第10話 危険なエルマイスター家

「旦那様、凄いです!」


その言葉は夜の寝室だけで良いです……。


実は自分の予想以上の威力で、相手に当たっていたら、我々も被害が出ていた可能性があったとは、いまさら説明できなかった。


階段周辺の冒険者全員が我々の襲撃に参加したようで、地図スキルでは周辺に他の人は表示されていない。


彼らを拘束して荷物を全て収納する。

階段の降り口を挟んで、片側に拘束した冒険者を座らせる。その反対に移動したテントを配置して結果的には安全な場所で泊まることになった。


「隊長、階段の下に居る冒険者は襲撃には参加していないようです」


カルアさんが報告する。


「警戒を怠るな! そこの冒険者たちを奪還に来るかもしれん!」


私はどうしようか迷っていた。

慌ただしくダンジョンを進んだのは間違いだったと反省していた。


別にテンプレが発生したことは気にしていないが、未検証の装備や魔道具、武器が多すぎるのだ。


命に関わることを大雑把に進め過ぎていると反省するのだった。



   ◇   ◇   ◇   ◇



エルマイスター家の騎士団は、女性兵士も危険だと私はこの時に知った。


それともこれが、この世界の常識なのだろうか?


女性兵士の皆さんはきゃぴきゃぴと楽しそうに、恐ろしい会話をしている。


「アタル様から頂いた武器の性能を人で確認できるわぁ~」

「防具を着けた状態での確認もできそうだな!」

「最低でも一人は割当てがあるんですよね?」

「そうだなぁ~、まずは手足を一本ずつそれぞれが試すかぁ?」

「好きにできる男を譲ってくださ~い」


最後の発言は別の意味じゃないよね!?


「お前達! 旦那様が最大の功労者なんだから、旦那様の意向を聞かないでどうする!」


「「「は~い!」」」


クレアさんや、仕事中はアタル様と呼ぶようにすると言っていたのに、少し前から普通に旦那様と言っているじゃ、あ~りませんか!


それに意向とは何なんだよぉ~。


何か追い詰められている気がするぅ~。


「旦那様、この犯罪者たちはどうされますか?」


いやいや、どうされると聞かれてもぉ。


みんなで期待の満ちた目で、私を見ないでぇ~!


「ふ、普通はこういった場合にどうするんですか?」


「地上なら捕縛して担当者に引き渡します。そして尋問してから罪の重さに合った刑が執行されます。しかし、ダンジョン内の犯罪は捕縛して連行することが負担になるので、通常はその場で処刑するのが普通です」


おうふ、確かに連行するのは大変だけど……。


自分が死刑執行のサインはしたくない。


なんで期待の満ちた目で、全員が私を見て来るんだぁ~!


「す、少し考えさせて下さい……」


全員で落胆するのはやめてぇ~。


「そ、それよりも、下の階層の冒険者は、だ、大丈夫でしょうか?」


良い案が思いつくまでの時間稼ぎの為にも質問してみる。


クレアは少し考えてから答えを出す。


「ふむ、確認に行かせましょう。不意を突かれて攻撃されるよりは安全だと思います」


そんなに殺伐とした世の中なんですか!


自分の常識が全く通用しない事に余計に混乱してしまう。


「カルア班とブリッサ班で下に様子を見に行け! こいつらの仲間じゃなかったら、代表者を何名か連れてこい!」


クレアは寝室とは全く違って積極的だ。

ラナとは反対で、クレアは完全に受け身になるから……。


ちがぁぁぁう!


今はそんな事を考えている場合じゃねぇ!


「隊長、どこまでやって宜しいでしょうか?」


えっ!


「遠慮はいらん! こいつらの仲間で抵抗してきたら殺しても構わん! 仲間でなくとも抵抗したら殺して構わん!」


おうふ、過激だよぉ!


