黒い人影
蛇の〆
第1話その日
その日それはそこに居た……
俺は吉野 嘉世(よしの かよ)
県立の高校に通う高校二年生だ。
俺が幼い頃住んでいた家のすぐにそばに墓地があってその隣は空き地だった。そこでは友達と侍ごっこやチャンバラごっこをよくしていた。
ある日の事、幼い俺と友達は墓地の方へ踏み入りその奥の竹藪の中にまで進もうとしたが、俺はそこで立ち止まった。何故ならその先には奴がいたからだ。
最初は黒いローブかカーディガンを羽織った人かと思った。単に幼い俺の身長が小さかっただけかもしれないだが、それでも俺の背丈の三倍ほどあって明らかに人ではない事にすぐ気付いたが、俺はそれがなんなのかわからなかった。
『なんだあれ?』
『あれってなんだよ。なんも見えねぇぞ』
と不思議そうに目の前にいる奴の存在を無視するかのようにおかしな事を言う友達。
『あれだよあれ、そこに立ってるじゃん』
『だから何もいねぇって』
『でもそこに居るんだって』
『お前ほんとは竹藪中入るのビビってるんじゃね?』と余裕そうに煽りをかましてくる。
『だからほんとに居るんだってば!』
それでも友達はそこには何も居ないと頑なに言い張るし嘘を吐いてる様子もなかった。むしろこっちが変な事を言ってるかのような態度だった。
それが確信に変わるのにそう時間はかからなかった。変わるのにかかったのはほんの一瞬、奴が手をこちらに差し向けてきた瞬間だ。そこから伸びる手は辺りの光を飲み込むかのように真っ黒でその顔はどす黒く顔の輪郭ははっきりとしてるのに顔のどこに、どの部位があるか検討も付かなかった。だが背筋に悪寒が走り、そこで俺は急に怖くなって友達を強引に連れて逃げ出した。
『うわっ急に何すんだよ!』
『いいから!こっち急いで!』
咄嗟にそう言い気付いたら墓地の手前の細道に出ていた。
細道と墓地の境界線上で奴はパタリと動きを止めた。俺はほっとし胸を撫で下ろした。きっと墓地の中でしか自由に身動きが取れないのだろう。
いわゆる世間で言う所の俺はあっち側が見える人だったのだ。此方からあちら側が見えると言う事は当然向こうからも俺が見えてたと言う事だ。それが不味かったなど幼い頃の俺にはわかるわけもなかった。
その当時幼かった俺が周りに何を行っても信じて貰えずに『きっと自分達の影を見間違えたのだろう』と酒を飲む大人達に笑われた。でも確かにそれは陰なんかじゃなかった夕暮れ時、太陽が西に沈む時に影は普通、東に出来るはずだが俺たちが向いていた方角も西だった。西に太陽が沈むのに西に影が出来るのはおかしいと幼いながらに俺は主張し続けたが次第に友達はその時のことを忘れ、その友達とも疎遠になっていった。そして引越しをして次第にあちら側のものを見ることも次第に減っていった。
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