第27話 クレイジーオーク
目を覚ますと隣にはラナが、……いない!?
昨晩は暗くなってから計画通りに作業を終わらせた。そして兵士に護衛されて自分のテク魔車のある領主様の屋敷にまで送ってもらった。
テク魔車に戻ると子供たちとクレアはすでに寝ていた。少し寂しさを感じながら自分の部屋に行くと、ラナが待っていてくれた。
素適なナイトウェアに身を包んだラナを見て、一気に作業の疲れも吹き飛び、テク魔車が揺れていないか心配になるほど、新魔エッチに気合が入ってしまった。
想定外のあの出迎えは、男心を見事に撃ち抜いてくれたなぁ。
昨晩の行為を思い出し、危うく朝から元気になりそうになる。
でも目を覚ました時に隣に居ないのは寂しい……。
昨晩は遅くまで作業をしていたので、ゆっくり私を寝かそうと気を遣ってくれたのだろう。それでも目覚めた時に隣に一緒に居て欲しいと、贅沢なことを思ってしまう。
ボッチを卒業して自分がどんどん我が儘になっている……。
着替えて部屋を出るとクレアが待っててくれた。
「子供たちは?」
「旦那様が孤児院を完成させたと聞いて、ラナと一緒に手伝いに行きました」
うぅ、ミュウとキティとも遊びたかったぁ。
少し遅めの朝食をクレアと食べながら考える。
妻が2人いるから、こうやってどちらかが一緒に居てくれるんだ!
改めて自分は幸せだと思う。
今日は夜までテク魔車内で生産活動だ!
今の幸せを守るためにも仕事をしようと気合を入れるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ハロルド達は昼夜兼用の食事を食べていた。
昨晩、いや朝方まで話し合いを続けていた。途中からはハロルド達が何度説明しても、ゼノキア侯爵たちに話を信じてもらえず苦労していたのである。
「お主たちから聞いた魔道具を実際に見せてくれよ」
ゼノキア侯爵は食事をしながら、まだ疑っている様子で要求してくる。
「ふふふっ、その気持ちはよくわかりますよ。我々も実際に見るまでは信じられませんでしたから」
カークが楽しそうに笑いながら答え、エドワルドも頷いている。
食事が終わってお茶を飲みながら雑談をしていると、執事がやってきてエドワルドに耳打ちをした。
ハロルドとカークはまたアタルが何かしたのではと心配する。
「ヤドラス子爵の体調がすぐれず、代理に嫡男のネストル殿がこちらに向かっているそうです。到着は明日の午前中には到着すると、先触れが来たと報告がありました」
エドワルドがみんなに報告した。
「そろそろヤドラスも代替わりですかね。ここ10年近くは実質的に嫡男のネストル殿が取り仕切っていたようですがねぇ」
カークが話すとみんな頷いている。
塩の価格が上昇し始めたのも、隣国との交渉をネストルが始めてからである。ハロルド達は暫く前からネストルが何かしていると疑っていたのだ。
「それなら本命が来てくれて、ちょうど良かったのぉ」
ハロルドも碌に交渉してもその場で判断できなかった現ヤドラス子爵より、実際にヤドラス子爵家を動かしているネストルのほうが、話が早いと考えていた。
「儂の調査でも頻繁に隣国に行っているのは嫡男だと判明しておる」
ゼノキア侯爵も調査内容を話してくれた。全員が歓迎する雰囲気であった。
◇ ◇ ◇ ◇
ヤドラス領とグラスニカ領の中継の村で、ヤドラス子爵家嫡男のネストルはのんびりと過ごしていた。
普通に今朝出発していれば、余裕でグラスニカの領都に着いていた。しかし、わざと遅れて会議に出席するつもりで、ヤドラス子爵家の別宅でのんびりと過ごしていたのである。
「本当に遅れて行って大丈夫なのでしょうか?」
心配して尋ねたのは、グラスニカ領都にある商業ギルド支部のギルドマスターであった。この場にはそれ以外にも、エルマイスターとエイブルのそれぞれの商業ギルドのギルドマスターも同席していた。
「私のお披露目のような会議だ。少し遅れて行く方が、実質的に主導権を持っているのが誰か分かるだろう。しかし、なぜ一番金も力も持つヤドラスが子爵なのか理解できんがな。
私は来年こそ伯爵位になるつもりだ。来年には父も引退だ。私が爵位を継いだらすぐに伯爵位になれるように手は回してある」
ネストルは太った体を揺すりながら、腹立たしそうに話した。
商業ギルドのギルドマスター達が揃ってネストルと行動しているのに理由がある。
塩と引き換えに現金では足りないので、各地の農産物や魔石などで取引することになる。それを仲介することで商業ギルドは利益を大きく上げられるのである。
ネストルは他の領主から物で塩と交換することになると、実際には商業ギルドにその権利を売ることで金に換えるのである。
当然塩の価値の高いこの国では、農産物はできるだけ安く見積もって取引をする。その利益もヤドラス子爵家に入っていたのである。
「今年は更に塩の値段が上がるぞ。伯爵家になるためには金が必要だからな」
ネストルの話を聞いて、ギルドマスター達も内心では困っていた。
確かにネストルは自分達に利益を運んでくれているのだが、これ以上塩の値段が上がると、他の商品が売れなくなってしまうのだ。
誰もが必要な塩の値段が高くなれば、客は他の商品の買い控えをする。結果的に商業ギルドの利益が下がってしまうのだ。利益がヤドラスや他国に流れるだけで、これ以上の値上げは商業ギルドも困る。
「ですがあまりやり過ぎると国による調査が入る可能性もあります。国から隣国へ苦情が行くことになればまずいのではありませんか?」
エイブル支部のギルドマスターが意見を言う。
「大丈夫だ。グラスニカやエルマイスターが国王陛下に調査しろと言ったが、あの堅物のゼノキア侯爵が庇ってくれたのだ。自分で自分の首を絞めるような愚か者が侯爵とは、国の将来が心配になるぐらいだ。ブヒヒヒヒ!」
「ネストル様、あまり大きな声でそのような事を話されては……」
忠告したのはヤドラス支部のギルドマスターであった。
「なんだ、お前達は私を裏切るつもりか?」
「「「とんでもない!」」」
3人はネストルの質問に声を揃えて答えた。現状で逆らえば商業ギルドとしては大きなダメージになってしまうのだ。
ネストルは相手がそう答えるしかないことを分かって聞いているのである。
「それなら問題ないではないか。ブヒヒヒヒ!」
3人のギルドマスターはその下品な笑い声に内心ではうんざりしていた。
3人だけの時は『クレイジーオーク』と呼んでいるのである。金に狂い、女をいたぶる姿がオークに似ていることもあり、エルマイスター辺境伯の『クレイジーオーガ』をもじってそう呼ぶようになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
ハロルド達は公的ギルドに移動して、ゼノキア侯爵達に魔道具を見せて実演してみせた。それによりようやく2人がハロルド達の話を信じていた。
ちょうどその頃にグラスニカの領都に2つの集団が来訪していた。
2つの集団は王都から塩会議に会わせて来訪していたので、偶然と言うよりも必然の結果として同時に到着したのである。移動中もお互いが別々の行動のはずであったが、ほとんど同じ日程で移動していた。
お互いの存在は常に意識はしていたが、特に関わることなくグラスニカの領都に到着したのである。
門から領都に入るとひとつは商業ギルドに向かい。もうひとつは教会へ向かった。
両方とも来訪者の正体を知ると大騒ぎになった。そして来訪者の指示で様々のことが動きだすのであった。
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