第9話 それはできません!
新しく創り直した光の女神像を前にして、私は正座させられている。
ラナ「いくら何でも手を出すのが早すぎます!」
クレア「まさか初日で……」
レベッカ「まずはもう少し打ち解けてもらうと思ったけど、これは予想外ね……」
くっ、言い訳をしたいが、どう話しても嘘くさくなりそうだ!
それに、トラップだとしたら、言い訳など通用しないはずだ……。
「ち、違うんです! 私がついアタル様に抱き着いてしまったんです!」
叱られている私を見て、イーナさんは誤解を解こうとしている。
ええ
「あら、あなたから迫ったの? 妻のいるアタルをあなたが誘惑したというのね?」
レベッカ夫人が微笑みながらイーナさんに尋ねた。
「えっ、いえ、そうでなく……」
うん、役者が違う……。
イーナさんはレベッカ夫人の微笑みを見て、上手く状況を説明できなくて声が小さくなる。
「彼女を責めるのは止めてくれ。彼女は光の女神様の加護を授かったようなんだ。たぶん、彼女は何となくそれを感じて、つい……」
私の話を聞いて全員が振り返り、光の女神像を見つめる。
レベッカ「前と違うわ……」
クレア「神々しさが……」
ラナ「なんと慈悲深いお姿に……」
イーナ「そ、そんな、私のような獣人に、畏れ多いです……」
イーナさんはまた女神像の前で跪いて頭を下げている。
「それは違うよ。神に人族や獣人族といった違いなどないよ」
私は優しく彼女にそう話した。
イーナさんは戸惑いの表情を私に向けた。ラナやクレアは優しく微笑みながら彼女を見ている。
くっ、正座させられているから、良い事を言ったはずなのに恥ずかしい!
それでも、浮気の件はこれでうやむやに……。
な、なんで、レベッカ夫人が悪魔の微笑みを!?
「そうね、あなたは女神様に愛されるほど心優しいのよ」
レベッカ夫人はイーナさんに優しく微笑みながら話しかける。
「だから、アタルとの責任を取って、彼の妻になりなさい」
強引じゃね!?
イーナさんも困ったような表情をしている。レベッカ夫人は追い打ちをかけるように、さらに話した。
「妻2人を傷つけたのだから、心優しいあなたは責任を取ってくれるわよね?」
ひ、卑怯な言い方だぁ!
イーナさんは目に涙を浮かべ、何か言おうとしている。
「悪いのは私だ! 今回の事を持ち出して彼女に結婚を迫るのだけは絶対にダメだ!」
自分でも驚くほど強く言ってしまった。でも、これだけは絶対に受け入れられない。
「ラナ、クレア、私の間違いを簡単に許してはくれないだろう。でも、そんなことを盾に彼女を脅して妻にするようなことはできない。
私は2人を愛し、愛されたから結婚したんだ! こんな形で彼女と結婚するのはあり得ない!
頼む、どんな罰でも私は受ける。だから彼女にそんなことを強要しないでほしい!」
私は土下座して2人に頼み込む。
確かに私はイーナさんに心が揺れてしまった。だから責任は取ろうと思う。
だが、それは私の責任であり、罰は私が受けるべきことだ!
ラナ「もちろんです。強要して結婚させるような事はしません」
クレア「ああ、旦那様とはお互いに愛し合ったから結婚したのだ」
顔を上げて二人を見ると、優しく微笑んでいるのが分かる。それを見て思わず泣きそうになる。
「あらあら、これじゃあ私が悪者みたいじゃない。私も強要するつもりはないわよぉ」
レベッカ夫人は悪びれた感じもなくそう話した。
「なんとなく二人が引かれているような気がしたから、それなら、それが良いと思っただけよ。あなたはアタルのことどう思っているの?」
おいおい、この場でまだそんな話を?
イーナさんも困った顔で赤くしている。
「あ、あの、でも、それは……」
うん、完全に困っているね。
「レベッカ夫人、この状況でそんな話は……。彼女は本当に素敵な女性だけど、それとこれとは別の話だよ。私には大切な妻たちが居る。その事を無視してそんなことを聞くのは、彼女に失礼だよ」
レベッカ夫人は私の話を聞いて、仕方ないという表情を見せてくれた。
「う、羨ましいです……」
えっ、なんで泣くのぉーーー!
イーナさんはそう話すと目から大粒の涙が零れ落ちている。
「アタル様と話していると、どんどん好きになるのに、すでにこんな素敵な奥様が居る。私なんか入り込めるわけないよぉ!」
えっ、えっ、えっ、好き!
私は泣き叫ぶイーナさんを見て混乱する。
ラナとクレアがイーナさんに近づくと、優しく肩に手を置き話しかける。
ラナ「そんな風に思ってくれるあなたなら、私は受け入れるわ」
クレア「ああ、私も受け入れる」
優しく微笑みながら話す二人を交互に見たイーナさんだったが、さらに泣きながら話した。
「ダメなんでしゅ~、孤児院の
イーナさんは子供のように泣きながら、必死にラナとクレアに訴えている。
ほんまに、ええ
「あなた気に入ったわ。あなたならアタルに相応しいわ!」
レベッカ夫人も少し目を潤ませて、それでも決意を込めた目で言った。
「ダメなんでしゅ~、私だけ幸せにはなれないでしゅ~」
ほんまに、ほんっまに、ええ
「大丈夫よ! アタル!」
「は、はい!」
「すぐに客車型テク魔車を王都に送ってちょうだい!」
「えっ、は、はい……」
「あなた、孤児院の子供は何人?」
「えっ、23人でしゅ……」
「あら、たったそれだけ? それなら簡単ね。後で詳しく話を聞かせてちょうだい。アタルとエルマイスター家がその子達をこの町に連れてくるわ」
レベッカ夫人、男前です!
「えっ? えっ? えっ?」
イーナさんはついていけてないようだ……。
「子供たちがこの町に来れば、あなたも安心してアタルの嫁になれるのよね?」
レベッカ夫人がとんでもないことを言い出したぁーーー!
「それは絶対にダメだ! そ、そんなのは子供を理由に結婚を強制しているじゃないか!」
そんなことは絶対にダメだ!
「ひゃい、奥様達が受け入れてくれるなら、喜んで!」
えっ、あれ? 喜んで!?
ラナ「私もあなたなら喜んで受け入れるわ」
クレア「一緒に旦那様を支えていこう」
あれ? ラナとクレアが受け入れちゃったのぉ!
「アタル、あなたは彼女を嫌いなの?」
レベッカ夫人が私に尋ねてきた。妻たちとイーナさんが俺に注目している。
そ、そんな聞き方ずるくないかなぁ!?
「き、嫌いじゃ、ないよ……」
「男らしくない! ハッキリと言いなさい!」
いや、でもぉ、そんなこと言われても恥ずかしよぉ~。
「え~と、凄く彼女は優しくて……、魅力的な女性だと……」
「だから、はっきり言いなさい!」
こわいですぅ~!
「……好きです」
「もっと大きな声で!」
くっ、難易度が高過ぎるぅ~。
「大好きです!」
勢いで言ってしまった。顔から火が出るのではと思うくらい、顔が熱いよぉ。イーナさんもこれでもかと顔が真っ赤になっている、ウサ耳の内側が真っ赤になるんだと感心してしまうほどだ。
「あら、結果的にあっと言う間に話が進んでみたいね」
アンタが進めたんだろうがぁーーーーー!
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