第1章 安西航 14

夜10時―


「それじゃあな、琢磨。」


航は居酒屋の前で琢磨に手を振った。


「ああ、それじゃあな。」


そして2人は互いに背を向けて歩き出し・・航は振り返ると琢磨に呼びかけた。


「おい!琢磨っ!」


「ん?何だ?」


歩きかけていた琢磨は振り返り、航を見た。


「琢磨、お前いつまで沖縄にいるんだ?」


「ああ・・明日の昼には帰る。」


「はぁ?お、おい・・・その話・・本当か?」


航は琢磨に駆け寄ると言った。


「ああ、そうだ。」


「冗談だよな?」


「冗談を言ってどうするんだよ。」


「だって・・・あんなに荷物を持ってきていたじゃないか・・。」


すると琢磨は頭を掻きながら言った。


「ああ・・それなんだけどな・・本当は2、3日は滞在予定だったんだが・・会社でちょと取引先とトラブルがあったらしくて・・・二階堂社長から電話が入ったんだよ。だから明日戻ることにしたのさ。悪かったな、肝心な事言い忘れて・・。」


「ったく・・・何だよそれ・・折角明日は何所か観光案内してやろうかと思っていたのに・・。」


「ああ、悪かったな。なーに、又来るさ。その時はよろしくな?」


琢磨は航の背中をバンバン叩きながら言う。


「ああ・・よし、それじゃ飛行場まで送ってやるよ。」


「そうだな。頼めるか?」


「ああ、勿論だ。10時にホテルに行くから待っててくれ。」


「分った、それじゃ明日な。」


2人は今度こそ、手を振って別れを告げた―。



 

 事務所までの道のりを航は酔い覚ましも兼ねてブラブラと歩いていた。空を見上げれば満点の星空が輝いている。


「やっぱり沖縄の夜空は綺麗だな~こんな星空を朱莉と2人で見れたら・・・。」


しかし、そこで航は首を振った。


「駄目だ・・・もう朱莉は今度こそ本当の人妻になってしまったんだ・・・。諦めなくちゃいけないって言うのに・・。」


航は深いため息をつきながら事務所まで歩き続けた―。



 事務所に到着したのは23時になろうとする頃だった。


航は欠伸を噛み殺しながら電気をつけると、まず始めにPCの電源を入れた。仕事の依頼が届いていないか見る為である。スマホでも見る事があるが、中には添付ファイル付きのメールが届くときもある。なので航は仕事の依頼は必ずPCでチェックするようにしていた。


「あれ・・・?」


その時、航は1通のメールに気が付いた。それは茜からであった。



『安西さん、依頼したい事があります。メールではお話しにくいので、明日の18時に事務所に伺ってもよろしいでしょうか?』



「・・・?」


航はそのメッセージを読んで首を捻った。


「俺に依頼したい事・・?メールでは話しにくい事って・・一体何なんだ?もしかしこの間の猫の件か・・・まぁいいか。明日会って話を聞けば分ることだ。えっと・・・それ以外は・・・。」


こうして航は30分かけてメールのチェックをした。



「よし、終わりっと。」


航はPCの電源を落とすと、シャワーを浴びる為にバスルームへと向かった。




****


「ふ~・・さっぱりした・・。」


シャワーを浴び終えた航は髪をスポーツタオルで拭きながらバスルームから出てきた。そして台所へ向かうと、小型2ドアの冷蔵庫を開けて中から発泡酒を取り出した。そのまま事務所へ向かい、ベンチソファにドサリと座ると発泡酒を目の前のテーブルに置いた。


プシュッ


プルタブの蓋を開けると航は発砲酒を一気飲みした。


「ふう~・・・。」


空になった発泡酒をテーブルの上に乗せると、航はそのままベンチソファに座り、手元のリモコンで照明を消すと、欠伸をした。


「う~・・眠い・・・もう今夜はこのまま寝てしまおう・・・。」



そして航は眠りに就いた―。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る