◆三首目 親友との高校生活は色々と困る

「本当すみませんでした! ほら、お前も謝れってのっ」

「ぶーっ……スミマセンデシター」

 俺と桃亜は放課後、職員室で今朝の入学式の件をみっちり叱られた。

 ようやく担任に解放されて職員室を出るが、桃亜は納得いってない様子で歩き出しながら不満を口にする。

「ったく、何だよもう。ボク、そんなに悪いことしてなくね? 奏治と予想外な場面で再会できたから、嬉しくてちょっと挨拶しただけじゃん……」

 桃亜のやつ、俺との再会に水を差されたのがよっぽど許せないらしいな。

 子供みたいなふくれっ面で眉間に皺を寄せている。

 邪魔をされて怒るほど、俺との再会を楽しみにしていたんだろう。

(なにせ五年ぶりだもんな……)

 そう思うと、今朝のことは最悪なアクシデントには違いないのだが許せる気がした。

 俺は恨み言を言うつもりだったが水に流すことにして微笑む。

「ほら桃亜、やっと再会できたんだ。運よく同じクラスでもあったわけだし、そんな顔してないで笑えよ。俺たちが大好きなかるただって、これから一緒にやれるんだぞ?」

 俺は入学式の最中に失神した後、保健室ですぐに目覚めて自分の教室へと戻った。だが入学初日とあって昼までの予定はぱんぱんで、桃亜と話す機会はなかった。

 帰りのホームルーム後は二人仲良く担任に連行されたので、今日桃亜と落ち着いて話すのはこれが初めてだったりする。

 こいつもこいつで、これ以上久々の再会を台無しにしたくなかったんだろう。

 桃亜は溜め息をついた後、ご機嫌な様子で俺の前へと回った。

「にひひ~っ。そっか、また一緒にかるたできるんだもんな。そんじゃ奏治、再開やり直し! んっ」

 中性的な笑顔を浮かべて心底嬉しそうにする桃亜が、握った拳を頭上に掲げる。

(俺の身長があの頃よりも伸びた分、位置が低くなったな)

 感慨深げに思いながら、俺も同じように拳を掲げた。

 そして、互いの前腕側面を軽くぶつけあった後、拳をこつんと合わせる。

 これは俺たちが好きだった忍者ライダーZOOのアトミックレオとナックルタイガーが、よく作中で絆を確かめ合う時にやっていたものだ。

 俺たちは昔からそれを真似して、何かあるごとに行っていた。

「奏治、今日からまたよろしくなっ!」

「ああ、俺の方こそ。前以上に、楽しいかるたライフを送ろうぜ」

「もちろんさっ! お預けくらった分、奏治とかるたやりまくって遊び尽くしてやる♪」

 桃亜が興奮した様子で頬を紅潮させ、少年のように快活な笑顔を浮かべる。

(へえ、またハグでもしてくるのかと思ったけど、入学式の時と違って意外と落ち着いてるな。まあもう高校生なわけだし、さすがにそうか。今朝のはあくまで興奮してたから昔みたいなことをしたわけで、現在の桃亜はこっちがデフォに違いない)

 きっと今朝みたいな事故はそうそう起こらないだろうし、平穏な学生生活が送れることだろう。俺は安易にそのように考え、ほっと胸を撫で下ろした。

 その後、桃亜は引っ越してきたばかりというのもあり、色々と生活する上での準備を整えたいということで俺たちは後日再会パーティーをすることを約束して別れたのだった。

 

 ◆◆◆


 翌朝、俺と桃亜は途中から駅が同じなので一緒に登校した。

 俺たちは小学校時代も二人仲良く登校していたのだが、その際、桃亜は肩を組んできたり、後ろから抱きついてみたり、妙な術をかましてみたりとやりたい放題だったので心配だったが、蓋を開けてみれば何のことはない。至って普通だった。

 今、桃亜は俺と同じ車両に乗り、男友達のようなフランクなノリで話しかけてくるだけで、周りが注目するような過度なスキンシップは一切とってこない。

(少し寂しい気はするが、これが思春期における異性の友人に対するあるべき姿だよな。この調子なら学校でも問題は起こさなそうだし、ひとまず安心だ)

