第18話 ダンジョン改革③

ダンジョン7層の公的ギルドの施設から10層目指して出発する。


やはりこの辺の階層から兵士たちに余裕がなくなってきた。前回一緒に来た兵士は余裕がありそうだが、それ以外の兵士は余裕がなさそうである。


予定より8層に到着するのが遅くなる。これでは暗くなる前に10層まで着けそうになかった。


「ブリッサさん、時間的に遅れているようですし、無理すると危険です。今日は9層までにするか、私が魔物の位置を教えましょうか?」


ブリッサさんは悔しそうな表情を見せたが、すぐにカルアさんと相談を始めた。


暫くするとふたりが揃って私の所に来る。


「予定を変えたくありませんので、魔物の位置を教えてください。それでも9層までに着くのに時間が掛かったら、今日はそこまでとします」


ふたりは任務と安全のバランスを考えて提案してきた。前回の浮ついた感じはなく、冷静に状況を判断しているようだ。


それからは順調に10層を目指して進んで行く。


魔物の位置がわかると、戦闘だけに集中できるので余裕を持って魔物を討伐できるようだ。


無理に兵士が広がる事もないので、無駄な戦闘も回避できた。それでも10層に着いたのはだいぶ暗くなった頃であった。


「ギリギリと言う感じね」


10層に降りる階段で、レベッカ夫人が呟く。


もう少し余裕だと思ったけど、最後に魔物の群れが連続して襲って来たので、時間が掛かってしまったのだ。


10層に降りて前回宿泊した場所を目指して歩き始めると、沢山の兵士がやって来たのに驚いた冒険者が近づいて来る。


「よぉ、今回は随分と多いんだな?」


前回、話した冒険者が声を掛けてきた。


「暫くは兵を常駐させるつもりだ。できるだけ迷惑を掛けないようにするから安心してくれ」


カルアさんが冒険者の質問に答える。


「また、ボス部屋で戦闘するのか?」


カルアさんは少し俺達を見てから返事する。


「暫くは常駐するための準備になる。また戦闘するときは相談させてもらうよ」


「わかった。本当にあんた達は礼儀正しいなぁ。男の兵士たちは当然のようにボス部屋は占領して、俺達は稼ぎが少なくなっていたから助かるよ」


「エルマイスター家も少しずつ変わっているのよ。これからはダンジョンで素材を集めてくれるあなた達を、大切に扱おうとしているわ」


レベッカ夫人が会話に割込んできた。


「こ、こちらのかたは?」


冒険者もレベッカ夫人の雰囲気で、何となく貴族と感じたのか丁寧に質問してくる。


「私はエルマイスター家のレベッカよ。数日だけど滞在するからヨロシクね」


レベッカ夫人が自分で答える。

私から色々なものを吸い取っているのか、益々若返り綺麗になっている。その彼女が打ち解けた感じで自己紹介して最後にはウインクまでした。


質問をした冒険者や他の冒険者も少し顔が赤くなっている。


サキュバスの魅了スキルが炸裂したぁ!


「「「よろしくお願いします!」」」


さすがに股間を抑えるようなことはなかったが、顔を見ると完全に魅了スキルに陥落しているようだ。


ボーっとした顔の冒険者に見送られ、橋を渡った頃には完全に暗くなっていた。


「みんな下がってくれ!」


私はみんなに注意して正確な場所に移動する。


「よしっ!」


ボス部屋の入口の裏に公的ギルドの建物の設置が完了する。


海側の柵に沿うように横幅いっぱいの3階建ての建物である。外観もこれまでダンジョンに設置した建物より大きく、内部もこれまでよりも広く造ってある。


この暗闇なら、冒険者は建物が設置されたことは気付いていないだろうなぁ。


兵士用の入口から全員が入って行く。


「事前に決められた部屋に各自で移動しろ。荷物を部屋に置いたら食堂に集合だ!」


カルアさんが大きな声で指示していく。


「私は例の魔道具を動かしてきます」


小声でレベッカ夫人にそう告げると、レベッカ夫人は頷いて答えてくれる。


私は建物に設置した『塩抽出魔導ポンプ2号』を動かすために移動する。


壁に手を添えると管理パネルが表示される。抽出準備を選択すると僅かだが壁の外から音が聞こえてきた。


中からは見えないが壁の一部が外側に移動し、海面にパイプを下ろしているはずだ。

前回のホースより頑丈で直径も大きくなっている。パイプ自体も魔法陣を改良して強化したので、予想では1時間で30~50トラムぐらいの塩が抽出できるはずだ。


今回はその『塩抽出魔導ポンプ2号』を3基設置してある。

管理パネルには塩の抽出量や海水からの抽出率、海面位置なども追加で表示されるようになっていて、その情報は文字念話を利用して大賢者クラウドにも送られる。


リモートで魔道具の起動・停止もできるようにして、塩分濃度や比重などが変わると通報が届くようにした。


これによりダンジョンの10層に来ることなく、『塩抽出魔導ポンプ2号』を管理できるようになるのだ。


念のために2日ほど10層で様子を見るが、これで暫くはダンジョンに来なくて済むだろう。


3基とも無事に塩を抽出し始めるのを確認すると、みんなの待つ食堂に戻るのだった。


食堂に到着するとレベッカ夫人が話を始めていた。


「それでは常駐する兵士はカルアの指示に従い、予定通り行動するようにしてください。私とアタルは調査や報告などこの建物から出ませんので、護衛は必要ありません。ブリッサ達護衛の兵士は帰還する日まで訓練をしてください!」


