第129話 内閣総理大臣

「谷部慶秀です」

「四宮渉と申します」


 今、俺の対面に居るのは第98代内閣総理大臣。

現職の総理である。


「君の噂は色々聞いているよ。何を飲むかね?」

「総理と同じものを」


 しばらくして、俺の元に日本酒が届けられる。


「頂きます」

「うむ、乾杯」


 総理と食事をするのは流石に緊張する。

隣を見ると、佐藤さんは何食わぬ顔で日本酒を煽っている。


「実は、ずっと会いたいと思っていたんだ。森のやつとは仲良いんだろ?」

「はい、大臣とは仲良くさせていただいております」


 森誠吉、谷部内閣で初めて閣僚入りした文部科学大臣である。

中々に熱い男で今まで先送りしていた案件を次々に進めて行った。


 子供を持つ親の世代から圧倒的な支持を得ているのが森清吉である。


「あいつとは、議員になったのが同期でな。あの頃は2人とも若くて随分無茶やったもんだ」

「森大臣に関しては今もだと思いますけど……」

「ははは、君いいね。その通りだと思う。あいつの熱はまだ冷めて無いんだよな」


 政治の世界に長く居ると、少なからずその世界に染まっていくことが多い。

しかし、森大臣は染まることなく、自分の正義を貫いている。


 そんな大臣から総理の話は何度か聞いていた。


「総理の話も聞いてますよ。とても優しい人だと」

「ありがとう。でも、政治の世界じゃ優しさだけではやっていけないんだけどな」


 優しいというのは、逆を言えば利用されやすいということでもある。

だから、優しさだけではダメなのであろう。


「四宮くん、君の話は閣僚たちの中でも上がっているんだ。だから、一度会ってみたいと思っていた」

「恐縮です」

「君は各方面に人脈を持っているらしいね」

「ありがたいことに、いろんなご縁を繋がせてもらってます」


 閣僚たちの間でも話に上がるとは、どこまで俺の名前は1人歩きしているのだろうか。


「会ってみて確信したよ。君は信頼に置ける男だ」

「そんなに簡単に信用していいんですか?」

「これでも政治の世界に40年居るんだ。人を見る目は養っているつもりだ」


 谷部総理は、戦後最年少で総理大臣に就任した凄腕である。

今、俺はそんな人に認められたのである。


「君に一つお願いがあるんだ」

「何でしょうか?」

「君のプロデュースするアイドル、Whiteさんをクールジャパンアンバサダーに任命させてくれないだろうか?」


 クールジャパンアンバサダーとは、日本の魅力をクールジャパンとして発信力がある日本人や日本ファンにお願いして情報発信することが目的である。


 先日、超人気のコスプレイヤーさんが就任して話題になっていた。


「コスプレイヤーの次はアイドルですか?」

「そうだ。アイドルを起用するのは初めてだが、その初めては君の所のアイドルがいいと思ってな。発信力も十分にあるだろう」


 White全体の総フォロワーは150万人を超えている。


「ありがとうございます。ぜひ、お引き受けさせてください」

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