第2話 先生も同級生も変人ばかり

 魔法薬学研究科は不人気であるらしい。

 俺は入学式の会場でそう確信した。だって、新入生が俺を含めて四人しかいないのだ。ただし、男子二人女子二人という、男だらけという悲し過ぎる悲劇は回避されている。

「マジか」

「なんだ、人気がないって知らなかったのか?」

 凹む俺に声を掛けて来たのは、同級生で唯一の男子、池田旅人いけだたびとだ。茶色に染めた髪に真面目眼鏡という、ちぐはぐな印象が拭えない男である。

「知らなかった。第二志望欄があったから、何にしようかなって悩んで、これにした」

 俺は何も知りませんでしたよと、いじけて言っておく。すると

「それ私も」

 と横にいた竹内胡桃たけうちくるみという、可愛らしい同じ新入生が声を掛けて来た。ポニーテールを揺らしながら、学科が二つも同時に志望できるのも知らなかったんだよねと、あっけらかんと言ってくれる。

「いや、それは知っておこうよ。みんな第一志望に魔法科って書くのは解っているから、学院側も第二志望を必ず聞くんだよ。これは全国どの国立魔法学院でも同じだし」

「おや、今の言い分は失礼だな。僕は第一志望、ここだけど」

 それまで喋らなかった新入生の残り一人、ボブヘアの市村佳希いちむらよしきは、そのボーイッシュな見た目と名前に反することない僕っ子で、さらに爆弾発言をしてくれる。しかし胸はデカい。俺は思わずFカップはあるんじゃないかという胸に釘付けになってしまう。

「こ、ここが第一志望」

 だが、そんな俺とは違い、それまで得意げに喋っていた旅人がドン引きしている。

 その反応からして、どうやら九割九分九厘、第一志望は魔法科なのだろう。さらに残り一厘いるとはいえ、この魔法薬学研究科を書く奴はいないのだ。佳希はかなりの変人だと考えて間違いない。

「おおい、静かにしろ」

 と、そこにようやく入学式会場となっている教室(そう、少なすぎて教室だ)に、先生と思しき白衣の人たちが入ってきた。あちらも四人。それも、やっぱりと言いたくなるほど個性的な面々だ。そしてこちらも男女二人ずつという構成だ。

「皆さん、入学おめでとう。この魔法薬学研究科を選んでくれて、ありがとうと言いたい」

 そう言ったのは、唯一白髪交じりでおじさんの先生だ。

「私はここの学科長の塩崎成吾しおざきせいごだ。解らないことがあったら何でも聞いてくれ」

 と、このおじさん先生が学科長、つまりお偉いさんだった。塩崎は次に自分の左にいたややおっさん先生を紹介する。

「こちらは教授の朝倉小太郎あさくらこたろう先生だ。論文の指導など、多くの授業で先生のお世話になるぞ」

「朝倉です」

 朝倉はおっさんらしく気怠げに挨拶をした。よく見たらぼさぼさの頭はオシャレではなく寝癖であり、髭もちょろちょろと生えている。明らかに寝起きだ。白衣もよれている。

「朝倉先生の横が准教授の須藤華月すどうかげつ先生。実験の基礎など、研究に必要なことを教えてくれることになっている」

「須藤です」

 須藤はグラマーという言葉がぴったりなタイプの先生だった。いわゆるボンキュッボン。肩口で切りそろえられた黒髪がミステリアスを付加し、白衣がまたその色気にプラスされている。

「いい」

 旅人が小さく呟くのを、俺は聞き逃さなかった。確かにいい。研究に必要なことを教えてくれるなんて、色々と期待しちゃう。

「さらに須藤先生の横が助教の遠藤麗奈先生です。年齢も君たちと近く、また座学のほとんどは遠藤先生が担当されるので、一番顔を合せることになる」

「遠藤です、よろしくね」

 ぺこっと頭を下げる遠藤は小柄で、須藤とは対照的だ。しかし可愛さを前面に押し出したその姿に、俺は好感が持てた。服装もゆるふわ系でよく似合っている。髪もゆるくウェーブしているし、全体的にゆるふわな先生である。

「先生の紹介は以上だ。あとは、ええっと、朝倉先生」

 学科長は入学式って何をするんだっけ、という感じで横の朝倉に訊ねている。ただでさえ不人気学科だと判明したばかりだというに、不安になる行動だ。

「白衣と教科書を配布する。その後、授業についての説明です」

 朝倉は面倒臭そうに頭を掻きながら、それでもちゃんと塩崎をフォローした。全体的に気怠げな人だが、頼りになるらしい。

「そうそう。遠藤先生。白衣の配布を」

「はい」

 遠藤はてきぱきと教壇の端に置かれていた段ボール箱を開け、新入生四人に白衣を手渡した。

「名前が刺繍してあるから、合っているか確認してね」

「は、はい」

 遠藤に話し掛けられて、俺はドキッとしてしまった。やっぱりいいよね、大人の女性は。ゆるふわ系とはいえ、近くで見るとなかなか胸も大きかった。

「どこ見てんのよ」

 そんな俺に、佳希が睨みを利かせてくる。

 が、お前の方が立派なもんを持ってるよねと、俺は心中複雑だ。この変人の扱いに今後困りそうだな。そんな予感がしてくる。

「白衣は学校に来たら基本的に身につけているように。次に教科書の配布だ」

 塩崎はそう言って、今度は手分けして教科書を配っていくよう先生たちに指示する。その量は、めっちゃ多かった。しかも一冊一冊が図鑑のような大きさの太さを誇っている。

「なんだ、あの量」

 俺がドン引きした声を出すが

「大半は学校に置いたままでいい。後でロッカーに案内するから」

 と、すぐに朝倉が説明してくれた。

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