第30話 孤児院の変化
夫婦のソファでお茶を飲みながらクレアの様子を窺う。
ラナもお疲れのようだったが、朝ポーションで何とか元気になると、私達のお茶を出すと朝食の準備に向かった。
心配なのはクレアである。
朝ポーションで体力的には回復したはずだが、ボーっとした表情で心ここにあらず状態になっている。
結局、初めての2人同時での戦闘は新兵器(新魔エッチ)など教える余裕などなく、もうひとつの武器は収納したままになっていた。
結果的にはそれぞれへの負担は8割程度で済んだはずである。
私には2.5倍の労力が必要だったが……。
だからクレアの様子を不思議に思ったのである。
呆然としながらクレアはお茶を一口飲み呟いた。
「ラナがあんなに積極的なんて……」
そっちか~い!
確かにお互いのエッチは初めて見ると思うが……。
ラナは普段とは逆に夜は積極的である。クレアは完全に受け身タイプだから、驚いたのであろう。
何となく新魔エッチはラナが先に習得しそうである。
◇ ◇ ◇ ◇
食堂に行くと何故かエルマイスター家のいつもの面々が揃っていた、今日一緒に行く子供たちも居る。
何故か子供たちが警戒した表情をして、ハロルド様達を牽制している気がする。
クレアはラナを見て顔を赤くして席に着く。ラナはそんなクレアを不思議そうに見たが、すぐに朝食の準備をメイドに指示していた。
「今回のダンジョン調査は順調だったようじゃな。報告は毎日受け取っているから問題ない、もちろん、疲れておるじゃろうから、今日はゆっくりとしてほしい」
ハロルド様はそこまで話すと子供たちを見る。子供たちは満足そうに笑顔を見せると、ハロルド様はホッとした表情で話を続けた。
「しかし、どうしても相談したいこともあるから、明日は1日時間をくれ!」
え~と、なんか不思議な感じ。
子供たちはハロルド様に、俺の行動を奪われると警戒していて、ハロルド様はそんな子供たちの雰囲気を感じていたというところか。
しかし、何故か必死に明日の私の予定を確保しようとしている?
何か急いでることがあるのだろうか。明日からはまた忙しくなる気がするぅ。
「わ、わかりました。エマ、明日は一日ハロルド様の予定を入れるから、調整してくれるかな?」
「お任せください」
ということで、落ち着いて朝食にしよう!
◇ ◇ ◇ ◇
薬草採取に出かけようとみんな揃ったところで、気になることがありシアに質問する。
「孤児院の子供たちの数が多くなったのは別に構わないけど、前より小さい子が混ざっている気がするけど勘違いかな?」
確か孤児院では12歳になると採取に参加すると聞いていた。栄養状態が良くなかったのか小柄な子が多かったけど、今はさらに小さい子が混ざっている気がする。
「最近は兵士さんが交代で一緒に行ってくれるようになったので、10歳以上の子が参加するようになりました。孤児院もしっかり食べられるようになったから、前よりみんな元気で10歳以上なら大丈夫なんです」
確かに体はまだ小さいが、初めてシア達に会ったときは体調が悪そうだったから、それよりは安全に採取ができるのだろう。
「それに、採取で稼いだお金の半分が孤児院を出る時に、纏めて貰えるからみんな早めに仕事がしたいみたいよ」
フォミが追加で説明してくれた。
前までは子供たちが働いた分を孤児院の予算に入れても、満足に食事ができないことが多かったけど、今はパンとスープは領から支給されるようになった。
そして、子供が稼いだ半分を食費にしておかずを追加することになった。残りの半分は孤児院を出るときの支度金として渡すことに決まったのだ。
私は全額を子供に渡せば良いと提案したが、それでは甘えになると反対され、半分は孤児院に納めておかずを増やすことで、働いた結果を感じつつ、本人のやる気と小さな子供たちに感謝を意識させることにしたようだ。
それを聞いたときには、やはり地球とは感覚が違うけど、個人的に好きな考えだと思った。
与えすぎると社会に出てから困るのだろうなぁ。
それはともかく、もうひとつ気になった。なんでキティは肩に乗り、ミュウも一緒に居るんだ?
