君の視線の先に私はいない
初恋は彼だった。
初めてのキスも彼だった。
でも初めての恋人は彼じゃない。
授業中。私はふと――いや、意識的によく彼を見る。斜め後ろからその顔を見る。何度見てもいつみても素敵で見惚れてしまう。
でも一度たりとも彼と目が合うことは無い。彼は真っすぐ黒板を見て、時折、他所を向く。私の方じゃない別の人。その時、私は決まって現実と一緒に目を逸らす。
ある日、私は思い切って想いを伝えた。場所は図書館の隅。放課後は先生も席を外してる事が多いから。
「私、あなたの事が好きなの」
分かっていた。無理なことぐらい。でももしかしたらって思って。胸の中には水に垂らした一滴の赤のように淡い期待があって。それを掬い上げたくて。
「ごめん。俺、好きな人いるから」
でもやっぱり赤は指を零れ落ち水へ溶けていった。
「誰?」
知ってたけど、私じゃないその子の事を尋ねた。
「青山」
「でも彼氏いるよ?」
「分かってる」
なら私にしとけばいいじゃん。そう思った。どうせそっちが叶わないならこっちにしてよ。
「でも好きだから」
そう言うあなたの双眸は他所を向いていた。こんな時でさえ私を見てくれない。あなたがずっと彼女を見ているように私もずっとあなたを見てるんだから。ちょっとぐらい私も見てよ。
「ごめん」
謝るぐらいならほんの少しでいいから私を見て欲しかった。
だから彼の胸に触れながら少し顔を近づけた。逆に退いた彼は後方の本棚にぶつかる。
「嫌だ」
構わず近づく憧れの顔。
「お、おい」
そして私は触れ合う一歩手前で止まった。
「一回だけでいいから。私を見てくれてたらそれで」
彼の息遣いが分かる。私は彼を見上げたが目は合わない。
「いい? 嫌なら突き放してよ」
数秒。ずっと彼は目を逸らしたまま。
でも次の瞬間、その綺麗な瞳が私の方へ向いた。目と目が合う。私の瞳には彼がいて、彼の瞳には私がいる。
その瞬間、思わず最後の距離を縮めた。待っていた時間よりも短いほんの一瞬。
離れていく最中もずっと合い続けた目。
「ありがと」
私は喜色を浮かべてその場を去った。
嬉しかったけど、もう合うことは無いんだと思うと少し寂しかった。
次の日。私は授業中、彼を見つめていた。
すると不意に彼が私の方を見て目が合った。
吃驚としながらも私は自然と笑みを浮かべる。
でも彼は少し慌てるように顔を逸らしてしまった。
もしかしたら。そう思ったけど……。
だけどやっぱり彼は彼女の事を見ていた。
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