第11話

それからアタシは、印刷会社に帰って午後の仕事をしていた。


しかし、あきのりからどぎつい言葉をぶつけられたことが原因で仕事に集中できんかった。


何よ、あきのりは…


けいすけさんのどこが気に入らないのよ…


アタシとけいすけさんは、同情的だとか、傷をなめあうとか…


そんなだらけた関係じゃないのに…


なんなのよ一体もう…


人の気持ちを逆なでにしているのは、あきのりの方でしょ…


「羽島くん。」


課長が呼んでいる…


ああ…


「羽島くん。」


課長の大声ではっと気がついたアタシは『はい。』と返事した。


「上司が呼んでいるのだから、すぐにこっちへ来なさい。」

「すみません。」


アタシは、課長の席にあわてて行った。


「はい、何でしょうか?」

「羽島くん、今朝私が君に頼んでいたF広告代理店に電話して、例の返事をもらえと頼んでいたけど、電話したのか?」


課長からそのように言われたアタシは、顔が真っ青になった。


ああ!!忘れていたわ!!


「なにぃ、返事をもらっていない!?」

「すみません!!他の用事で手がいっぱいになっていまして…」

「何をやっているのだね全くもう!!もういい、私が電話する!!…ったくも…(ブツブツ)」


課長は、ブツブツ言いながら受話器をあげて電話をかけた。


あーあ…


また、凡ミスやらかしたわ…


時は流れて…


アタシは、9月にけいすけさんと挙式披露宴をあげるための打ち合わせと結婚生活の準備のために、休みごとにけいすけさんと会っていた。


その一方で、あきのりはアタシをさけるようになった。


挙式披露宴の10日前のことであった。


アタシは、けいすけさんを家に連れて来た。


アタシは、母にけいすけさんを紹介した。


しかし、母はさみしそうな表情を浮かべた。


その日の夜、父は『明日の朝は早いから寝る…』と言うて9時ちょっと過ぎに寝た。


しばらくして、母はアタシに『一緒にお茶のまない?』」と言うた。


このあと、アタシは母とお茶をのみながら話をした。


アタシは、けいすけさんを紹介した時にどうしてさみしそうな顔をしたのかを母にたずねた。


母は、アタシの問いに対してこう答えた。


「ちょっと疲れていただけよ。」

「そうなのだ…かあさん、アタシ…好きだと言える人が見つかったのよ…よろこんでほしかったな。」


母は、ほほえみを浮かべて『そうね。』と答えた。


しかし…


母の表情が急に険しい表情に変わった。


「はるか。」

「なあに?」

「もう一度あんたに聞くけれど…本当にけいすけさんと結婚するの?」


母は、怒った声でアタシに言うた。


「あんたまさか、同情的になって、けいすけさんを選んでないでしょうね!?」

「違うわよ。」

「だったら、いいけど…」


母は、アタシにこう言うたあとお茶をのんだ。


アタシは母に、けいすけさんをどのように思っているのかとたずねた。


「ねえかあさん。」

「なあに?」

「かあさんの視点からみて、けいすけさんはどんな感じの人だった?」

「そうね。」


母は、ひとかんかく空けてからアタシに言うた。


「けいすけさんは、お母さまを病気で亡くされて、お父さまも家出して行方不明だし…お姉さまは遠方で自立して暮らしている…家族がバラバラになって、さみしい思いをしている…優しいし、はるかとの結婚を真剣に考えている気持ちがあるのはよく分かるよ。」


