狂った世界に私はいらない、狂った私に世界はいらない

毒の徒華

だって命は平等なんでしょう?




【小学校】


「今日は道徳の授業です。道徳の教科書の4ページを開いてください。今日は『命は平等』という内容の授業をします」


「命の重さとは言いますけど、命に軽いも重いもありません。命は全部平等なんですよ」


 先生がそう言っているのを聞いて、僕は「そうなんだ」と思った。




 僕は学校の帰り道、見つけた虫を捕まえた。

 その虫の脚を一本一本ちぎってみた。


 楽しい。


 もがき苦しみ、力なく抵抗している虫を見て、僕は笑いながらあえてゆっくり脚を引きちぎる。

 全ての脚を引きちぎられて、もう動く術を失った虫に対して、次は背中の羽をゆっくりちぎっていった。虫が死なないように、ゆっくりゆっくり引きちぎっていく。


 楽しい。


 僕は、虫がどのラインで死ぬのか探りながら、ピンセットで丁寧に虫の内臓を出していく。

 内臓を取り出し終わってそれを丁寧に並べながら、もう生きているのか死んでいるのか解らない虫の部位を一つ一つを観察していた。


 僕は楽しくてそれを何度も繰り返した。




 ***




【中学校】


 僕は生きた魚を解剖してみた。


 楽しい。


 生きている魚の目をカッターナイフで刺して抉り出し、そっと水の入れてあるコップの中に入れた。

 魚が死んでしまわないように時々その魚を水の中に戻してやった。呼吸ができて息を吹き返した頃に再び捕まえてまな板の上に引きずり出し、再びカッターナイフの刃を魚に向けた。尾の方からゆっくりと輪切りにしていくと、魚は痛がっているのか一層暴れた。


 楽しい。


 内臓を傷つけないように腹を裂いて、腹の中に入っている内臓を引きずり出していく。

 魚はまだ生きている。

 魚の心臓をゆっくりとピンセットで取り出すと、小さいながらも動いているのが分かった。僕はその心臓を思い切り引っ張り、引きちぎった。魚はそれでもまだ少しは生きていたが、間もなくして魚は息絶えた。

 まな板の上は魚の血で真っ赤になっていた。生臭いその匂いと、真っ赤に染まった自分の服を見ると僕は楽しくて楽しくて、顔を歪めて笑った。

「生きている」と「死んでいる」の境目を探すのは楽しかった。




 ***




【高校生】


 僕は猫の四肢をそれぞれ縛り上げ、お腹が上になるように固定した。

 これから生きている猫の解剖をする。


 楽しい。


 猫は「ニャーニャー」と鳴きながら、なんとか縛られている縄を振りほどこうとするが、きつく縛り上げているからほどけることはなかった。

 僕はまず尻尾をハサミで切り取ってみることにした。

 骨があるので容易にはハサミは入らなかったが、思い切り力を入れて両手でハサミを握り込むと、嫌な音がして尻尾は切れた。

 猫は痛みで叫び声をあげて暴れ狂い、尻尾を切り落とした部分からとめどない血が溢れ出ている。


 楽しい。


 僕は暴れている猫を左手で押さえつけ、メスを猫のお腹に入れた。虫や魚にしたように内臓が傷つかないよう皮膚を裂き、小腸を引きずり出した。

 ゴム手袋をしている上からでも猫の小腸は暖かいと感じた。夥しい血が溢れだしているが、まだ生きている。

 ずっと抵抗する為に鳴いているが、徐々に鳴く声が小さくなっていった。


 楽しい。


 僕は虫や魚との違いを確認していったが、内臓を取り出して同じように並べていく過程で、生物として構造は変わらないことに気づいた。

 これ以上楽しいものなど他にあるのか?