俺は2人を示しながらシアに尋ねる。
「これは?」
「アタルお兄ちゃんが一緒に行動すると言ったときに、2人も一緒にいたでしょ」
シャルが横から答えてきた。
うん、確かに一緒にいたけど……。
困った顔でクレアを見ると、クレアは苦笑するだけで助けてくれなかった。
ま、まあ、いっかぁ!
◇ ◇ ◇ ◇
その日は久しぶりにゆっくりした1日を過ごした気がする。
ミュウとキティは私から離れようとせず、初めて一緒に採取に行く孤児院の子供たちも楽しそうだった。シア達が交代で甘えてくるのも心をほっくりさせてくれた。
タウロとシャルは採取ではなく、兵士たちに混ざって角ウサギを狩るのには驚いた。それもタウロよりシャルの方が動きは良く、シャルは2匹の角ウサギを1人で倒していた。
ドヤ顔で俺に獲物を見せるシャルを見て、初めて会ったときのことを思い出した。
あのときのシャルは恐かったなぁ。
でも、最近は普通の子供らしく可愛らしいところもあり、痩せ細っていたのが嘘のように健康的な感じになっている。それはシアやフォミ、カティにもいえる。みんな顔色も良く元気になり、少しずつ女の子らしくなっている。
うん、兄か父親の気分だね。
「少し早いけど今日は終わりにして帰ろうか?」
シャルやシア達は反対したけど、孤児院の子供たちは私と一緒で張り切り過ぎて疲れていたようなので帰ることにした。
町に向かって歩いているとフォミが話しかけてきた。
「タウロが獲った角ウサギを自分で買い取っても良いかなぁ?」
んっ、なんで?
フォミ達の食料は基本的に執事のエマ経由で割安に提供しているはずである。特に肉類は部位を分けて食材として簡単に使えるようになっているはずだ。
「別に構わないけど、買う必要はないよね?」
「この前、冒険者のお姉さんたちに羊のお宿の話を聞いて、お肉を届けようと思ったの」
フォミが答えてくれたが、何故それがお肉を届ける話になるのだろう?
「そう言うことかぁ。フォミはメリーさんに命が救われたからねぇ」
カティが納得したように話した。
そういえばルーナさん達が羊のお宿が気に入って、宿の人を母親みたいに思っていると話を聞いた気がする。その話の人がメリーさんなんだろう。
その人にフォミが命を救われた?
「えっと、どういうことかな?」
「1年ぐらい前にフォミが怪我した後に病気になって、死にそうになった時にメリーさんが高価なポーションを買って持ってきてくれたんだよ」
話に聞いたとおり、本当に良い人なんだぁ。
「孤児院から出てから、まだ会いに行ってないから、お肉を持って行きたいんだぁ~」
それは構わないが、でも……。
「なあ、別に顔を出すだけでも大丈夫だと思うよ。そのメリーさんの話は聞いたことがあるけど、なんとなくその人は顔を出すだけで喜んでくれると思うぞ?」
別にお肉を届けるのも問題はないと思うけど、その人は元気な姿を見せれば喜んでくれると何となく思った。
「でも、お肉ぐらい届けられるようになったと、メリーお母さんに見せたいんだぁ~」
まあ、本人がそれでいいなら別に私は構わない。
「わかったよ、別に買い取っても問題ないから構わないよ。でも、一番喜ぶのは、たまに顔を出して元気にしていると見せることだと思うぞ」
私もフォミや他の子供たちに何か返してもらう気は全くない。元気にしていると顔を見せてくれることが一番だ。
しかし、シア達も嬉しそうにしているから、それも良いのかなぁ。
時間も早いのでちょうど良いから、孤児院へ子供たちを送ってから、私も一緒に行くことにした。
噂のメリーさんに会ってみたいと思うのであった。
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