試験結果!

 俺は合格した! といっても入試じゃない。

 春川すばるの公式ライバルとしての地位にだ。

 入試の結果とは無関係らしい。何の得があるやら、意味不明だ。


 ただし、春川すばるは巨乳! 見ているだけで楽しい気持ちになる。

 もし、カノジョになってくれたら……。

 どんなに楽しい毎日が待っていることだろう。


 いけない! 俺、完全に身体目当てじゃん……。



 面接試験を終えた俺はデバイスの指示に従い、5階に移動した。

 そこにある1室で独り、合格発表を待つ。

 小さな開かない窓があるけど、その奥は壁になっている。隣の部屋?


 1時間ほど経って、デバイスが全ての面接の終了を知らせた。

 3分後にはいよいよ合格発表だ。いやでも緊張する。

 俺は合格したんだろうか。それとも……ドキドキだ。


 デバイスの指示で、部屋にあるトイレで用をすませる。

 清掃が行き届いた清潔なトイレも、大きな鏡だけはいただけない。

 俺の全身を隈なく映し出すのだから。


 戻ってから黒いレザーの椅子に腰掛ける。社長の椅子みたいでイケてる。

 肘掛けに手を乗せると、左右の手指の辺りに小さい画面がある。

 何かを操作するのに用いるのだろう。


 決められた位置にデバイスを固定。

 自由に動かせるアームが付いているんだけど……。

 歯医者のライトみたいでウザい。

 

 もう1度、肘掛けに手を乗せると、自動でベルトがしまった。

 胴だけでなく、腕も脚も拘束された。

 こ、この姿勢……くすぐりの刑をされたらと不安になる。


 デバイスの画面が切り替わる。

 『肘掛けの画面をタップしてください』とメッセージが表示される。

 タップすれば合否確認できると思うと、鼓動がどんどんと速くなる。


 震える手でそっとタップ。画面は動かない。もう1度タップ。まただめだ。

 っえーい! 旧式かよ。しっかり反応しろよと、心の中で思う。


 デバイスのメッセージが『シングルタップです』に変わる。

 俺は「してるし。ずっとシングルのつもりですけど!」

 と、思わず文句を言ってしまう。


 手が震えているせいでダブルタップになってしまうだけだっての。


 手の震えを抑えて、もう1度シングルタップを試みる。

 これでダメなら諦めるしかない!

 

 と、ついに画面が切り替わる。今度はうまくいったようだ。

 俺は歯医者のライトみたいなデバイスの画面に釘付けになる。

 はじまったのは簡単なアニメーション。最初は満開の桜の画像。


 そこへ『格』の文字が左から流れてくる。画面中央やや右に止まる。

 続けて『合』の文字。ピタリと中央で静止する。イヤな位置だ……。

 2文字合わせて『合格』だけど……1文字追加されないか不安だ。


 案の定『不』の文字がゆっくりと左から登場。

 桜吹雪がおこり、茶色い木の幹が露出を増していく。

 だ、だめだ。桜、散るなーっ。『不』、止まるなーっ!


 俺の心の声が届いたのか『不』の文字は止まらなかった。

 よしっ! そのまま、いけぇーっ!


 が、『不』が『合格』の2文字をぐぐぐっと押しつぶそうとしている。

 『合格』は頑張っているが、その大きさは半分にまで圧縮されている。

 もうだめか。このまま押しつぶされるのか? そんなの、イヤだっ!


 俺は「『合格』、負けんなーっ!」と、思わず叫んだ。


 それに応じるように『合格』の2文字が『不』を弾き返した。

 『不』はその勢いで画面の左へと消えた。

 残った『合格』の2文字が、ゆっくりと中央へ移動する。


 桜も再び満開になる。これって!


——パンパカパーン、パンパンパンパーン


 なんて安いファンファーレ! 続けて「合格です」という機械の声。

 なんと人騒がせな合格発表だ! ドッと疲れが出た。


 その直後、俺は込み上げてくるものをおさえられなかった。


「やった! ついにやったぞ。合格だ。合格で間違いないんだーっ!」

 俺は見事に合格し、片高入学の切符を手にした。




 片高は、合格したら即、入寮。その言葉通り、俺は直ちに移動を開始。

 というよりも、拉致られた。なんと、部屋ごと動きはじめたんだ。

 どどどどどっという轟音が鳴り響く。底知れない恐怖を覚える。


 なんだぁーっ! どーなってるんだーっ! 俺、どーなっちゃうんだーっ!


 小さな開かない窓の外、景色がものすごい勢いで流れはじめる。

 野を越え、山を越え、谷を越えて進む。海にも潜った。空も飛んだ。


 そして、窓の外が真っ暗になった。

 より大きな乗り物の貨物室らしきに閉じ込められたようだ。

 一体、どこへ連れていかれるんだろう。不安しかない。


 モーターが高速回転する甲高い音がさらに不安をかき立てる。

 一時期、体重がグッと重くなったように感じる。


 安定すると今度は慣れない浮遊感が襲い、眠気を覚える。

 疲れたとはいえ、眠るほどではないはずなのに、俺は抗えなかった。




 目が覚めたとき、部屋は静止していた。

 俺はまだ同じ部屋の同じ椅子に腰掛けたまま。


 ただし、この部屋がどこにあるのかは大問題だ。

 日本だという保証もない。独りというのも不安で心細い。

 こんなとき、あいつが側にいてくれたら……。


 ベルトが音もなく外れる。自由に行動してもいいのだろうか。

 同伴受験した千秋も合格しているはず。合流するのが先決だ。


 それから、あいつの合否も気になる。

 合格してるなら、近くにいる可能性が高い。探さないと。


 俺は恐る恐る立ち上がり窓の外を見る。コンテナやバスが置かれている。

 ここは資材置き場か、それとも駐車場か、倉庫か。何ともいえない。


 そーっと部屋を出る。いつのまにか陽が傾いている。

 きれいな夕焼けは、明日の朝が晴れだということを教えてくれている。

 いや、それはここが日本である保証がないから成り立たないのか。


 部屋の外観を確認する。コンテナだ! と、俺は自分なりに納得した。

 部屋がコンテナなら、移動は簡単。

 向かいのコンテナにも人がいるだろう。


 と、その扉がウィーンと開く。出てきたのは……。

________________________

 さて、だれでしょうか? 続きをお楽しみに。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 これからも応援よろしくお願いいたします。

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