哀愁の木

 学内を散歩していると桜がたくさん生えていた。春に多くの新入生を迎えたあとに、新緑に包まれて青々としている頃だったであろうか。彼らに元気をもらい、私もみなぎるちからを振りまいていた。季節は変わり梅雨になった。毎日のように雨が降る中、彼らはみな立ち続けていた。その飛沫を身に纏うかのように、来る日も来る日も雨を受け止めていた。そして夏がきた。私はまた学内を散歩していた。いつものように彼らへ挨拶していたら一人だけ欠けていることに気づいた。幹から上が消えていたのだ。他の皆々は枝を少々失う程度で問題なさそうだったが、彼は違っていた。彼は死んだのだろうか、それとも生きているのだろうか。葉も少なく私には判断することができない。だから、生きているのかわからないけれど、そっと一言別れを言った。君に逢えたことにありがとう、ひとり寂しいかもしれないけれど行っておいで。

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