごめんごめん…笑わせないで…ふふふ…。」


もう…恥ずかしいなぁ…。


俯き、恥ずかしさを隠すようにご飯を口にいっぱい運んでいると、女の子が大きく息を吐いてから

「…君に会えたら話そうと思ってたことがあるんだ。」

と、真剣な表情で話し始めた。


「君の能力はどんな能力なのか、夢で試してみていい?」


…僕の、能力…か。

まぁ…知って損する事は無いと思うし…。

…欲を言えば、もう少しだけ話していたいけど…。

なんて事を考えながら女の子へ視線を移動させると、僕の目をじっと見つめ、僕の言葉をじっと待っていた。。


ご飯をゆっくり飲み込み、

そんな彼女に、僕が言った言葉は。


「…その代わり、君の事沢山教えて?まずは…君の名前。」



「…池崎、池崎…彩。」




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