 やはり入学式の件はついテンションが上がってハメを外し過ぎただけなんだろう。

 それにこの距離感でいてくれるなら、俺が桃亜を必要以上に異性と認識しなくて済むし、友情関係にひびが入る可能性は皆無で一石二鳥だ。

(今の桃亜は気を抜けば一人の魅力的な女子と見そうになるくらい可愛くなってるし……昔みたいにベタベタされたら本気でまずい。ずっとこの距離感を保ってもらわなきゃな)

 しかし、桃亜がいくら自制したところで、意図せぬ事故までは防ぎきれない。

 例えばそう、電車が急に揺れた時なんか。

「でね奏治、そっからの展開がもうすごくて──わっ」

「うお!?」

 ──ぼにゅっ。

 通勤ラッシュ時の満員電車なので俺たちは軽く触れあうくらいの距離で立っていたのだが、車両が揺れたせいで俺はドアを背にする桃亜に思いっきり寄りかかってしまう。おかげで巨峰のように張りのある絶賛発育中の果実を押し潰してしまっていた。

「っと、悪い……!」

 俺はすぐさま謝って距離をとる。

 しかし、桃亜はというと首を傾げており──

「んぇ? 奏治、なんでそんな離れてんの? ……ま、いいやっ。でさー、そこで主人公が今まで敵だった相手校のやつを助けんの! もう超熱くて最高なかるた漫画なんだ。今度貸してやるから奏治も読んでみてよ!」

 完全に漫画の話題に意識が向いてるようで、センシティブな部分に干渉されたというのに何一つ気にした素振りも見せず、こちらを見上げて興奮気味に語る。

(くぅぅ……桃亜のやつ、少しは気にしろよ。俺だけドキドキしてるとか意味わかんねえだろ。まあそれだけ、俺を友人として受け入れてるってことなのかもしれないけどよ)

 俺は頭を振って必死に気持ちを落ち着かせる。

(いいか、桃亜は女子ではあるが、あくまで俺の親友だ。絶対に異性として見るな)

 こいつとは一生友人関係でいて、一緒に大好きなかるたをやっていたい。そう強く思う俺は、関係を維持するためにも自分にそう言い聞かせて平静を保った。


 学校に着いてからも桃亜は荷物を置くなりすぐ俺の席へとやってきて互いに談笑を楽しんだ。最寄り駅で降りて登校する際もそうだったが、教室でも入学式の件があるので周囲がこちらを見て噂話をしているのが分かる。とはいえ俺たちは直接会って話せることが嬉しいあまり、延々と他愛もない話で盛り上がって全く気にはならなかった。

 そして朝のホームルーム中、俺の席の前に座る田中というロン毛の男が話しかけてくる。

「いやー、にしても臣守、お前ら本当にベタベタじゃん。マジで昨日は驚いたんだぜ? 既に学年トップレベルに可愛いと噂が立ってた巴さんと、壇上であんなことするんだからよ。周りの男子も羨ましがってたぞ。やっぱり何? 二人付き合ってんの?」

 田中は昨日の自己紹介の際に何となくキャラは掴んでいたが、誰とでもフランクに話せるコミュ力が高いやつのようで、こうして俺みたいな陰キャにも遠慮なく絡んでくる。

「俺と桃亜が付き合ってる? バカ、違えよ。あいつはあくまで友人で、男女の関係なんかじゃない。……あと悪いけど、俺は少しでも空き時間を勉強に回したいんだ。邪魔しないでくれると助かる」

「うわ、臣守ってばつれなすぎっしょ。つか勉強って、まだ授業もまともに始まってないのに気が早過ぎじゃん。……ま、でも巴さんの件は嘘を言ってるわけじゃないみたいだし、さんきゅな。つまり、俺らの誰かが狙ってもいいってわけか。燃えてきた!」

 ……やっぱり、桃亜のやつは男子の間で既に話題になってるみたいだな……。昔と比べて見違えるほど女らしくなってるし、放っておかれるわけないか。

 んー……しかしこの状況で桃亜が昨日みたいにハグでもしてこようものなら、学年の男子全員を完全に敵に回しそうな気がしてこえーな。まあ、今朝危なっかしい感じは見受けられなかったから、入学式の時のようなことはしないはずだが……。

「…………」

 ただ、俺は今の話を聞いて少し居心地の悪さを覚えていた。

(……何だろうなこの気持ち。もしかして俺……心配してるのか?)