何で嬉しそうに準備を始めているのぉ。


「隊長ぉ、私達も手伝って良いですか?」


「ダメだ! 旦那様の護衛が居なくなってどうする!」


クレア班の全員が残念そうにしている。


「では、行ってきます!」


カルアさん、遠足に行くみたいに楽しそうに行かないでぇ~。



   ◇   ◇   ◇   ◇



暫くするとカルアさん達が4人の冒険者を引き連れて戻って来た。


2人は人族の冒険者だが、1人は熊獣人でもう1人は狼獣人の冒険者だった。


「下にいた冒険者はそいつらの仲間ではありませんでした」


カルアさ~ん、残念そうに報告しないでぇ~。


「そいつらは王都組の冒険者です。前のギルマスが王都から連れて来た連中で、色々な所で問題を起こしている連中です」


体格の良い人族の冒険者が頭を下げながら話す。


「そうだ! こいつらは町出身の新人冒険者を殺した疑惑もあるぐらいさ。一緒にされたら洒落にならん!」


熊獣人の冒険者は少し話し方は乱暴だが、明らかに捕縛された冒険者を嫌っているようだ。


「それと彼の事は前に合って知っています。彼は孤児院出身の冒険者で、私達が子供たちの護衛をしていた時に近づいて来て、警戒していたら子供たちが懐いていましたので。

タウロやシア達の事も良く知っています」


「あぁ、そう言えば孤児院出身の冒険者が居て、たまに差し入れしてくれるとシア達が言ってましたね」


私は思い出したように話す。


「俺は孤児院出身の冒険者でキジェンと言います。そっちの熊獣人のダルトも孤児院の出身です」


へぇ~、孤児院出身の冒険者も頑張っているんだぁ。


「も、もしかして、タウロの言っていたアタルさんかい?」


何故かダルトの話し方が丁寧になった。キジェンもダルトの質問を聞いて、驚いた顔で俺を見つめてくる。


「確かにアタルだけど……」


突然、ダルトとキジェンが跪いて話始める。


「院長や子供たちからも話は聞いています。病気の子供たちの治療から、食料の提供、薬草の買取など、すべてはアタルさんにしてもらったと聞いています。ありがとうございます!」


「それだけじゃねぇ。王都組の冒険者に切られたシアを治療して命を救ったのもアタル様だ! そのあとシアの胸を見ちまって、シアに殴られたとタウロが言っていたがな。はははは」


うん、タウロ君にはお仕置きが必要だね。


「あのつるペタのシアの胸を見たのか!」


「おう、でも最近は良く食べているのか、少し膨らんできたぞ!」


こいつらは何の話を始めているんだぁ!?


「おい、そんな事を話しているんじゃねぇ!」


「「わ、悪い……」」


もっと早く止めろよぉ。


「私はプレイル出身の冒険者でエイダスです。孤児院の子達の事と今回の事で、王都組の冒険者がほぼ一掃されました。これで町の連中も安心できます。ありがとうございます」


結果的に馬鹿な冒険者たちが居なくなったのなら良かったのだろう。


ついでに捕縛した冒険者の荷物をストレージ内で確認すると、いくつもの冒険者のギルドカードが出て来た。明らかに数が合わない。


「奴らの荷物の中からギルドカードが出て来たよ」


そう言ってストレージからギルドカードを取り出す。


捕縛した冒険者は腕や首にギルドカードを付けていた。


「おい、これは……」


結局、それは行方不明になった冒険者のギルドカードだった。


クレアを可愛がると言った冒険者が、他の冒険者になぜ捨てなかったと文句を言い。


文句を言われた冒険者が戦利品だから捨てたくなかったと言った。


こいつら、馬鹿なのか!?


殺害の自白していることも気付いていないのか、喧嘩しながら犯罪の証言をしてくれている。


それを聞いて、4人の冒険者は激怒して、自分達に殺させてくれと訴えてきた。


そしてそれを聞いた護衛の女性たちも縋るような目で俺を見てくる。


勘弁してくれぇぇぇぇぇ!


どちらに処分を任せても揉めそうである。


「こいつらは先日の件も含めて調査が必要だ! クレア、大変だが一度こいつらを連れてダンジョンから出る。尋問はハロルド様に任せることにする!」


こんな所で結論なんか出せないよぉ。


それに低階層でじっくり防具や魔道具を検証してから、進むことにしたい。


殺されないと思ったのか捕縛した冒険者は嬉しそうにしている。逆に4人の冒険者は納得できない表情をしている。


「アタル様よぉ、俺は納得できないぞ! 人を殺したこいつらは殺されて当然じゃないか!」


熊獣人のダルトは納得いかないと、本気で凄んで文句を言ってくる。


こ、こわいよぉ~。


クレアや護衛がダルトの雰囲気を感じて警戒を始める。


「殺したら殺すじゃ罪が軽すぎる! お前達はハロルド様の尋問を知らないのか? 指を1本ずつ切り落とし、目を抉り出すんだぞ。そして最後は人を殺す訓練に使われるか、魔物退治の餌にされるんだ!

簡単に殺すのはこいつらを楽にすることになるんだぞ!」


そこまでハロルド様がするとは思わないが、これくらい言ったほうが強烈だろう。


「旦那様は良く知っていますね。私も最初は犯罪者でした。片目だけ残すのは犯罪者に自分が殺されるのを自覚させるためですね」


そうなのぉ~! やっているのねぇ~。


「りょ、領主様は、本当は怖いと言われていたけど、本当だったんだ……」


「俺はこの前冒険者ギルドで『クレイジーオーガ』を直接見たよ。人の良さそうな顔でニコニコ笑いながら殴ったり蹴ったり、死にそうになるとポーションで治してまた殴る。

あれなら殺されたほうが楽だと思うぞ」


「「「………」」」


何故か殺させないために大げさに言っただけなのに、私が一番残酷な選択したみたいになってしまった。


捕縛されている冒険者は、泣きながらイヤイヤと首を左右に振るのだった。

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