第5話 俺様
ゲームが終わってから、ゲームセンター前のベンチに座りしばらく雑談していると、智明から『メダルゲームんとこで待つ!2人で来いよ!』という雑なメッセージが来たから、明人君と二人で、メダルゲームのコーナーに向かう事にした。
「別に僕らが行く必要なくない?中央地点で合流すれば良いのに…」
『まぁ別に良いけどさ』と最後に付け加え、智明への文句を言ってみると、明人君が少し笑ってから
「よく分かりませんけど…多分智明なりの優しさですよ…」
と、答えてくれた。
「…そっか…」
…さっきの音ゲーのおかげで、少しは打ち解けた感じがするけど…まだ距離がある感じがするな。
僕自身もまだ明人君とは打ち解けられてない感じがするし…。
会ってから1日しか経ってないから仕方ないのかもしれないけどね。
…もしかして、智明はそれを分かってて『2人で来いよ!』って言ってくれたのかな。
だとしたら…優しいなあ、本当に。
智明は何も考えてなさそうだけど、結構周り見てるもんね。
「…あの、龍馬さん。」
智明の事を考えていると、気まずそうに明人君が口を開いた。
「…?どうしたの?」
首を傾げながらそっと明人君の顔を覗き込むと、
「…さっきの舌打ちのこと、智明には内緒にしててください。」
と言い、少し困ったような顔で笑った。
「良いけど…どうして?」
まぁ、何となく気持ちは分かるけど…。
疑問をぶつけると、少し驚き、目をゆっくりと逸らしてしまった。
…言いたくないのかな。
と思い、そっと明人君から視線を逸らすと、小さな声でボソリと答えてくれた。
「…もし…智明に「俺もゲームしてっ時暴言めっちゃ吐くから仲間だな!イヒヒヒヒ!」って言われたら…その…困っちゃうので…。」
「あー…なるほどね…」
「…お願いします。」
言い終わると、鞄の持ち手をぎゅっと握りしめ、少しだけ耳を赤くして俯いてしまった。
「良いよ!了解!僕ら2人の秘密だね!」
と言うと、嬉しそうに「はい」と返事してくれた。
…明人君のモノマネが似すぎて内容が入って来なかった…なんて言ったら怒られちゃうよね。
メダルゲームのコーナーに着き、智明を探していると、遠くの方で子供たちに囲まれている智明を見つけた。
本当智明って誰とでも仲良くなれるよね…羨ましいな。
昔からずっと思ってたけど…智明って良いお父さんになりそうだな。
するとその時、小さい女の子が僕らを指差して智明に何かを伝えると、智明が振り向き、僕たち2人に向かって手をぶんぶんと振ってきた。
子供達に謝りながら智明の近くに行くと、
「なぁ!龍と明人!聞いてくれよ!俺子供達に大人気なんだ!!」
と、朝のようにまぶしすぎる笑顔で嬉しそうにこう言って来た。
「見てたら分かるよ…で?今日は調子どう?」
首を傾げながら智明の肩をそっと掴むと、
「最高!今までで一番良いわ!だって200円しか使ってないのにこんなにいっぱい!やばくね?」
と、メダルの沢山入ったカップを嬉しそうに見せてくれた。
「おおー!良かったね!」
今日は運が向いてたんだ…良かった。
智明もたまにはやるじゃん!
と感心していると、小さい女の子が智明に向かって
「おにーちゃん!おとなのけんりょくつかったくせになにいってるのー?」
と言い、智明の顔がみるみるうちに青ざめていった。
…あー、なるほど。
智明は智明だ、昔から一切変わってない。
すると、智明が口を揃えて「大人の権力おじさん」と言っている子供達や僕に対し
「おい!黙ってろって言っただろ!くそ…ちょっと預けてくるから待ってろよお前ら!!」
と言い残してから、メダルを預けに行った。
…僕らが来る前に預けとけよ…。
…そういえば…明人君は…?