母は、一定の理解はした。


しかし、不安げな声でアタシに言うた。


言いました。


「問題は、そこから先のことよ。」

「そこから先?」

「そうよ…その前に、あんたに大事な話をしておくわ。」

「大事な話って…」

「いいから聞きなさい!!」


母は、アタシにあつかましい声で言うた。


「夕方ごろに、近所の奥さまから聞いた話だけど、あきのりくん…きょう、市役所に離婚届を出したわよ!!」


それを聞いたアタシは、顔が真っ青になった。


「えー、あきのりが離婚届を出した!?」

「(怒った声で)そうよ!!」


母は、ものすごく怒った声でアタシに言うた。


「離婚した理由は『はるかをまだ愛しているから…』よ…」

「そんな…」

「あきのりくんは、あんたのために大事な家族をすてたのよ!!…あんたのために奥さん方の家と絶縁したのよ!!」


ウソよ…


そんなのウソよ…


アタシは、なんども繰りかえしてつぶやいた。


さらに母は、アタシに衝撃的な言葉を発した。


「その上に、あきのりくんはつとめていた会社に辞表を出してやめたわよ…やめた理由は、けいすけさんがはぐいたらしいからよ!!」


それを聞いたアタシは、脳天にきつい一撃を喰らった。


「あきのりが、けいすけさんをうらんでいた…」

「あんたのケーソツな態度が原因で、あきのりくんの人生がズタズタに壊れたのよ!!」

「そんな…」


母からどぎつい言葉をぶつけられたアタシは、どうしようもない気持ちにさいなまされた。


このあと、アタシと母はひどい大ゲンカを起こした。


その後、アタシは背中を向けて部屋に閉じこもった。


このあと、目を覚ました父がパジャマ姿でリビングにやって来た。


「こんな夜遅いのに、大声でおらぶ(さけぶ)な。」

「アタシは、はるかのことを思って怒ったのよ!!」

「そりゃそうだけど…」


父は、冷蔵庫から紙パックのらくれん牛乳を取り出して、コップに注ぎながら言うた。


「もう少し、はるかのことを信じてあげたらどうだ?」

「はるかのことを信じろって。」

「そうだよ。」


母は、心配げな声で父に言うた。


「それじゃあなた。」

「何だ?」

「はるかに、こんなことを話したら…どう思うか…」

「何だ?もしかして、けいすけさんがフタマタかけていたとでも言うのか?」

「もしもの話よ。」

「もしもの話?」

「はるかがけいすけさんと出会ったのは、フジグランでナンパされたことよ…そこが心配なのよ。」

「心配?」

「娘のことを思って言うているのよ。」

「かあさん、どうしてけいすけさんを疑うのかな?」

「うたがいたくもなるわよ…はるかには悪いけど、結婚あきらめるように言うておくわ。」

「それじゃ、どうするんだ?」

「あなた。」

「なんぞぉ~」

「(はるかの兄)の海外出張は、いつまでつづくのよ!?」

「なんでそんなことを聞くんぞぉ~?」

「(はるかの兄)夫婦の家族をこっちへ移るように頼んでよ!!」

「おい!!」

「あなた!!(はるかの兄)の会社に電話して、海外出張をやめてくれとジキソしてよ!!」


母がワケの分からないことを言うたので、父はひどくコンワクした。


結局、周囲の理解が得られないまま挙式披露宴を挙げることになった。


そして、挙式披露宴の当日を迎えた。


いまこく(今治国際ホテル)の一階のエントランスのカフェテリアでは、けいすけさんとアタシの友人知人たちが集まっていた。


挙式披露宴は、友人知人たち40人が出席した。


アタシは、新婦の控え室で挙式が始まるのを待っていた。


けいすけさんは、ニコニコ顔でみなさまとおしゃべりをしている。


アタシは、けいすけさんを呼びに行った。


その時であった。


一階のエントランスのカフェテリアで、男性の怒鳴り声が聞こえた。


怒鳴り声のヌシは、達郎さんのお兄さまであった。


大変だ…


達郎さんのお兄さん夫婦が怒鳴りこんで来た…


アタシが駆けつけた時であった。


達郎さんのお兄さんが、けいすけさんの胸ぐらをつかんで、こぶしをふりあげてイカクした。


「けいすけ!!」

「やめてください。」

「甘ったれるなクソセガレ!!」


(ガツーン!!)


達郎さんのお兄さまは、けいすけさんの鼻の頭をグーで殴りつけた。


その後、けいすけさんは達郎さんのお兄さまからボコボコにどつき回された。


その場面を見てしまったアタシは、急いで着替えて荷造りをした。


避難準備を終えた後、荷物を持って裏口から逃げだした。


アタシは、黒のユニクロのエアリズムVネックのブラキャミの上から白のブラウスをはおって、下はネイビーのレギンスを着て、白いシューズをはいて、白のトートバッグを持って今治駅へ逃げた。


アタシは、JR今治駅であきのりと出会った。


「あきのり。」

「はるか。」

「ちょうどよかった…お前に大事な話がある…」


このあと、アタシとあきのりはバス乗り場へ向かった。


その後、松山市駅行きの特急バスに乗り込んだ。


バスは、国道317号線を通って松山方面へ向かった。

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