 今渦巻いてる感情が友人をとられることを危惧してのものか、異性としてとられることを懸念してのものかは分からない。

 どちらにせよ、俺は桃亜が誰かに取られるのが嫌なのだけは間違いなかった。

(あいつのことだし、誰かにコクられたとしても付き合ったりはしないと思う)

 長年友人をやっているので、それは何となく分かる。だがそれでも心配になってしまうのだから、自分がどれだけ桃亜を大切に思っているかを実感する。


 しかし、先に結論を言ってしまうと俺の心配は全くの杞憂だった。

 なぜならあいつは、まるで他の男子など眼中にないとでも言わんばかりに、俺との親密ぶりを周囲にアピールしまくることになるのだから。

 例えば体育の授業前、何だか嬉しそうな桃亜が体操服を持って駆け寄ってきて──

「なあ奏治、体育一発目だけど、初回は百メートル走のタイム測るらしいぜっ。ボクと勝負して負けた方は購買の焼きそばパン奢るでどうよ!?」

「はは、懐かしいな。昔はかるた以外でもよく競争して何か賭けてたっけ。でも運動神経のいいお前と俺とじゃ、タイムで競うのはフェアじゃない。だからこうしようぜ。桃亜のベストタイムから三秒引き離されなかったら俺の勝ち。これなら俺にだって勝ち目はある」

「へ~……奏治、三秒でいいとか余裕じゃん? ハンデそんだけでいいの~?」

「桃亜こそ、あんまり余裕こいてると足を掬われるぞ」

「いいね、面白いじゃん! じゃあ奏治、早く着替えてグラウンド行こうぜっ!!」

「ああ、そんじゃ男子は教室で着替えることになってるから、お前は女子更衣室に──」

 ──ぬぎっ。

「ばっ……!!」

 教室の視線が一気に俺たちに集まったかと思うと、男女の悲鳴にも似たどよめきが湧き起こっていた。

 無理もない。桃亜のやつはあろうことか、俺の前でセーターを脱ごうとして、色の白い下腹部を露わにしていたのだ。引き締まったヘソ周りは異性をそそのかすには十分すぎるセクシーさを放っており、俺は顔を熱くして叫ぶ。

「バカやろう桃亜! 男子もいる場所で脱ぎ始めるやつがあるか──っ!!」

「? あぁ…………わはは。ごめんごめん、つい奏治の前だと癖で脱ぎ始めちゃうや~」

「ちょおまっ……!! 人前で何てことを!?」

 俺は急ぎ周囲を見渡す。

「ねえ、今の聞いた? やっぱりあの二人って付き合ってるのかな?」

「入学式の件もあるしそうでしょ。今の発言だって要するに……こ、こほんっ」

 女子たちは顔を赤らめながら噂話に花を咲かせており、一方男子はというと。

「臣守! 貴様っ!! さっき俺に男女の関係じゃないって言ったのは嘘だったのかよ! よくも、よくも俺たちの巴さんを──っ!」

 田中が涙ながらに吠えると共に、男子たちが殺気のこもった目で俺を睨んでいた。

「いや待て田中! 違うんだ! 俺と桃亜が特別な関係じゃないのは本当で! なあ、そうだよな桃亜!?」

「んあ? ボクにとって奏治は特別だけど? 今のはついうっかりだけど、ボクは奏治以外の男の前では脱いだりしないし。だって他の男に裸見られるの嫌だもん。キモイし」

 さらっとそう言い、男子たちが一斉に撃沈するのが分かった。

(特別って……──。いやいや! 今のはあくまで友人としてって意味だ。何で俺はドキドキしてんだよ。桃亜との関係を維持したいなら、女として見るのは絶対的にタブー……。こいつは俺の親友だ。間違っても変な目で見るんじゃない……!)