 ***




【大学生】


 僕は何気なく食べている牛肉を、自分で作りたいと思った。

 夜の牛舎に忍び込み、牛を一頭盗んだ。逃げ出さないようにしっかりと身体を紐で縛り上げ、固定した。

 牛を物理的に殺すのは困難だと思ったので、僕は毒を牛に注射して牛が死ぬのを待った。

 毒を打ちこんで少しすると牛は苦しみだし、バタバタと力の限り暴れ、口から泡を吹き「モー! モー!」と鳴いていたが、やがて動かなくなった。


 楽しい。


 動かなくなった牛に包丁を入れて内臓を掻きだしていくが、牛のはらわたに手を入れると熱いとすら感じた。

 今まで通りにひとつひとつ内臓を並べていき、僕はひとつひとつ確認する。


 楽しい。


 僕は牛の精肉の動画を見て、その通りの方法で解体しようとするが、不慣れな僕はなかなか解体が進まない。僕は懸命に牛の部位をスーパーで売っているような切り身にしてみた。

 血まみれだが、肉を洗えばいつも僕が食べている牛肉になるだろう。

 血まみれになって、牛の内臓にまみれている僕は最高に高揚し笑みがこぼれた。

 服を着替えて家に帰り、切り取った部位を調理して食べてみたが、いつも食べているものよりもずっと美味しいと感じた。




 ***




【社会人】


 僕は、人間の男を一人攫ってきた。

 酔っぱらっているところを介抱するふりをして連れてきたのだが、驚くほどすんなり連れてくることができた。腕を後ろ手に縛り、脚も動けないように縛り付けた辺りでやっと酔いが醒めてきたのか、僕に対して恐怖心を示した。

 騒がれると困るので、口にはぎゅうぎゅうに布を詰めてガムテープを何重にも巻いておいた。


 たのしい。


 何か言っているようだけれど、僕は興味がないので耳を貸さなかった。

 僕がメスを持って男に向かうと、男はより一層もがき、声をあげていた。死なないようにゆっくり胸から腹を裂いて、内臓を取り出す。

「んー! んー!!!」と男はもがき苦しんでいる。目からは涙が零れ落ち、充血していたし、冷や汗が浮かんでいた。


 タノシイ。


 僕はなるべく長く生きられるように、丁寧に内臓を切り取り、止血をしながら取り出して並べていった。

 肋骨が邪魔なので専用のハサミで丁寧に切り取っていく。

 すると、まだ動いている心臓が出てきたので僕は触ってみた。ドクン……ドクン……と動いている心臓をギュッ……と掴みあげると、男は断末魔のような叫びをあげた。僕は心臓を力任せに引っ張って、メスで血管を切るとおびただしい血が溢れ出て、やがて男は息絶えた。


 たノしイ。


 僕は死んだ男を精肉処理し始め、細かく切り分けてみた。

 生白く、赤身の少ない肉だと僕は思った。

 僕はスーパーの精肉コーナーにあった、ポップな絵柄で笑っている牛や豚の絵を思い出して、殺した人間の笑っている似顔絵を描いた。

 僕は絵が得意ではないけれど、特徴をとらえて満面の笑みを浮かべている絵を描いて、肉の部位によるそれぞれの値段などを考えて書き添え、不器用ながらもお買い得感を出せたことに満足感を得た。

 捌いた人間の肉を牛の肉が入っていたパックに入れてラップをかけ、冷蔵庫に入れて、僕は血まみれの服を着替えてその家を後にした。


 タのシい。


 人間の肉は美味しいのかな?




 ***




【ブログ】


「今まで虫、魚、猫、牛、人間を殺した」


「命は平等というふうに教えられた。僕もそう思う」


「中身はみんな同じだった」


「殺された豚や牛も笑顔でスーパーに並んでいる。人間も同じようにしたからきっと笑顔になれる」


「今度人間を食べようと思う。美味しいかな?」




 ***





【容疑者】


「本日、×××県○○○市で殺人事件の容疑者としてあずま恭一郎きょういちろう容疑者が逮捕されました。東被告は××××年○○月△△日に発見された土屋つちや篤史あつしさんを殺害した疑いがもたれています」


「動機について東容疑者は“命は平等だから、人間も殺した”と容疑を認めています」




 END



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