「「「はい」」」


「カルア、冒険者たちと良好な関係を築いて、素材や魔石など今以上に採取できるように彼らを助けなさい。結果的に領内が栄えることになります。

前にも言いましたが、危険な冒険者は遠慮なく排除して構いません」


「はい!」


「ダンジョン内で長期の任務になります。休憩はしっかりとってくださいね」


「「「はい」」」


それからは基本的に自由行動となったが、みんなは食事をしながら今後の計画を話し合っていた。


私とレベッカ夫人も普通に食事をとり、それぞれの部屋に移動する。



お互いに別々の部屋に入り、私がベッドでゆっくりしていると、壁が開いてレベッカ夫人が部屋に入って来た。この壁はレベッカ夫人の希望で用意したものだ。


私とレベッカ夫人しか開くことはできないようになっている。


「お待たせしたかしら。ペロリ」


すでに妖艶な下着姿のレベッカ夫人が私を誘うように見つめてくる。


その姿を見て3日ぶりの私は、レベッカ夫人に食べられる恐怖よりも、自分の欲望に火が付いてしまった。


そして私達は、お互いミューチュアル魔エッチという新たな扉を開いてしまったのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



その頃、冒険者ギルドの会議室で王都から来たギルド職員たちが、暗い雰囲気で話し合いをしていた。


「ギルドに来たのは商人の護衛で来た冒険者だけで、あとは薬草採取の納品に来た住民だけです」


人数が減った冒険者ギルドだが、現状では人が余っている状態なっている。


「それについてある程度事情が分かったぞ!」


発言をしたのはA級冒険者のアジスだった。


「うちのメンバーがダンジョンに行ったら、ダンジョンに入った所に買取所があったそうだ。ほとんどの冒険者はそこで買取してもらっていたようだ。買取価格を書いてきたから確認してくれ」


ギルド職員がアジスのメモを受け取って、レンドにメモを渡した。


「ふぅ~、これでは冒険者ギルドに人が来るとは思えないな。冒険者ギルドより買取価格が良いぐらいだ」


レンドの発言にさらに雰囲気は悪くなる。


「なぁ、俺の知っている情報では、ダンジョン内に建物は造れないと聞いていたが、方法が見つかったのか?」


アジスが質問する。


「いや、建物は建てられるが、放置すればすぐに消えるはずだ。買取所はどんな建物だったんだ?」


「石造りの立派な建物だったらしい。公的ギルドというギルドが買取してたようだ」


(この町はどうなっているんだ!?)


レンドはまた新たな事実に驚きが隠せなかった。ダンジョン内に建築物ができれば、冒険者ギルドの在り方も変わる可能性があるのだ。


「信じられんな……。公的ギルドも聞いたことがない」


「公的ギルドの噂は聞いています。なんでもエルマイスター領の役所のようなもので、今はまだエルマイスター家の関係者しかいないそうです。ですが近いうちに平民も登録できるようになるのではと、噂になっていると聞きました」


ギルド職員のひとりが説明する。彼は町の様子を探りに行った職員だ。


「それは冒険者も話していたそうだ。冒険者ギルド次第でダンジョンに入れるのが、公的ギルドの人間だけにするんじゃないかと言っていたそうだ」


アジスもダンジョン側の情報を説明した。


「公的ギルド……」


レンドは自分でも気づかないで呟いていた。


(それでは冒険者ギルドの存在が危ういではないか!?)


それにレンドは気になる話があった。


「冒険者ギルド次第だと言ったのか?」


「あぁ、そう言ったらしい。公的ギルドの職員は元冒険者ギルドの職員もいて、話を聞いた冒険者が、前から知っている職員だったから、そこまで聞けたようだ」


レンドは気が重たくなる。

冒険者ギルドの立場は非常に不味いのは分かっていたが、さらに領主との話し合いは大変になりそうだとおもったのだ。


「前のギルドマスター関連の調査はどうだ?」


「街中で話を聞きましたが、前のギルドマスターは最悪の人物ですね。王都から連れてきた冒険者だけを優遇して、その冒険者が町中で問題を起こすと、暴力を使って脅していたそうです。例の事件もほぼ報告書通りみたいで、残った職員にも話を聞きましたが、領主様に尋問されて自白していたそうです」


レンドは最悪の町のギルドマスターになったと悲しくなるのだった。

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