第27話 謀 略②

レベッカは屋敷に戻ったので、ハロルドとアラン、腫れ上がった顔のサバルと3人でアランの息子がいる地下の牢にやって来た。


「ハロルド様、この度は思い上がって閣下のお客様に失礼な事を言って、申し訳ありませんでした」


アランの息子ブランは、謝罪しているがあまり罪の意識は無いようだ。

ブランも後になって、騎士団の規律を正すために見せしめにされただけで、周りから反省するように言われたが、重い罪になる事はないとも言われて、安心しているのだった。


「アラン、こやつはあまり反省しているようには見えんのぅ」


ブランは内心で舌打ちした。

誰でも良い見せしめにされた上に、牢に入れられて恥ずかしい思いをしたのだから、もう十分だろうと思っていたのである。


しかし、後ろに居るサバルを見て顔色が変わる。

ブランはサバルが隊長をしている第1部隊の隊員で、普段から目を掛けて貰っていたのである。今回の件でも見せしめだと言われて、そこそこ反省すれば牢から出されると、彼から聞いていたのであった。


そのサバルが顔を腫らしながら所々血が滲んでいる状態で、自分の父親であるアランの後ろに居るのである。


ブランは焦って言い訳をする。


「ほ、本当に反省しております。閣下のお客様であるアタル様には、改めて謝罪に伺いたいと思います」


最初は立ち上がって普通に謝罪していたが、今度は姿勢を正し、胸に手を持って来て敬礼の姿勢で話をする。


「閣下、この者は反省していないようです。また嘘の証言をするかもしれません。拷問により尋問したほうが宜しいと思います」


アランは息子とか関係なく厳しい提案をする。いや、息子だからこそ厳しい提案をしたのだろう。


しかし、ブランはまだ完全に状況を理解していなかった。わざと厳しい事を言って、反省を促そうと芝居しているのではないかと疑っていたのだ。


「まあ、焦るな。もう少し話を聞いてみようかのぅ。

ブランよ、アタルから作業の邪魔になるから、彼の護衛を含め訓練は遠慮するように言われたはずじゃが、なぜ彼の護衛である彼女らだけ優先して訓練をしておると言ったのじゃ?」


この質問にブランは自信満々に答える。


「そう言っておきながら、あいつは自分の護衛だけ訓練をさせているからです!」


「ほほう、牢に捕らえられているお主が、なんでそんな事が分かるのじゃ?」


ハロルドは髭を弄りながら、目を細めて追及する。


「そ、それは……」


「それはなんじゃ!」


ハロルドが叱責するように質問する。


ブランは渋い顔をしながら、言い難そうに話す。


「それは、……他の者から、…聞きました」


「それは誰からじゃ!」


「………」


ブランは仲間を売るようなことはしたくなかった。それに、まだ芝居ではないかと勘違いしていた。


「閣下の質問に答えぬようなやつです。拷問により尋問しましょう!」


アランの提案にハロルドは少し考えてから結論を言う。


「致し方あるまい。……サバル、他の者にブランの妻と子供を捕らえて連れてこさせろ。それにアドルとニュンヘル、ギャンが戻ったら、彼らも尋問室に連れてこい。彼らの家族も捕らえさせよ!」


ブランはハロルドの話を聞いて、本当に芝居なのか不安に感じ始める。

自分はアドル達の事は話していないのに、彼らが自分に話したことを知っていて、家族まで捕らえると聞いて、本当に大事になっている気がしてきたのだ。


それにサバルの腫れ上がった顔を見ると、見せしめの雰囲気ではない。


「閣下、私の家族はすべて捕らえてください!」


「まあ焦るな。……そうじゃのう、ブランの家族という事で騒ぐかもしれんのぉ。サバル、アランの家族にも監視を付けよ!」


「はっ!」


ブランはこの時になり、漸く見せしめとかではなく、本当の罪状として質問されていることに気が付く。


「お、お待ちください。きちんと答えますので家族だけはお許しください!」


「ふざけてるのか、今さらそんな事を言って信じられるかぁ!」


アランが激怒して怒鳴りつける。


「まあ待て」


ハロルドはアランの肩に手を置いて止めて、ブランに質問する。


「家族の捕縛は今さら撤回は出来ぬし、少しでも嘘や誤魔化しをすれば、家族も極刑になるのは間違いないが良いのか? まあ、協力をせぬなら、家族も極刑になるのは間違いないのじゃがなぁ」


ブランはハロルドの話に顔色を変えながらも、必死で返答する。


「う、嘘などつきません。質問にはすべて本当の事を言う事を誓います!」


「嘘をついたではないかぁ!」


ブランの返答に、またアランが激怒する。ハロルドが強めに肩を掴み、ブランに話をする。


「良いか。お主がクレア達だけ訓練をしていると嘘をついているか、それを吹き込んだ嘘つきが居ることで、彼女たちは辛い目に遭っているのじゃ。

彼女たちはアタルに言われて、皆が羨むほどの訓練環境がありながら、孤児院の子供の面倒ばかり見とる。それなのに、兵舎に戻るたびに酷い事を言われているのじゃ!」


ブランは全くそんな事は望んでいなかったし、聞いた話とまるっきり違う事を言われ混乱する。


「クレアたちはあの待機所から奥に入る事すらアタルに止められておるのに、誰が彼女たちは訓練していると言ったのじゃ!?」


「そ、それは、……アドルたちが見たと、……言ってました」


それを聞いて、ハロルドはフゥーっと息を吐き出すと、静かに問い詰める。


「クレア達すら奥に入れぬのに、どうやって関係ない奴らが見ることが出来るのじゃ?」


ブランは驚きの表情をして呟く。


「そ、そんな、だって、アドルが……」


「碌に確認もしていない事を、さも本当のように話して、罪のないクレアたちを陥れたんだ。俺は女、子供は守るのが騎士として大切だと幼き頃からお前に教えてきたはずだ。その守るべき相手をお前は陥れたんだぁ!」


アランは自分の息子がここまで愚かだとは思ってもみなかった。彼は目に涙を滲ませて怒りに震える。


ハロルドはアランの肩を軽く叩くと話をする。


「お前の息子は騙されたのかもしれぬ。もう少し冷静になれ」


アランは悔しそうにしながらも、ハロルドの方に振り返り頭を下げる。


「も、申し訳ありません。これほど愚かとは……」


ハロルドは振り返って頭を下げるアランの肩に再び手置いて慰める。


ブランは呆然とするしかなかった。

彼は少しでも兵が強くなれば、領の為になる思っていただけだった。そして幼いころから父に教えられた女、子供を守るためにも、彼女たちでなく自分達が訓練するべきだと思っていたにすぎない。


それを無下に断ったアタルを快く思っていなかったので、彼を批判するために、アドルから聞いた話をしたに過ぎなかった。


その結果、家族に迷惑を掛け、罪もない守るべき女性を自分が貶める事になるとは、彼は考えても居なかったのである。


すぐにサバルがアドル達を尋問室に連行したと報告すると、ブランは一人牢に残されるのであった。

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