 とはいえ、この状況で周囲が正しく意味を受け取ってくれるわけがなかった。

「今の発言って臣守くんのことを好きで付き合ってるって認めたも同然だよね!?」

「うんうん、巴さんって入学式の時もそうだったけど、本当に大胆!」

 女子たちは今の台詞が決め手となり、完全に確信を深めて色めきたっていた。

 まあ今の発言を聞いて誤解するなと言う方が無理なので仕方がないことだ。

 俺は額に手を当て、世の無常を嘆くように天を仰ぐ。

(桃亜のアホ……今ので完全に誤解されたぞ)

 その証拠に、田中を始めとした男子たちは俺に対する決然たる意志を示すように、こちらを鋭く睨みつけている。

「殺す、絶対殺す臣守! お前だけは許さんからなーっ! この裏切りものめ!!」

 桃亜以外に友人を作ろうとは考えていなかったが、親友の振る舞いのせいで高校生活始まっていきなり同性に敵意を向けられる展開となり、さすがに俺も溜め息を漏らした。


 そしてさらに別の日、俺が購買前の自販機で新発売のジュースを買い、休み時間に教室で勉強していると、

「お、何だよそれ新発売のジュースだよな。俺にも一口くれよ」

 これは俺に対して言われた言葉ではなく、隣の席の男子たちの会話だ。

「仕方ないなー。本当に一口だけだぞ」

 まあ男友達同士であれば、よくある流れな気がする。

 昔、俺も桃亜と遊びに行った先でよくこんなことがあったものだ。けど今はお互い高校生だし、さすがに桃亜も間接キスなどは気にするはず。

 俺はそう思っていたのだが、日直の用事が終わって教室に戻ってきた桃亜が、すぐさまこちらへ駆け寄ってきて、

「あ、奏治、それって新発売のジュースじゃん! いいなぁ、ボクにも一口くれよ。ってわけで、いただきまーす!」

「はっ!? おい、俺はいいとは一言も……!」

「はむ……んちゅ♪」

 桃亜は俺がさっきまで口をつけていたストローに何の躊躇いもなく唇をつけると、美味そうに啜り始める。

「あ、あぁ……」

 今となっては男子の誰もが気にするレベルで可愛くなった桃亜と、間接的にとはいえキスをしている。そう思うと嫌でも桃亜を女だと意識してしまい、俺は顔を熱くしていく。

(桃亜のやつ、全く躊躇わずに俺の飲みかけを……。普通、年頃なら間接キスは気にするもんじゃないのか? なのに、嫌がる素振りすら見せないなんて……もしかしてこいつ──って……いかん、俺はまた変な考えを……! 桃亜はどこまでいっても俺の大事な友人だろ? それ以上でもそれ以下でもない。男女の友情は相手を異性として見ることで崩壊へ向かうんだ……。もう少ししっかりしろ。いいな俺?)

「ぷはーっ! うんめー何これ!? へえ、『もりっと元気ミラクルバナナオレ』っていうのか。ボクこれ気に入っちゃった。部活始まるまで一週間ほどあるけど、かるた部の活動始まったらカロリー必要になるし、覚えとこうっと。てわけで奏治、おかわり~!」

 俺が葛藤する中、桃亜は呑気なもので何事もなかったかのように無邪気に絡んでくる。

 さすがに俺はスルーできずに周りを気にしながら突っ込んでいた。

「おかわりじゃねえよ……! お前、何勝手に飲んでるんだっ。俺が口をつけたやつだぞ? 昔は別として、もう高校生なんだし少しは色々と気にしたらどうなんだ!?」

「はあ? 何? 照れてんの奏治?」

 桃亜がきょとんとし、俺の机に突っ伏す体勢となって上目遣いでこちらの様子を窺う。

(こいつ、マジで間接キスを何とも思ってないようだな。俺が何でこんなに照れてるのか全く分かってないって様子だ……。つか今回の件は百歩譲って許すとしても、こういう価値観だと他の男子にも同じことやって誤解を生みそうな気がして怖いんだが……)

 などと心配していると、桃亜がにかっと笑い、

「なあ奏治、それより勢いで全部飲んじゃったし、新しいやつ買いにいこうぜ。かなり美味かったし、もうちょっと飲みたいんだよね。ただ、一人で全部はいらないから、今みたいに一本を二人で分けようぜいっ」

