第13話 ポーション納品

いつもの通りメイドさんに起こされ朝食を済ませると一度部屋に戻った。この後、ハロルド様より話があるというので待機しているのだ。


もしかして孤児院での行動を注意されるのであろうか?


院長には10歳前の子供なら尻尾を触っても基本的には問題ないと聞いた。それにできるだけどさくさに紛れて触るようにしていたし、明らかに幼い子供だけ触るようにしていたはずだ。


もし孤児院への出入りを禁止されたら、徹底して反論してやろうと思い、言い訳を頭の中でシミュレートする。


思ったより早くメイドさんが呼びに来た。案内されて応接室に向かうが、1階ロビーにクレアさんを除く護衛がいたので、水筒をいくつか渡して子供たちに届けてほしいとお願いすると、快く承諾してくれた。

カルアさんともう1名が水筒を受取と、すぐに屋敷を出て子供たちに届けに向かう。それを見届けると応接室に行く。



応接室に入るとクレアさんが頭を下げて迎えてくれる。

すでにハロルド様とレベッカ夫人、騎士団長のアランさんは座って待っていた。2名ほど初めて見る男性がいる。セバスさんはメイドに指示してお茶の用意させていた。


「アタルよ、忙しいのに済まぬな。今後のことについて話がしたくてな」


持ってくれていた人達が全員立ち上り、ハロルド様が話し始める。


「初めて会う者もいるので紹介しよう。この儂より歳を取った老人がメイベル・アルベイルで領の行政のトップじゃ。その隣がルーク・アルベイル、メイベルの息子で副官でもある」


メイベルさんは真っ白な長い顎髭が特徴で、杖で体を支えながら立ち、好々爺とした笑顔の中に鋭い目をさせている。

ルークさんはまさに文官といった感じの男性で、体は細いが知的な顔立ちで、目の鋭さがメイベルさんと親子だと感じさせる。


お互いに軽く挨拶を交わすとハロルド様に座るように促される。


アタルは窓側のソファに座り、正面にハロルド様とレベッカ夫人が座り、左手にアランさんとメイベルさんが座った。

クレアさんはアタルの後ろに立っており、ルークさんはメイベルさんの横に立っていた。


メイドさんが全員のお茶を入れ直し出て行くとハロルド様が話し始める。


「ここに居る者だけがアタルについて詳細を知ることになる。後はルーク説明してくれるか?」


「はい、アタル様がポーションを作成できることも含めて当面はここにいる者だけの秘匿事項とします。

アタル様はレベッカ様の遠い親戚でエルマイスター家の客人、それとハロルド様の相談役のような立場とします」


遠い親戚? 相談役?


何でそうなるのか良く分からずに疑問に思う。それを見ていたメイベルさんが補足してくれる。


「とりあえずアタル様には中途半端な立場になってもらい、今後の状況に応じて対処を考えようといった策になります。エルマイスター家の客人であれば護衛を付けるのも不自然でなく、都合の良い立場になります。遠い親戚というのは貴族が良く使う手ですな」


良く分からないが、現時点ではたぶん良い策なのだろう。


「要するにポーションを納品して頂ければ、後は自由にして頂いて問題ありません。それにエルマイスター家の客人となれば、他から横槍が入っても対処が簡単になるということです」


ルークさんがさらに補足してくれた。

正直言うと良く分からないが良いのだろう。自分としてもこの世界で生活していくことを考えると非常に助かるし、スキルの検証や知識を得るのにも便利だ。


「よ、よろしくお願いします。」


アタルが合意するのを見て皆さん頷いている。ルークさんが話を続ける。


「アタル様に確認したいのですがポーションはどれくらい作成できますか?

先日頂いた24本を騎士団の治療所で試験的に使用したところ、非常に効果が高く、治療所の者が至急追加で欲しいと言っております」


「アタル殿、できるだけ早く追加をお願いできないだろうか? あのポーションがあれば命が助かる者も多い。どうか頼む!」


アランさんが懇願してくる。


「いいですよ。どれくらい追加で必要ですか? すでにできている分をすべて出しましょうか?」


「「本当ですか!お願いします。」」


アランさんとルークさんが声を揃える。


テーブルの上に出そうかと思ったが、量があるので立ち上がってテーブルの横に行くと収納からポーションを出していく。24本入りの20箱と12本入り20箱を、更に新たに作った60本入りを2箱出す。


毎晩ポーションは作成していた。1本のポーションで薬草2本必要だが、毎日子供たちから10本束になった薬草を30束以上納品されていたので、約半分の15束を納品用としてポーションを作っていた。


「840本あると思います。箱なしで良ければもっと出せますが、どうします?」


そう言って振り返ると全員が口を開けて驚いているようだ。すぐにハロルド様は笑い始める。


「くっくっくっ、わっはっはっは、相変わらずアタルは面白いのう。これまで教会から10日毎に200本ずつ納品してもらっておったが、アタルは1ヶ月分を簡単に出してきて、さらにまだあると言うのじゃからのう」


「あ~、そうなんですね。こんなに必要ありませんかぁ?」


「そんなことはないのう。1本あたり金貨1枚で済むなら毎月3倍は買えるからのう。どうじゃ毎月2000本を納品可能か?」


それくらいなら特に問題ない。


「う~ん、それくらいなら問題はないと思います。受け渡し方法や納品用の箱について、どうするのか決めてもらいますか?」


「メイベルよ、ルークとアランと相談して必要な量と運用や管理方法も検討せよ! 最大で2000本じゃ!」


「りょ、了解しました」


その後、納品済みの24本入り箱を各所に配布し12本入り箱を補充用に、60本入り箱をアタルの納品用とすることがとりあえず決める。


現場での運用や詳細な管理方法はまた別に検討するそうだ。


そう言えば孤児たちの雇用について急がないとダメだと思い出す。


「孤児院の子供たちから数名雇う予定なのですが、住む場所とか紹介して欲しいのですけど、お願いできますか?」


「おぉ、そのことについてはレベッカに一任してある。どうじゃ進捗は?」


ハロルド様がレベッカ夫人に尋ねると、レベッカ夫人は少し考えてから答える。


「既に3か所ほど候補がありますが、後はアタルさんに直接見て決めてもらうのが良いですね」


「そうか、その中に例の物件も入っておるのか?」


例の物件? 何か違和感のあるやり取りだ。


「入っていますわ。アタルさん、この後一緒に物件を見てもらえる?」


少し不安もあるが、3か所の物件から選べそうなので大丈夫だろう。


「はい、問題ありません」


「そう、セバス、馬車の用意をお願いね」


「了解しました。すぐに準備をせますので、このままお待ちください」


そう話すと、セバスさんは部屋から出て行く。


「よし、他の者もそれぞれ仕事に戻れ! ふふふっ、今度の教会の納品は荒れそうじゃな」


他の人達はポーションを持って部屋を出て行く。


ハロルド様の最後のセリフは不穏な感じがしたが、関わらないようにしよう。

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