第52話 神に感謝を?
結局、テク魔車は一番無難な町中用テク魔車を公開して使うことになった。王子夫妻は私達と一緒に移動したのだが、子供のように2人が騒いで喜んで大変だった。クレアは護衛兵士に説明して大変そうだった。
神像区画に到着してテク魔車から降りると、ジョルジュ様とメリンダ様は驚いて目の前の光景に見入っている。
噴水の周りを子供たちが楽しそうに走り回り、さらに空気さえ綺麗になった感じがする。
な、なんか神聖な雰囲気が増していない!?
何となくではあるがそんな感じがするぅ。
前からゆっくりとアーニャ夫妻が近づいてくる。
「私はこの地の管理を任されていますアーニャです。こちらは夫のドッズです」
え~と、アーニャさんも少し雰囲気が変わった?
鑑定してみるが特に変化は……、あったぁ!
「私は第2王子のジョルジュです。そして隣に居るのが妻のメリンダです」
「メリンダです。急にきてごめんなさいね」
「いえ、先程サバル様が先触れに来ていただきました。ですが、子供たちが騒々しくして申し訳ありません」
遠巻きに子供たちが我々を見て色々と話している。護衛兵士さんも近づかないように気を使ってはいるが、さすがに子供相手に強面で注意するわけにもいかないので、困っている感じだ。
「あのおねえさん、めがみさまと同じぐらいきれぇ!」
「でも、オッパイは小さいぞ!」
「「「たしかに!」」」
「おじさんは、じゅうじんさまみたいにつよそぉ!」
「ばか! じゅうじんさまは、もっとつよそうだぞ!」
「ドッズおじさんのほうが、つよそうだよ!」
「ひとぞくだから、たいしたことないよ!」
こ、子供は遠慮を知らないなぁ……。
ジョルジュ様は、またおじさんと言われて落ち込んでいる。
「「本当に申し訳ありません!」」
アーニャ夫妻が申し訳なさそうに跪いて謝罪した。
「だ、大丈夫。気にしないで」
メリンダ様も胸の事が気になったのか、少し話し方に動揺が見える。
俺はそれ以上に気になったので、慌ててアーニャさんに駆け寄る。
「ダメですよぉ。お腹の子に良くありませんよ!」
鑑定に妊娠とあったので心配になった。よく分からないが地面に跪くのはお腹が冷えて良くないと思ったのである。
しかし、アーニャさんは呆然として口を開いている。ドッズさんは驚きの表情でアーニャさんを見つめている。
あれ、渡した魔道具で確認していないのか?
「あら、お子さんを授かっているのね、羨ましいわ……。気にしないで立ち上がってください。子供の話くらいで怒ったりしませんよ」
メリンダ様は少し寂しげな笑顔で、アーニャさんに話しかける。遅れて出てきたハロルド様達は何が起きているのか分かっていないようだ。
「も、もしかして、渡した魔道具で確認していないの?」
アーニャさんにそう話すと、アーニャさんは焦ったように何か確認し始め、すぐに涙を流してドッズさんに抱き着いた。
「子供を授かったのよ! 妊娠しているわ!」
「ほ、本当か!? うおーーん!」
いやいやいや、待て、待て、待ってぇーーー!