「いや、いいって! お金ももったいねえし。それに、俺はお前とは回し飲みをしないっつの。分かったな?」

「えー、いいじゃん減るもんじゃないんだし。ジュース飲みたいー、回し飲みする~……」

 猫のように顎を机に乗せ、ジト目でぶーぶーと文句を垂れる桃亜。

 すると、今の発言を聞いた途端、男子たちが一斉に教室から出ていくのが見えた。

 男どもはすぐに戻ってくると、その手には『もりっと元気ミラクルバナナオレ』があった。男子はそれらをわざとらしく桃亜の傍で飲み始め、視線をちらちらと送ってくる。

(はは……こいつら)

 俺が呆れながら半笑いで男子たちを流し見ていると、その中にいた猛者が桃亜に声をかける。そう、ロン毛の田中だ。

「と、巴さん、よかったらその……俺の飲みかけでよかったらあげるけど!?」

「んあ?」

 桃亜は後ろから声をかけられ、軽く振り返る。

 しかし、田中の抜け駆けを許さんとばかりに、他の男子も桃亜の周りに一斉に群がる。

「巴さん! 俺もあのジュース買ったんだ! だから……よかったら俺のを!」

「ずるいぞお前! 巴さん、田中やこいつのじゃなくて僕のをぜひ!」

「待て、俺のを飲むべきだ巴さん! こいつら変なものでも入れてるかもしれないし!」

 アホなことを言い合い、次々と群がるバカどもを見て、さすがの桃亜も事情を察したんだろう。ゴキブリに向けるような目で男子たちを見た後、立ち上がってビシッと指を差して一喝する。

「言っとくけどなお前ら! ボクが回し飲みするのは仲がいい奏治とだけだ! 他の男子となんて気持ち悪くてできるわけないだろっ。べ───っ!!」

『────ッッッ!?』

 田中を始めとした男子たちが一斉に固まっていた。男どもは雷にでも撃たれたように崩れ落ち、戦意を喪失してがっくりと項垂れてしまう。

「お、おい桃亜……気持ちは分かるが、何もそこまで言わなくても」

「ふんっ。気持ち悪いのは本当じゃん? ボクは奏治じゃないとそういうのは嫌なんだ!」

「……桃亜」

 勘違いされてもおかしくない台詞を、恥ずかしげもなくきっぱりと言い切る。

「──…………はは」

 俺は親友のそんな様子を見て不思議と笑みが零れていた。

 ここまで臆面もなく言い切られると、誤解する余地もなく友人として見ての発言と理解できていっそ清々しかった。

(そうだよな、桃亜。こいつは本当に昔と何も変わらないし、俺を友人として見てくれている。……友達で居続けるためにも、俺も変な目で見ないようにしないと)

 俺は桃亜が他の男子なんか目に入らないくらい自分を友人として好いてくれていることが正直すごく嬉しかった。

(これだけ他の男子を拒絶して俺にべったりなら、やっぱり異性にコクられても受け入れたりしないだろうし、昔のように邪魔されずに二人の時間を満喫できそうだな)

 大事な親友を誰かにとられる心配がないと分かった俺は、不安が払拭されて心が軽くなる。きっと昔と同じく、いやそれ以上に二人で大好きなかるたを楽しめることだろう。

 俺は立ち上がると、男子たちにキレて不機嫌になっている桃亜へと声をかける。

「はぁ……わかったよ。飲み物買いにいこうぜ」

「え、マジで!? さっすが奏治、話が分かるじゃん♪ じゃ、回し飲みの旅へレッツゴー!」

 その後、俺たちは購買前にある自販機で『もりっと元気ミラクルバナナオレ』を買って回し飲んだ。

 俺が緊張する心を抑えて桃亜が口をつけたジュースを飲み干すと、あいつは嬉しそうに笑って「美味しかった?」と聞いてきたので頷く。

 桃亜は「ならよかった~」と呑気に言い、次の瞬間にはもう別の話題を振ってきていた。

 俺はしばらく、あいつの印象的な笑顔が頭から離れなかった。

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