二人は互いに『王族』である事を隠している

駄作プロ

プロローグ

プロローグ 1

 「エドガー君、外に不審な人影が……」

 (まさか、もうココがバレたのか……)


 暗くなった二階の寝室を魔石ランプの炎が照らす中、椅子に座り本を読んでいた金髪の美少年エドガー・ランダークは小さく冷や汗をかいた。

 それは彼が浮気したわけでも、悪事に手を染めたわけでもない、実は彼がリンドブルム王国の王子であるからである。


 本名エドガルド・フォン・リンドブルムはこの年17歳。

 リンドブルム王国の第一王子であったが、リンドブルム王国での生活に嫌気がさし、半年前のある夜、国から逃げ出した。

 だから彼は、国から追ってが来たと思い、冷や汗を流してしまった訳である。


 しかし冷や汗を流していたのは彼だけでなかった。


 (まさか、もう私の居所がバレたのでしょうか……!?)


 2階から窓の外を椅子に座って眺めていた金髪長髪の美女であるエドガーの妻、ミーナ・ランダークもエドガーと同じく、冷や汗を流していたのである。

 それは彼女もミリアーナ・フォン・ラドラインと言う本名を持ち、ラドライン王国での生活が嫌になり、18歳になった半年前のある夜、逃げ出していた。

 そして同じく、第一王女である自分を探して国から追ってが来たと思い、小さく冷や汗を流してしまっている訳だ。


 エドガーとミーナ。

 もし二人が初めてデートした際に、一般市民ぶった相手から。


 「私、貴族や王族なんか大嫌いなんです!」

 「僕も同じ意見だ! 貴族や王族は大嫌いだ!」


 等と酔った勢いでそう言われなければ(自分が王族の関係者とバレたら、大好きな相手パートナーと別れる事になる)と考え、自身が王族である事を内緒にする事も無かったかもしれない。


 そして、その小さな嘘は結果的に。


 《ドンドンドン!》

 「おーい、中に居るよね。 窓に人影、見えてるからね!」


 扉を叩く音と男の声が家の中に響く現状を生み出してしまったのだろう。


 そんな二人は今、冷や汗をタラタラ流しつつ察した。

 

 だから二人は相手に行ってもらおうと互いに相手の姿を見るのだが。


 (あれ? 今気づきましたがエドガー君の表情、とても行きたくなさそうなのですが……。 それに足がガクガクが震えているみたいですし……!)

 (ミーナさん、やっぱり行きたくないみたいだな……。 目が泣きそうになっているし……)


 互いに相手の顔を見ると、そうお願いしにくくなってしまった。


 (どうしよう……)

 (どうしましょう……)

 (こうなれば、僕が行くしかないよな!)

 (こうなれば、ワタシが行くしかありません!)

 ((好きな相手に何かあってほしくないから!))


 そして、考え込んだ末に二人は立ち上がる。

 平民だと思っている相手を思いやった行動を取る為に!


 「僕が見に行こう!」

 「いえ、ワタシが行きます!」

 「ダメだ、ここは僕の仕事だ!」

 「ダメです、家の事はワタシの仕事です!」


 しかし結果、生まれたのは優しい言い争い。

 そんな相手の反応を見た二人はそれぞれ。


 (僕は何て愚かな……。 自分の事ばかり考え、ミーナさんに気を使わせてしまうなんて……)

 (わ、ワタシはなんて事を……。 自分の事ばかり考え、エドガー君に気を使わせてしまうなんて……)


 っと自己嫌悪してしまい、結果。


 「僕が行くからミーナさんは上にいてくれ!」

 「いいえ、家の事はワタシの領分です! だから決して譲りません!」

 「ダメだ、ここは僕が!」

 「いいえワタシが!」


 《ガチャッ!》


 「「はい、どちら様ですか!」」


 二人は作り笑顔で相手の頬を押しながら仲良く階段を降り、玄関の扉を強く引き、来客を出迎える結末を迎えた。

 のだが……。


 「何を痴話喧嘩してるの、お前ら?」

 「「あっ、いらっしゃい……」」


 そこにいたのは追っ手ではなく、二人が出会った酒場の従業員であり、今もエドガーと共に働いている仕事仲間の金髪の青年、アルタイルの姿。

 そして中性的な顔立ちのアルタイルは、懐から封筒を取り出すと。


 「まぁそれはそうと、給料貰うの忘れてるぞエドガー」

 「あっ……」

 「んじゃ、俺は飲みに行かなきゃいけないからよ、じゃーな!」


 それを『忘れてた』と言わんばかりの表情をしたエドガーに手渡し、アルタイルは軽く上げた右手をヒラヒラさせながら去っていった。


 「え、えーっと……。 なんか、ごめんなさいエドガー君」

 「な、なんかごめん、ミーナさん……」

 「いえいえ、ワタシこそ不審な人影っていっちゃいましたし! ホントごめんなさい!」

 「でもミーナさん、仕方ないよ! 夜だし、黒い人影をみたら不安を感じてしまうもの! だから悪いのは僕だよ」


 そして扉をゆっくりと閉め終えると、二人は互いに頭を何度も下げた。

 ただ二人とも、その心の根にあるのは。


 ((良かった、追っ手じゃなくて……))


 と言う共通の思いであった。

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