第23話
ミーナの大きな声は、雨音に負けない位、よく響いていた。
その為。
「…………」(疫病神がまた騒動を呼んでいるみたいだな……)
リアナは静かにそう感じ、無視しようと思っていたのだが。
「ミーナさん、何か問題でもあったのでありますかね……」
アレクの心配そうな声を出して起き上がり、そして。
「あの、ミーナさんを助けてあげたいのですが……。 兄上の奥さんでありますから……」
申し訳なさそうな目でリアナは見つめられ。
(わ、私に手伝えと言うのか……。 絶対面倒事になりそうなのに……)
その時、リアナは非常に嫌そうな表情でアレクを見つめてしまった。
「い、嫌でありますか……?」
「…………」
そして、アレクの潤んだ瞳から放たれた言葉により、リアナの頭上にて、白銀の鎧を纏う天使とジャージを着た悪魔がぶつかり合い始めるのである。
(怠けたい気持ちも分かるが、一生懸命に私に尽くしてくれたこの子の力にならないでどうする!? こんな時に助けないで何が元騎士団長だ!)
(ウェーイ! 怠ける行為最高! ニート最高! 面倒事反対フー!)
(第一ここで助ければ、子供の様に純粋なアレクの事だ、私に忠誠を誓うだろう? つまり、便利な執事ができる訳だ! それなのに、助けないなんて何を考えているんだ!?)
(助けるの賛成ウェーイ! 助けない気持ちはリムっちゃわないとウェーイ!)
(それに、最終的には私に惚れさせてしまえば、楽に結婚が出来るぞ! しかも玉の輿だぞ、ククククク……)
(玉の輿ウェーイ! 惚れさせテクなら私にお任せフー!)
どうやらリアナの中には悪魔しかいなかった様だ。
しかし、リアナ自信は善心を持っていた為。
「はぁ……。 分かった、手伝おう」
「ホントでありますか!? 嬉しいであります!」
ため息をつきながらそう微笑み、アレクに喜びを与えるのであった。
(まぁ、家事をしてもらった礼はするべきだろうな……。 ……これは、怠ける為じゃない、怠ける為じゃない……)
そう自分に言い聞かせながら……。
…………。
「ミーナ、嘘をつくなら、もっと上手にうそをついてくれないかい?」
「えーっとですね〜……。 ごめん……なさい……」
その頃、ニ階の窓に寄りかかり呆れた様子のネルブに対し、両膝を床に付けて座るミーナは、申し訳なさそうな顔を横に向けていた。
それは気恥ずかしさと言うか、早くこの状況が終わってくれないかな?という思いを表すかの様な……。
少なくともミーナが(どうしよう……)と現状を悩ましく思っていたそんな時である。
「すみませんミーナさん、開けてください!」
ドンドンと扉を叩く音と共に、アレクの声が入り口の扉から響き渡る。
「は、はーい!? すみませんネルブさん、お客様が来ましたから!」
「あ、ミーナ、待て!?」
その時のミーナの表情は実に嬉しそうなモノだった。
だが一つ残念なのは、入り口の扉へ駆けていくミーナの耳は、ザーッと響く雨音が邪魔したせいで誰の声かを認識出来なかった。
その為。
「いらっしゃ……。 あ〜……」
「み、ミーナさん!? 何かお悩みの様ですから、お助けに来ましたよ!」
「来てやったぞ」
赤面したアレクにおんぶされたリアナの姿を見た時、「しまった」と言わんばかりに口を開けた顔で固まってしまうのである。
「おいどうしたミーナ……。 お〜っと……」
それは階段を降り終えたと共に固まったネルブも同じである。
だから雨音に邪魔され、声の主をしっかり認識出来なかったネルブは、「さて、どうしたものか……」と言わんばかりの表情を浮かべ、立ち止まっているのだから……。
(まぁ良いか。 ストレートに聞いた方が私らしいし……)
だが、それは一瞬の事。
ネルブの表情は次の瞬間、落ち着いた表情で腕組みした姿に変わっていた。
…………
リアナを招き入れる少し前の事、扉にかかった《臨時休業》の札がヒラヒラ揺れるネルブの店では……。
「レッカー、不審な人物を発見したよ!」
「レイチェル、きっとミーナお姉ちゃんの家を捜索する為にやってきたスパイだね!」
雨が降り続ける窓の向こう側を眺めながらレッカーとレイチェルはまるでスパイの様に、ミーナとネルブがいる家を見張っている様子。
そんな様子を子守を頼まれたエドガーは、木の椅子に座って生暖かい目で眺めていた訳だが。
「レッカー、あれってリアナお姉ちゃんじゃない?」
「間違いないね、レイチェル」
「なっ!?」
そんな言葉を顔を合わせ、二人が行った事により、エドガーは素早く窓の外を確認。
その後、アレクとおぶられたリアナが家の中へ入っていく姿を見た時、その表情は無の表情を静かに浮かべていた。
(……もしかして、結婚報告でもしてるのだろうか?)
そしてエドガーは思った。
二人が結婚するのならもう、それで良いんじゃないかと……。
だからエドガーはニッコリ笑みを浮かべると、再び椅子に座り、二人の様子を眺め始めるのであった。
(うん、アレクが幸せなら良いかな? 相手が年下好きでも……)
…………。
「アンタ達、付き合っているのかい?」
「いや、付き合っていないぞ」
「リアナさんの言う通りででありますよ。 それよりお二人とも、何か問題か何かあるのでは? 隣からミーナさんの必死な声を聞いてしまったので、自分、何かあったのかと心配なのでありますよ……」
「いや、アタシ達は何も悩んでないんだけど……。 まぁ、問題解決って事で良いのかねぇ……」
さて、四人がテーブルに座った所で、腕組みしたネルブは目の前に座るアレクとリアナにそう尋ねた訳だが、そんなストレートな問いかけにリアナもストレートに返し、アレクも頭を上下にコクリと動かしそう続ける。
そして、曖昧な答えをネルブが告げたその時。
「納得出来ません!」
テーブルを叩き、ミーナがそう叫んだ。
その理由はこの様なモノであった。
「だって、アレク君の上に倒れてきたのでしょう! 絶対、イヤらしい事をしているに決まってます! それできっとアレク君を洗脳して……」
「お前は何を言っているんだ?」
「…………」
だが、そんな主張に対してもリアナは、表情一つ変えずにそう答える。
しかしアレクは別である。
(じ、自分がリアナさんと……。 リアナさんと、その……)
ミーナの言葉を聞き、いかがわしい想像をしてしまったアレクの顔は真っ赤に染まり、体の一部分は立派に膨れ上がってしまったのである。
(あ……。 面倒臭い……)
そんな中、ここでリアナのやる気は0に。
その為リアナは、机に倒れ込むと。
「あ〜……」
帰りたい気持ちをため息混じりな声にして吐き出す。
その時、アレクは察した。
(リアナさん、やる気が無くなったでありますな……)
と……。
「あ〜……。 申し訳ないでありますが、リアナ殿はやる気切れで面倒臭くなったみたいでありますから、話はまた今度にしてもらって良いでありますか?」
「あ、あぁ、構わないよ……」
だからアレクはミーナ達にそう告げネルブの言葉を聞いた後、リアナを背中におぶって家を後にする。
そして、そんな二人が立ち去り扉が閉まった時、ミーナとネルブはこの様な感想を口にするのである。
「何か、良い感じのカップルですよね、あれ……」
「あぁミーナ……。 何か凄くお似合いのカップルじゃないかい、アレ……」
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