さっきから何も喋らない明人君を不安に思い、周りを見渡すと小さめの広場のような場所で、子供達に囲まれている明人君を見つけた。
「おにーちゃん、なんでそんなに髪の毛長いのー?」
「女の子みたい!」
と、明人君の髪や服を触りながら口々に言う女の子や男の子達。
「えっと…あんまり…自分が好きじゃないから…かな…?」
そんな子供達の手を優しく握り、ゆっくりと首を傾げる明人君。
「なんでー?」
「…その…えっと…」
明人君が少し困り、言葉に詰まっていると、他の子達が
「おにーちゃんのお顔見たいー!」
と言い、明人君の服をくいくいと引っ張った。
その子たちを見て少し嬉しそうに笑った後、前髪を少し分け、子供達にそっと自分の顔を見せる明人君。
「……顔…見えるかな…?」
すると、子供達が顔を見て、また
「何でお顔隠してるの?」
と、同じ質問をした。
すると、明人君が前髪を戻し、
「…今よりもうちょっと自分の事を好きになれたら…前髪を切るか分けるかするから…その時までこのままで居させてくれるかな…?」
と言うと、子供達が「はーい!」と返事した。
…良いお父さんになりそうだな、明人君。
……僕もいつかいいお父さんになれるかな。
智明がメダルを預け終わり、バイトまでの暇を潰すために、さっきまで明人君と座っていた、自販機の前にあるベンチに座る事になった。
明人君の右隣に座ると、智明が僕の右隣に座り、まるで怖い話をする時のようなテンションでこんな事を言い始めた。
「新学期…新しく出来た友達と集まってする事とすりゃあ……恋バナだよな。」
「ごめん智明、ちょっと良く分かんない。」
「分かんなくていい、よし、まずは龍馬からだな、好きな子誰だ?」
「うぇえ!?」
しまった、唐突すぎて何にも考えてなかった。
いつもなら「いないよ」って答えて、智明がちょっとだけ残念そうに「そっか、出来たら教えろよ」って言って話が終わるのに全く何も考えてなかった。
挙げ句の果てには「うぇえ!?」って何。
好きな子居なきゃこんなリアクションしないじゃん。
……なんか…マジで嫌な予感がする…。
恐る恐る、僕の右隣に座っている智明へ視線を移動させると、目をキラキラと輝かせながら小さな声で「いるんだな…?」と呟いていた。
「そ…そんなん…いないし…」
こらこら僕のバカ、こんな言い方好きな子がいる奴しかしない。
でも困ったな…僕本当に好きな子なんて居ないんだけど…。
まぁ気になる子は多少居るけどね…。
バイト先にいる女の子とか……あとクラス表の時に会った子とか…。
……あと。
と、色々考えていた時、夢に出てくる女の子の顔が浮かび、何故か妙に引っかかった。
…あれ…もしかして僕…あの女の子の事が気になってる…?
でも夢でしか会えないし…まだ6歳くらいの女の子で……ひょっとして僕ロリコン…?
でも、もし…あの子と本当に会えたら…。
……確信が、持てるかも。
まぁ、そんな簡単に会えるわけないんだけど。
……会えたらいいな。
会えたら、きっと…。
「…龍馬?」
「ん…?な…何…?」
しまった、黙り込んじゃった。
こんな僕智明に見せたくなかった…。
質問攻めされるんだろうなぁ、と覚悟していると、何かを察したのかゆっくりと微笑んでから、僕の隣にいる明人君へ話を振った。
「明人はいるか?」
すると、明人君が少し黙り込んでから…ゆっくりと頷いた。
「おおお!マジで!?同じ学年!?」
「は……はい…」
「マジかよ!髪はどんくらいの長さ!?背は高いか!?低いか!?」
「えぇ………」
よくそんなに質問が出てくるな…。
羨ましいよ。
でも明人君を困らせてるのは頂けないな。
なんて事を考えていると、智明のポケットに入ってる携帯が震え、
「……あー…すまん、電話。」
と言いながら立ち上がり、携帯を取り出して画面を操作し始めた。
「女の子?」
と聞くと、ドヤ顔で
「あぁ、すまんな野郎共!!………すまねえ、なんだっけ?」
と言ってから携帯を耳に当て、少し離れてから、電話の向こうの女の子と話し始めた。
智明から視線を外して、僕の隣にいる明人君を見てみると、じっとこちらを見つめていた。
「…?どうしたの?」
と聞くと、僕の前髪をちょいちょいと指差しこう言ってきた。
「…なんか…髪の毛に埃が…」
「え?どこ?」
しまった、鏡見ときゃ良かった…。
くそ、かっこ悪いなぁ僕…。
「どこについてる…?こっち?」
と言いながら自分の髪を触っていると、明人君が少しだけこっちに寄ってきて、髪の毛の埃を取ってくれた。
「ごめんね、ありがとう…。」
「…いえ。」
明人君にお礼を言うと、元の位置に戻り、またぐっと俯いてしまった。
すると、その時、智明が電話している相手に
「あいつが…?いや、ありえねえって!本気で言ってんのか?」
と言いながら、電話の相手には伝わらないというのにかなり大きな動作で否定し始めた。
僕なら受話器の前でお辞儀したって伝わんないだろうけど…智明なら伝わってそうだな。
…何の話してたんだろ。
もしかして何かまずい事でもあったのかな。
「すまんすまん!ちょい盛り上がっちまった!」
