第20話 恋する少女の暴走
魔法科科長・
現在二十五歳で魔法科の科長というだけでも、その名前が有名になる要因であるが、それは些末なことだ。増田の名前を有名にしたのは五年前の国家間魔法対抗試合である。そこで披露された魔法の高度さは、現在でも世界中で群を抜いており、世界一位の魔法使いと呼ばれる男である。
さらにルックスも良く、身長は百八十五と誰もが羨むほどの高身長だ。よく政府のポスターに採用されているほど、男女ともにファンの多い人物である。
「あの、あり得ないほど複雑な魔法を扱える増田さんか」
俺ももちろんその名前を知っていて、というより、国家間魔法対抗試合に出たいと思うようになった憧れの人物で、そいつを惚れさせたいという話に複雑な気分になる。
「そう。増田さん。国の至宝とも言われる国家魔法師。私は彼の近くに行きたくて、わざわざ関東から引っ越して、ここの第三魔法学院を受けたの」
紬は顔を真っ赤にしながら、その思いの強さを告白してくる。
(くそっ、国家魔法師め。こんな可愛い子の心も掴みたい放題か)
それに対して俺は恨み節の一言も言いたくなるが、心の中だけで呟いておく。さすがに相手が悪い。
「でも、学生になったとしても遠い存在でしょ。日に日に紬の思いが暴走・・・・・・強くなっちゃってね。一時的でいいから思いを遂げる方法ってないかなって思ったのよ」
「おい、お前。今、はっきり暴走って言ったよな? 言ったよね」
友葉の言葉にツッコミを入れつつ、俺はもう一度紬を見る。その紬は、増田を思い浮かべてかうっとりしている。
「なあ。あれがいつもの状態か?」
俺は夢見心地の少女って実際にいるんだなと、少し引いてしまう。
「いつもの状態よ。ちなみに紬の部屋、増田さんグッズで埋め尽くされているからね」
それに対して、友葉は甘いわねとそんなことを付け加えてくる。
「それって公式?」
「公式のものがほとんど。一部ヤバい」
「・・・・・・」
知れば知るほど、可愛い子がヤバい子になっていくってどうなんだろう。俺はぴくぴくと頬が引き攣ってしまう。
「ああ、増田さん。その身体を余すことなく知ることが出来れば、国家魔法師になるまで我慢します」
「いや、すでに自重できていない気がするぞ。身体を余すところなく知るって、一体何をやる気だ?」
うっとりと呟く紬に、俺は思わずツッコミ。が、当然のように無視される。
「まあ、なんとか増田先生に近づく方法がないかなって話。でも、ちょっと近づくくらいじゃ、紬は納得しないわけよ」
友葉はどうしたらいいと思う、とこっちが本当の相談だと言わんばかりの顔をしてくれるのだった。
「惚れ薬ねえ」
「あるの?」
「誰もが一度は考えるよな」
翌日。同級生三人の惚れ薬に対する反応はこんな感じだった。佳希はあったかなと悩み、胡桃はそれに対してあるのかと興味津々、旅人はあったらなとは思うというものだった。
「まあ、それよりも松本紬さんの妄想癖をどうにかする薬はないかってところだけどな」
俺は惚れ薬よりもこっちだよと、やれやれと首を横に振る。
憧れをこじらせて大変なことになっている少女は、いつか犯罪を犯すんじゃないかという危うさを感じてしまう。
「でも、魔法科に受かるほどの魔力は持っているのよね」
胡桃はそれだけ凄いのならば、学科一位になって増田に会うべきではと真っ当な意見を述べる。
「いや、それは本人も考えていて、頑張っているらしいんだよ。実際、学年では一位二位を争うくらいには凄いらしい。でも、増田ってそもそも国家魔法師の仕事が忙しくて、学院にはほとんどいないし、一位になったからといって、増田の目に止まるかは別なんだと」
おかげで紬は、会った瞬間に惚れるように仕向けられないかと考えているわけだ。最近ではもう、一瞬でもいいから増田の恋人になりたいくらいの勢いであるという。
「ははあ。ストーカーだな」
旅人は怖いぜと俺と同じく引いている。
「ううん。それよりかはアイドルを思うようなものではないか? 私も朝倉先生には、恋人になりたいとは思わないが、君を助手にしたいと言わせたいとは思っているぞ」
しかし、佳希は解ると紬に同意していた。が、佳希の場合はまだ解りやすいし、応援しやすい。
「ううん。佳希がサバサバしているせいかな。なんか違うんだよな」
というわけで、俺はそのままの感想を述べておく。この巨乳変人の考え方は、どちらかと言えば男らしい。一方、紬の方はもっとどろっとした感情を含んでいる気がするのだ。
「ううん。増田先生格好いいからなあ。ファンの子って多いだろうし、同じくらいの発想の子って多いと思うよ」
が、胡桃はやっぱり佳希と同じく紬を援護する。なぜだろう、これって男女差なのだろうか。俺はますます混乱してしまう。
「なあ。女子の憧れってそいつを旦那にするところまで含むのか? まあ、俺だってアイドルとお付き合いできて、あれこれ出来ればって考えるけどさあ」
どうなんですかと、旅人が真面目な顔で俺に訊いてくる。
「まあ、俺だって考えるよ。でも、何だろう。重さが違う気がするんだよなあ」
その発想とも違うんだよと、俺は紬から感じたヤバさをどう伝えればいいのかと悩んでしまう。と、そこで閃いた。
「あれだ。情念みたいなのを感じちゃうんだよ。もうあの人は私のものなの。それは確定なのよ。でもチャンスが巡ってこないの。一瞬でも惚れさせたら勝ちなの。みたいな」
「ははあ」
「藤城、キモっ」
「俺の心の台詞じゃねえよ」
キモっと言ってくれる佳希にデコピンを食らわせ、解るかいと三人を見る。
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