待合室は危険な気配
3階の広間。見渡す限り受験生。しかも男ばかり。身の危険を感じる。
と、いうことは、あいつもいるに違いない。
俺は欲情している男の視線をかわしつつ真壁を探した。
男がみんな集められているのなら、ここにいてもおかしくはない。
一緒に移動しなかっただけ、指示が別ルートだっただけってことだろう。
部屋の広さは中学の体育館程度。天井が低い分、圧迫感がある。
圧迫感といえば男子ども。こっちみんな、バーカ!
男子どもが邪魔で先へ進み辛いし、見通しが悪い。
男子特有のくっさい匂いまでする。最悪の環境だ。
そんな中での真壁の捜索は困難を極めた。どこを探しても真壁の姿はない。
真壁は一体、どこにいるんだろう。心配だ。
真壁も俺を探している可能性もあるぞ。あいつ、俺のこと好きだから。
だったら逆に、留まっている方が得策かもしれない。
俺はしばらくは歩きまわるのをやめた。
すると、受験生が何人も俺にはなしかけてきた。
もちろんみんな男子だ。俺の気を引こうとほめそやしている。
俺はメンズに全く興味がない。だからガン無視していた。
そんな中、真壁に劣らぬイケメンが現れた。
言い寄るのではなく、気さくにはなしかけてきた。
少しハスキーなイケボだ。ただのバカではなさそうだ。
「驚いた! 君は男なのかい?」
という、君も男なのかい? 髪は長いし。ま、俺の方が長いけど。
こういう、もの分かりのいいバカとは、是非お友達になりたい。
「あぁ、そうだとも! 俺は男だ。美少女じゃないぜ」
分かってくれて、ありがとう。うれしいよ。
長めの髪をビシッとまとめているのも好感が持てる。
「俺、すばるっていうんだ。よろしく!」
「俺は純。よろしく」
害はなさそうだ。俺たちは握手をした。
すばるの手は小さいのにとてもやわらかい。真壁のようだ。
おっと、いけない。つい真壁と比べてしまうのは、俺の悪い癖だ。
「折角、男に生まれたのに、どうして女の格好をしているんだい?」
と、すばるは素朴な疑問を投げかけたつもりだろう。
ときとしてそれが人を傷つけることを知ってほしい。
「……俺は、呪われているんだ……髪を切ると不幸になる」
「ふむふむ。そんな呪い、本当にあるのかい?」
こいつ、俺のこと疑ってやがる。心外だ!
「母さんが言うんだ。本当だろう」
「へぇ。君ってマザコンなの?」
ちがーうっ! 俺は断じてマザコンではない!
みんなは俺がお母さんの言いなりだって言う。
それはお母さんの怖さを知らないからだ。
1度でも『ふとんむしの刑』を食らったら、誰だって逆らえない。
「ち、違うから。片親だから大切にしているってだけだから」
「なるほど。真性のマザコンってわけだ」
こいつ、バカなのか? どう解析したらそういう結論が出るんだ。
バカに俺のことを分かってもらう必要もない。放っておこう。
このあとすばるは、バカ特有の話題転換をする。
「誰かを探しているようだけど、手伝おうか?」
す、鋭い。今の先決事項は真壁探し。
男ばっかりのこのフロアのどこかにいるだろう真壁を見つけること。
「それはありがたい。大親友を探してるんだ。名前は……」
真壁ひかると続けたかった。一緒に探してくれんならバカでもうれしい。
けど、すばるは徐にデバイスを取り出す。時刻を確認したようだ。
「いっけねぇ。もう直ぐ面接の時間だ」
と、バツが悪そうに言った。
ここは面接の待合室。面接に遅刻は厳禁だ。
「……そうか。なら、しかたない」
あてが外れて、残念。
「友情を育むのはあとだ。純、絶対に合格しろよ」
あれ? すばるって、結構いいやつなのか!
バカを褒めたいときには『いいやつ』がしっくりくる。
「もちのろん! すばる、お前も頑張れよ」
と、俺は元気よくすばるを見送った。
バカなやつでも入試を突破できるのが片高! 精々、頑張ってくれ。
そのあとに俺にはなしかけてきた男たちはカスばかり。
周囲が男ばかりという事実に気付いてさえいない。
俺のことを女だと思っている無礼者で愚か者でバカ者。
俺は男どもを縫うようにして動き、真壁を探した。
けど、そのあしあと1つ見つからなかった。
真壁、どこにいるんだ。あいつがいないと結局俺は何もできない。
しばらくして、今度は俺がデバイスに呼び出された。
いよいよ面接! 胸が高鳴る。ドキドキする。
俺はデバイスの指示通り、4階に行った。
5・6人で利用するカラオケルーム程の部屋がいくつかある。
1部屋ひと部屋が面接室。防音品質は高そうだ。
俺は黙って指定された部屋に入った。
面接はたしか、対面ではなく双方向通信を使うはず。
画面から、高い声が俺に指示を出す。かなり若い。
「早速ですが、面接試験をはじめます」
聞いたことあるような、ないような声。俺と同い年か少し上。または年下。
否応なく緊張が高まる。胸のドキドキが止まらない!
「では、そちらの席にお掛けください」
「はい。よろしくお願いします!」
一礼してから、指示の通りに席に座る。緊張度がまた1段上がる。
また一礼して顔を上げると、画面に面接官が映し出された。
その顔は、声と同じで俺と同い年くらい。本物の片高生? いや、中学生?
どっちにしろレベルが高い。というよりも、俺はこの人に会ったことがある。
長めの髪をビシッとまとめているのに見覚えがある。誰だっけ……。
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もちろん、面接官はすでに登場しているあの人です!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いいたします。
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