†血族たちの秘密†
如月統哉
†嵐の夜の談合†
我の血族の登場人物の、意外とおちゃめな裏話
風が唸る。
外を、全てを切り裂くかのように、龍の如き
…そんな、嵐の夜。
「退屈ですね…、カミュ様」
…精の黒瞑界にある、とある屋敷の一角で…
ソファーに座っていたカイネルが、その近くにあるテーブルに突っ伏しながら呻いた。
外は相変わらず、強風が猛威をふるっている。
こんな嵐の夜は、いくら六魔将といえど、好んで出かけることなど、まず無い。
すると、カイネルの呟きを受けて、ソファーに深く腰を落ち着け、雑誌らしきものを読んでいたカミュが、それから目線を逸らし、カイネルの方へと向けた。
「…確かに退屈だな」
すると、その一言を聞きつけた、他の六魔将…
すなわちシン、フェンネル、サリアが、それぞれ考え込む。
主が退屈だと言うのであれば、それをどうにかするのも、六魔将たる者の務めだ。
「カミュ様」
真っ先に口を開いたのはシンだった。
「あの…もしよろしければ、トランプゲームでもしませんか?」
「…トランプゲーム?」
カミュの問いに、シンは頷くと、近くにあったアンティーク作りの家具の中から、それに見合った古めかしいトランプを取り出した。
「これ、この間、ここに入ってたのを偶然見つけたんですよ」
「へぇ…、随分古い型のトランプだな。しかしシン、お前、人間共の遊びのトランプなんか…分かるのか?」
カイネルが、冗談混じりに笑ったその途端、その当のカイネルの首に、シンが扱う、魔力で作り出された鋼線が、一瞬にして巻き付いた。
「…一度死んでみるか? カイネル」
シンが目を据わらせて告げる。それにカイネルは怯みつつ、冷や汗を流した。
「!じょ、冗談だ…、冗談に決まってるだろ、シン!」
「これだけ共にいて、まだ分からないのか? 俺はな、質の悪い冗談は嫌いだ」
言いながらも、シンは僅かに鋼線を軋ませる。
見るに見かねて、フェンネルが口を挟んだ。
「お前たち、いい加減にしないか…!」
「!フェンネル…」
フェンネルに咎められたシンは、渋々ではあるが鋼線を解いた。
それに、ほっと一息ついていたカイネルに、容赦なくフェンネルの雷が落ちる。
「カイネル! どうしてお前はいつもそうなんだ!?」
「…また説教タイムか…
それより、何で矛先は常に俺なんだよ?」
カイネルが、不満そうに首元を掻いたその瞬間、がら空きになっていたその鳩尾に、
「あんたが大人気ないからでしょ!」
予想通りというべきか、サリアの強烈な肘鉄がヒットした。
「!ぅぐっ…」
その凄まじい威力の肘鉄を食らったカイネルは、思わずその箇所を押さえつつも悶絶する。
声すらも出ず、無言でテーブルに突っ伏すカイネルを、唖然とした表情で見ていたシンは、やはりどのようなことがあろうとも、この二人を敵に回すべきではないと、強く感じ取っていた。
…程なく、怒りが冷めたらしいフェンネルが、はっと気付いてカミュに謝罪する。
「お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません、カミュ様」
「構わない。…いつもながら見事な落雷だな、フェンネル。六魔将の中では、雷はカイネルの専売特許だが…
お前もその気になれば扱えるのではないか?」
楽しげに笑いながらも、皮肉を込めるカミュに、フェンネルは苦笑した。
「カイネル相手では、誰でもそうなるでしょうね」
「…そうだな」
カミュは、手にしていた雑誌を、無造作にソファーの下へと置いた。
続けて、魔力を使うと、シンの手元にあるトランプを、自らの手に引き寄せる。
「えっ?」
手元からトランプが失せたことに驚いたシンは、そのトランプの行方を目で追った。
それがカミュの手に収まる頃には、シンにはすっかりカミュの思惑が分かったのか、向かい合わせの形で、ソファーに腰を落ち着ける。
カミュは手にしたトランプを、慣れた手つきで切ると、誰にともなく呟いた。
「…こんな退屈凌ぎも、たまにはいいだろう。
さて…、何のゲームをする?」
「!あ、じゃあ、カミュ様…」
サリアが、おずおずと進言する。それにカミュはその紫の目を向けた。
「何だ、サリア」
「…あの…、知識でしか知らない、【七並べ】とかいうゲームをやってみたいのですが」
「…いいだろう」
頷いたカミュは、切り終えたカードから7のカードのみを4枚抜き、それを縦に並べた。
再び、カードを複数回、よく切ると、それが無くなるまで皆の前に一枚ずつ配る。
…トランプの全カード枚数は、ダイヤ・スペード・クラブ・ハートの4種類×エースからキングまでの計13枚、合計52枚に、更にジョーカー2枚を加えた、54枚だ。
この54枚のカードから、先程の4枚、それとジョーカーを1枚抜き取って残った49枚を、サリア・フェンネル・カイネル・シン、そして自分(カミュ)の5人で分けると、一人あたまのカード枚数は、9~10枚となる。
つまり、この人数にこの枚数だと、4人は手持ちのカードは10枚、残ったひとりが9枚となる。
カミュは、このゲームをまだ知識としてしか認識していないサリアに、あえてハンディのつもりで9枚のカードを渡し、その代わり、順番は最後にすることにした。
カードを出す順番は、カミュ、フェンネル、カイネル、シン、サリアの順だ。
…早速、カミュが1枚目を出した。
箇所は、クラブの8。
続けてフェンネルとカイネル、シンが、立て続けにスペードの8、9、ハートの8と出してゆく。
「さすがにみんな手慣れてるわね…」
半ば感嘆しながら、サリアは手持ちのカードと、既に出されたカードとを良く見比べ、ダイヤの6を出した。
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