第41話 一緒なら怖くないよ


 カードの力をフルに使い、即座に空港迄のハイヤー、そして北海道行きのチケットを用意して貰い、なんの不自由なく僕達は羽田から飛行機乗り込んだ。

 勿論シートはファーストクラス。


 決めてから1時間も経たずに僕達の乗り込んだ飛行機は軽やかに飛び上がる。

 窓の外からはピカピカと雲が光って見える。さっき家の近くにあった雷雲だろうか?


「あははは、凄いねえ何でも出来ちゃう」


「こんな使い方……」

 わがままし放題、そんな印象だけど、でも実際にはそれなりに凄いお金が掛かっていると思われる。元々の年会費から破格って聞いた事もあるし……。


 僕も試合で遠征に出る時に何度か飛行機にも乗ったりしたけど、勿論シートはエコノミー、おしぼりや、それこそ軽食だってほぼ出てこない……。


「私も買い物以外でこうやって使うのは初めて、聞いてた通りNoって言わないって本当なんだねえ」

 シートベルトサインが消え、食事の配膳が始まる。

 フライトアテンダントさんが僕達の所にも食事を運んで来たが、僕は食欲が無いと断り、円も僕に付き合う様に飲み物だけ頼んだ。


 僕の心が、気持ちがこんな状態ならば、多分楽しめたのだろうけど……。


「ファーストクラスとか勿体無かった」


「このカードだと勝手にクラスアップしちゃうみたい」


「へーー」


「あーーでも同じカード持ってる人はもっと凄い使い方したりしてた」

 

「凄いって?」


「飛行機チャーターしたり、ヘリコプター使ったり?」


「それどこのハリウッド?」


「使って見る?」

 そう言ってははは、と笑う円、僕はブンブンと首を横に振った。


 円は、そんな華やかな世界から一転、普通の高校生になり、そして僕なんかと旅に行くというこの状況をどう思っているんだろうか……。


 そしてさっき言った「貴方の事が……好きだから」その言葉が頭を過る。

 1年前の僕を?……一体どういう事なんだろうか? 結局それも過去の僕だけど、その時は既に走れなくなっている。


 もう何もかも嫌になり、夢も希望も持てなくなった。

 そんな絞りカスの様な僕と旅に出たいって言った円。

 一体どういうつもりなんだろうか? 


 僕はチラリと円を見ると、紅茶を飲んでいた円は僕を見る。


「ん?」

 首をかしげるその姿に可愛さが5割程増す。


「いや、えっと頬っぺは大丈夫かなって」


「ん? まあ、まだヒリヒリするけど」

 まだ赤く腫れている円の頬、今は紅茶を飲んでいるので外しているが、空港ではマスクで隠していた。

 

「冷やさなくて大丈夫?」


「まあ、いいんじゃないかな?」

 頬を擦って確認する円、化粧をしているので、うっすらと頬紅をつけている様にも見える。


「……そういえばさ、チックはどうしたの?」

 一緒に連れてくると思ったけど、円は結局チックをマンションに置いて来た。


「ああ、御飯は自動で出るし水も自動で出るから、後いつもの掃除の会社に週1から週2に変更して、チックの世話も頼んだし、スマホで様子も見れるし、大丈夫よ」


「いやそうじゃなくて……てっきり連れて来るのかと」


「えーーだって連れて来れないよねえ」

 円はそう言って笑う。


「どうして?」


「ふふふ、だって、私達もう帰らないんだよ? チックは生きていて貰うんだから……最終的にはママの所に行くと思う、ママは犬好きだからね、多分無下にはしないと思うよ」


 そう言うと円はファーストクラスの高い仕切りから手を伸ばし、僕の手を握った。


「……」

 どうしてそんなに楽しそうなんだ? 帰らないって、本気で言ってるのか? 怖く無いのか? 僕が戸惑いつつ彼女を不思議そうに見ると、それを察したのか、僕の目を見てニッコリ笑う。


「──絶望、寂しさ、希望も夢もない……そんな貴方の思いは、私も知ってるから……私は貴方の先輩だからね」


「え?」


「だから貴方の気持ちが凄く良くわかる……死にたいって気持ちも……凄く」


「ま、円が?」


「ふふふ、そうよ、でも一人ってやっぱり怖い……だから思っても実行なんて出来ないなあって、でも……大好きな人となら何も怖くない……今は全然……」

 そう言って円は再び笑った。


 僕は円の事を何も知らない……改めてそう思った。


「そう言えば円って呼んでくれる様になったね?!」


「え? あ、そう言えば……」


「ふふふ、嬉しい」

 円はそう言い鼻歌混じりに紅茶を飲み、シートに備え付けの雑誌をペラペラと捲り始めた。

 

 僕は円から目線を移し再び窓の外を眺める。


 外はすっかり闇に飲まれていた。

 眼下にはどこかの街明かりが見える。

  

 飛行機は僕らを乗せゆっくりと旋回した。


 僕らの最後の旅、北海道へ向かって飛んで行く。

 



【あとがき】

 フォロー、★レビューを宜しくお願いいたします。

 レビューは最終話下から入れられます。☆をクリックして★にするだけです(笑)

 隣にレビューを書くとありますが、書く必要はありません。(書いてくれると嬉しいですが)

 作者のやる気に直結しておりますので、まだの方、先が気になる方は是非とも宜しくお願い致します。

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