ドッズさんが喜びのあまりアーニャさんを持ち上げて振り回している。
「止めろぉ! お腹の子に何かあったらどうする!」
「アンタ! 何してるんだい!」
焦って注意すると、ドッズさんは固まったように動きを止めた。抱き上げられた状態のアーニャさんは一緒に喜んでいたくせに、ドッズさんの頭を叩いて怒っている。
「い、いや、子供はずいぶん前に諦めていたから、嬉しくて……。グスッ、すまん!」
ドッズさんは優しくアーニャさんを地面に降ろすと、涙ぐみながら謝罪した。
「ほ、本当だよ……。アタル様に女神様の恩恵の話は聞いていたけど、まさかこんなに早く、グスッ、子供を授かるなんて……」
気持ちは分かるが、やり過ぎだなぁと微笑ましく二人を見つめる。しかし、隣では別の意味で笑顔を見せるジョルジュ様とメリンダ様がいた。
メリンダ「私にも女神様の恩恵を……」
ジョルジュ「妻にも女神様の恩恵を……」
気合の入った表情で2人は呟くのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
その後、アーニャ夫妻の案内で生命の女神像の前に全員が移動した。
「女神様に自分の望みを祈るのではなく。この世のすべての事に感謝して、それからお望みを女神様にお願いすることをお勧めします。もし可能ならこれから正しい行いをする思いや、あなたが受けた恩恵を他の人達に分け与える気持ちも同時に伝えると良いかもしれません」
アーニャさんが丁寧に説明する。
これは私がアーニャさんお願いした事だ。自分の都合だけ神様にお願いするのではなく、神様だけではなくすべてに感謝の気持ちを持って欲しい。そして、少しでも願いが叶ったら、その幸せを他の人に分け与えて欲しい。それこそが平和で幸せな世の中になるのではと思ったのだ。
まあ、あの神様達に頼っては危険な気もする。
転子『し、失礼なのじゃーーー!』
うん、一番信用できない神様登場!
ジョルジュ様とメリンダ様は真剣な表情で生命の女神像の前に歩み寄ると、跪いて両手を合わせて祈りを捧げ始めた。
予想以上に2人は真剣に何か祈っているようで、静かに時間が流れる。
そして暫くすると、ステンドグラスから入ってくる光が女神像に反射して、まるで2人に光が注ぐような感じで、キラキラと光が2人を包んだ。
それを見ていた護衛兵士や付き人、エドワルドさんが青い顔をして跪いて何やら謝罪の言葉を言い始めた。
ハロルド様など一部の人間は驚きで口を開いて固まっていた。
少しして光が陰ったのかキラキラが無くなると、ジョルジュ様とメリンダ様が同時に顔を上げ、お互いに笑顔で見つめ合った。
2人は立ち上げって振り返り、これまでとは違ってスッキリとした表情で全員を見渡した。
「「ありがとう!」」
2人が同時にお礼を言った。誰もがお礼を言われる理由も分からずに戸惑っている。
私だけは何となく、2人は彼らに対してではなく、色々なことすべてに感謝の気持ちを口に出しただけだと感じたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
町中用テク魔車を使って戻ってくると、王子夫妻と別れ、私達は自分達のテク魔車に戻った。護衛の兵士さんはテク魔車の中を確認しようともしないし、なぜか怯えるような表情を見せるだけだった。
王子夫妻が来られたので、エルマイスターに明日帰る予定は延期になった。明日に改めて予定を教えてもらうことになった。
グラスニカ侯爵の屋敷では、応接室に王子夫妻と領主たちがお茶を飲んで休んでいた。
「いやぁ、ハロルドの報告書を見た時は、大げさに報告されていると思っていたのだがなぁ」
ジョルジュは笑顔でそう話した。
「まあ、そう思うのも当然じゃのぉ」
「こんなのは見なければ信じられん! だが、目の当たりに見たいとは思わないぞ……」
ハロルドは頷きながら同意したが。エドワルドは勘弁してほしいという感じで話した。
「そうだな……。だが、まさか報告が過少にされているとは……」
ジョルジュも複雑そうな表情で話した。ハロルドは王都の息子経由で報告していたが、すべてを報告したわけではなかった。それに、ジョルジュが聞いた報告以降も次々と新しい事実が起きている。それすらも過少で報告していたのである。
「ですが、証拠もなく全て報告したとしても、余計に信じられないでしょう。今回の塩会議に参加して大変でしたが良かったと思っています」
ゼノキア侯爵が丁寧にジョルジュに話す。カービン伯爵も頷いている。
「ハロルド、明日までに私の報告書を用意する。朝一で王都に送ってくれ」
「お任せください」
ジョルジュの依頼もこれまでには考えられない話である。離れた王都に報告書を送るのは時間がかかるのが当然であった。それが送れば即座に相手に届くのである。すでに各領主には、それが可能な魔道具が渡されているのである。
誰もが驚きの事実に毎日直面していて、感覚が少し麻痺しているのであった。
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