第3章 九条琢磨 14
「その男・・一体どうやって本田さんの居場所を突き止めたんでしょうね?」
琢磨はハンドルを握りながら尋ねた。
「興信所を使って調べたそうです。本当ならレンちゃんの居場所を突き止めることも出来たそうですが、下手に近付いて誘拐犯にでもされたらたまらないと思ったそうですよ。」
「そうですか・・・。興信所を利用して・・。興信所の人間は鼻が利きますよね。私は興信所の調査員の知り合いがいるんですよ。」
その時、琢磨は航の事を思い出していた。
「そうなんですか?さすが社長さんですね?興信所で働いている知り合いの方がいるなんて・・・。」
舞は感心したように言う。
「いや・・それほどの人物でもないですけどね・・・。」
(何せあの航だからな・・・。)
琢磨は苦笑しながら言う。
「とにかく、それでレンちゃんを自分に渡すように迫ってきたんです。でも私は断固拒否しました。姉からの遺言だったのです。絶対にレンちゃんを父親には渡さないで欲しいって・・・。姉の離婚の原因は・・あの人からのDVだったのですから。」
「DV・・・・。」
航は幼稚園で会った時の状況を思い出していた。確かに言われてみればあの男は今にも舞に手を上げそうな素振りを見せていた。
「それなら・・尚更レン君を渡すわけにはいきませんね。」
「はい。そう思って・・私は必死であの子を守って来たのに・・・まさか幼稚園の運動会にやって来るなんて思いもしなかったんです。」
舞は制服のズボンをギュッと握りしめた。
「本田さん・・。」
「今もこうしている間に勝手にレンちゃんを連れて行ったりしていないかと思うと心配で・・。」
舞は身体を震わせながら言う。
「まだ幼稚園に着くまでは時間がかかりそうなので一度電話を入れて確認してみてはいかがですか?」
琢磨の提案に舞は頷いた。
「言われてみればそうですね・・・。分かりました。すぐに連絡を入れてみます。」
舞はスマホを取り出すとタップし、電話を掛け始めた。
「あ、もしもし。本田ですけど・・。あの・・・レンちゃんは大丈夫ですか?!え?無時?ああ・・良かった・・。え?まだ・・父親は幼稚園に居座っているんですか?・・はい。今幼稚園に向かっているので・・もう少しだけ待って下さい。はい。よろしくお願いします・・・。」
舞はスマホを切ると溜息をついた。
「どうやら・・・まだ父親は幼稚園にいるようですね・・。」
琢磨は言った。
「はい、そうなんです。園長室にいるようで・・・。レンちゃんを引き渡せと訴えているそうです。」
「・・・急ぎましょう。」
琢磨はアクセルを踏む足に力を込めた―。
****
「レンちゃんっ!」
幼稚園に着くと、舞はレンのいる教室へ駈け込んだ。レンは他の子供達とは違う別室に幼稚園の女の先生と一緒にいた。
「あ!舞ちゃんっ!」
レンはクレヨンでお絵かきをしていたが、舞の姿を見ると駆け寄って行った。
「舞ちゃん!怖かったよぉ~!」
レンは舞に抱きつくと泣き始めた。
(可哀そうに・・・よほど怖い目に遭ったのかもしれない。)
琢磨は思った。
その様子を見ていた女の先生はレンに言った。
「良かったわね~・・・レン君。お姉ちゃん来てくれて。」
「うん!」
レンは舞に抱きつきながら笑顔で答えた。
「ところで・・・。」
レンの担任の女性は琢磨に視線を移すと尋ねてきた。
「失礼ですが・・・貴方はどなたですか・・?」
「あ・・私は・・・。」
(そうだよな・・・。普通尋ねるよな。)
「彼女の友人ですよ。」
「友人ですか・・?」
明らかに不審そうな目で琢磨を見つめて来る。すると脇から舞が口を挟んできた。
「はい、友人です。レンちゃんの父親と話がしたいので案内して頂けますか?」
舞はレンを抱きしめたまま、しっかりした口調で言った―。
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