「良いよ良いよ、なんのお話ししてたの?」
と聞くと、少し怯えたようにこう言い始めた。
「いや、お前は知らない方がいい…お前まだ赤ちゃんがどこからくるか知らねえだろ…?コウノトリさんが運んでくるんじゃねえぞ?」
「智明の中での僕は幼児なの?」
…智明の周りの人は僕と違って進んでるんだなぁ。
「言っとくけどキスでもねえぞー?」
「その話はもういいよ。」
智明の下ネタトークを強引に終わらせると、明人君が小さな声で、カバンから携帯を取り出し、恐らく僕にムカって
「…あの……ID…交換しませんか…?」
と、言ってくれた。
すると、智明が明人君に向けて、いつもより低い、所謂「イケボ」でこんな事を言い始めた。
「おー!明人―!このイケメンな俺様からメッセージアプリのIDを聞くなんて…明人にとっては今世紀最大のy…。」
「すみません、龍馬さんに対して言ったんです。」
その智明をズバッと切り捨てるように低い声で否定する明人君。
「……いや、こちらこそ…サーセン…。」
明人君とIDを交換し、(智明もちゃんと交換してもらった)三人で色々お話ししていると、時間があっという間に過ぎ、バイトまであと20分だという事に気付いた。
「ごめん…後20分でバイトだ…。」
と言いながら立ち上がると明人君も立ち上がり、こう言ってくれた。
「じゃあ…近くまで送って行きますよ…智明もそれでいい…?」
「おう、最初っからそのつもりだったけど?」
「本当に良いの?ありがとう…!」
2人とも優しいな…。
2人の優しさにほっこりしていると、さっきまで携帯をいじってた智明が突然
「まじか!!!!」と叫んだ。
「?え?どしたの?」
慌てて智明へ視線を移動させると、
「一片のくじ今日からだってよ!龍馬の働いてるコンビニだよな!?」
と言いながら携帯画面を指差した。
「うん…確か店長も今日入荷するって言ってたような…。」
ゆっくりと思い出しながら智明にそう伝えると、ニヤニヤしながら立ち上がり、僕の肩をぺしぺし叩いてから
「うわぁまじかよ!行っていいか?龍馬のレジには並ばねえからさぁ!!」
と、言ってきた。
「いや…そんなに気使わなくていいよ…。」
…あ、そうだ…明人君も一片好きだったよね…?
「良かったら明人君もおいでよ、ほら…アリスの景品かわいいよ?」
と言ってみると、嬉しそうに何回も頷いてくれた。
「はい…!お邪魔させてもらいます……。」
バイト先に到着し、制服に着替えレジに出ると、丁度同じくらいのタイミングであの2人が店に入って来た。
「…!」
おい馬鹿明…ヘラヘラしながら小さく手降ってこないでよ…別に良いけどさ…。
「いりゃっ…い…いらっしゃいませ…」
あぁもう、噛んだじゃん。
あんまり人がいなくて良かった…。
すると、僕と同じ時間にシフトに入っているアルバイトの女の子が、智明を見てから僕にこっそりとこう尋ねてきた。
「…松田君、もしかしてあのイケメンと知り合いなの…?」
…イケメン死すべし。
「…はい、幼馴染ですよ。」
と、智明をこっそりと見つめている女の子にこう答えると、申し訳なさそうに手を合わせてこうお願いをしてきた。
「おねがい…あの人の連絡先教えてくれないかな…?」
「あぁ…そ…それは……」
何も言わずに教えるわけにはいかないよね…。
なんて言えばいいんだろ…まぁ…普通でいいか…。
「いや…番号を教えるのはあいつの許可を取ってからじゃないと…。」
と、僕をじっと見つめている女の子に言ってみると、残念そうに下唇を突き出しながら「仕方ないか…」と、納得してくれた。
…若干嫌な予感がするのは気のせいだよね…。
…そう思う事にしよう。
すると、ちょうどいいタイミングで、智明が一片の報いのクジを二枚レジに持って来た。
「クロエの景品が当たるように祈ってくれ!!」
「はいはい…。」
智明から1500円受け取り、100円とレシートを返す。
そしてクジをめくると、
「D賞アクリルキーホルダー」と書いてあった。
2枚目も全く同じ。
…運ないなぁ。
少し残念そうな顔をする智明の前に、レジの後ろにある、アクキーが一つ一つ個装されたものが10個まとめて並べて入れてある箱を置く。
「彩華とクロエが出たらいいね!」
『んー…』と低い声で唸る智明を勇気付けるためにこう言うと
「おう!ありがと!!じゃあ…これと、これ!」
一番前と一番後ろを取り、僕に手を振りながら店から出て行った。
箱を後ろに戻し、明人君を接客する。
「いらっしゃいませ、二枚でいいかな?」
「…はい、」
1400円受け取り、レシートを渡してからくじをめくる。
…アリスの何かが当たりますように…。
すると、くじには智明と同じ文字が書いてあった。
二枚とも。
「…アリスが出ること祈ってるよ。」
箱を前に置くと、じっと見つめてから、真ん中と前から2番目の箱を取ってから
「…ありがとうございます。」
少し微笑み、智明と同じく店を出た。
2人とも好きなキャラ出たらいいな…。
…僕も帰り2枚引こう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます