第1章 安西航 20
「お前・・・さっきから・・随分失礼な事ばかり言う男だな・・・?」
そして南は茜を見るとさらに言う。
「おい、茜!お前・・何だってこんな男と付き合い始めたんだ?!自営業なんて言ったって見るからにこいつは怪しい男だと思わないのか?!全く・・・相変わらずどんくさい女だな・・。だからお前には俺が付いていないと駄目なんだ・・・。」
「ご、ごめんなさい・・・南くん・・・。」
茜は南の大声にびくりとなり・・俯いた。その様子を見て航は嫌な予感を感じた。
「おい、お前・・・いつもそんな横柄な口を茜に聞いていたのか?」
「は?何言ってるんだ・・?こんなのは別に普通だろう?」
南は眼鏡の位置を直すと言った。その時―
トゥルルルルル・・・
どこからともなく着信音が聞こえてきた。3人は互いに顔を見渡し・・航は言った。
「おい・・お前に電話がかかってきているぞ?」
すると南はチッと舌打ちをしてスマホをカバンから取り出し、眉をひそめた。
「出ないのか?」
「ああ・・いいんだ。」
しかし南はソワソワしているし、いまだに電話は鳴りやまない。
「おい、出た方がいいぞ?俺たちに構わずに。」
すると南は声を荒げた。
「おい・・!今・・・何て言った?俺たちに構わずにだと?ふざけるな!茜とお前を一緒くたにするなよっ!」
「・・・。」
航はそれに答えず、黙って腕組みをしながら南の様子を見つめていた。やがて電話は鳴り終わったが、再びすぐに南の電話が鳴り響く。
「おい、また電話が鳴ってるぞ?もういい加減出てやれよ。どうせ・・女からだろう?」
航の言葉に南はピクリと肩を動かした。
「南くん・・・その電話の相手って・・社長令嬢なんじゃないの・・?」
茜の言葉に南は茜をギロリと睨み・・渋々スマホをタップした。
「もしもし・・。」
そして南はこちらをチラチラ伺いながら応答している。
「ああ・・・分かってるよ。明日だね・・?うん、それで・・今ちょと取り込み中なんだ。また後で電話するから・・。それじゃ・・。」
そして南は電話を切り・・溜息をついた。
「お前、本当はもう・・付き合っているんだろう?今の電話の女とさ。」
航の言葉に茜は驚いた。
「え?そ、そうなの・・・?」
「・・・。」
しかし南は黙っていて答えない。
「ほらな、返事をしないって事は・・肯定を意味してるんだよ。」
すると南はイライラした様子で航を見ると言った。
「別に・・付き合っているわけじゃない。ただ・・どうしても断り切れなくて一緒に食事に出かけたり・・お酒を飲みに言ったりした事は・・ある。」
「南くん・・・。」
茜の呼びかけに南は言った。
「だって・・・仕方がないんだよっ!相手は・・俺の勤め先の社長令嬢なんだ!断ればクビになるかもしれない。だから俺は・・相手を・・。」
「だったら・・普通は茜と別れるよな?何で別れようとしないんだ?」
南は強い視線で航を見た。
「お前・・自覚は無いかもしれないけどさ、茜にDVしてるだろう?」
「「!!」」
茜と南が驚いた様子で航を見た。
「ふ・・ふざけるな・・俺は一度たりとも茜に暴力なんか振るった事はないぞ?」
「別に・・DVは暴力だけにとどまらないだろう?お前のその威嚇する態度・・どう見ても言葉の暴力に見えるけどな?茜がお前が付き合っている女と親から脅されているのに別れてやらないのだって立派なDVだと思うぜ?」
「・・・。」
南は唇をかみしめながら航の話を聞いている。
「お前さぁ・・茜と別れないのは・・当たる相手が必要だからだろう?あの電話の様子だと・・お前は随分気を使っているように感じたからな。まぁそれはそうだろう?相手はお前の会社の社長令嬢なんだからな。茜に対するような振る舞いは出来ないだろう。だがな・・・。」
航はそこではっきり言った。
「お前の都合がいいように茜を利用するんじねぇ!こんなお前の傍にいつまでも茜を置いておけるかよ!いいか?俺の本業は興信所の調査員なんだ。お前が付き合っている社長令嬢だか何だか知らないが・・勘単に探し出せることが出来るんだよ!お前が本当は乱暴な奴だって言う証拠を突き付けることぐらい勘単に出来るんだっ!」
言いながら航はYシャツの胸ポケットから万年筆を取り出した―。
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