隅の町
俺が住んでいるのは泥沼橋三丁目稲妻二ツを右に入ったところだ。
その、『稲妻』というのが何なのか俺もよくわかっていない。
『稲妻』というのは、電気が飛び出す穴のようなもので、その穴の中が、稲妻によってえぐられ作られた穴そのものになっている。
そこから電気が飛び出すため、電気の力が必要である場所で暮らす人間にはちょっと困った現象だ。
しかし、俺は電気が飛び出すことで稲妻と一緒に暮らすようになって、感電したり漏電したり電気が電気に触れるのはたしかに危なっかしいものだが、単に生活するだけで、その生活によって生まれる新しい力の必要性を感じた事は無い。
なので『稲妻』というのが何なのか理解できていない、というか、なんとなく身近なものに感じられないな、と感じる。
そしてそんな俺を、彼女は優しい目で見つめてきた。
「………………」
「………………」
「………………」
なんだか俺の事を心配してくれているんだろうか。
正直、俺にはそんな理由は無いのだが、俺は今、彼女の事を心配しているから、そのことに疑問を持つ。
「あー……その、ごめん」
「うん、なんで謝るの?」
「なんとなく?」
「なんとなくって……」
「なに?」
「いや、なんにも」
彼女から目をそらす。
なんとなく。
なんとなく――このまま彼女を抱きしめていたい。
「そっか……私、なにも出来ないから」
「え、なにが?」
俺の言葉を聞き逃したとばかりに彼女はゆっくりと振り向いて、俺の顔を覗き込んでくる。
「だから、なんにも。だって、さっきもいったけど、何も出来ないって」
「いや、まぁ、なんとなく、っていうのも、悪くはないと思うけれど」
「……そっか」
彼女はそれ以上の追求もせず、俺の顔を見て、そう呟いた。
どうやら、彼女にとってはその言葉は本心なんだ。
泥沼橋三丁目稲妻二ツを右に入る。
彼女はそこにいる、『稲妻』だ。
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