第197話 絶望


「はわわわ…………。」


 ルシファーとガブリエルの戦闘を眺めていることしかできないルア。ルア達の下では数多くの天使と、東雲達がぶつかり合っている。


 ルアが何をすべきなのか迷っていると、突然ルシファーの声が聞こえた。


『ルア様、お待たせしました。』


「ルシファーさん?」


『新しい技をいくつか会得していたせいで少々手間取りましたが、なんとか感覚は掴みましたので……これから反撃に移ります。』


「え、は、反撃って……わぁっ!?」


 ルシファーがくいっと指を動かすと同時に、ルアの体がガブリエルへと向かって動かされる。


「フフフ、ガブリエル何か忘れてはいませんか?」


「なにをっ……!!」


「私達は……なのですよ? 」


「っ!?」


 ガブリエルが後ろに気配を感じて振り返ると、そこには蹴りの体勢に入ったルアの姿があった。


 反応に遅れたガブリエルは、ルアの細い足からとは思えないほど強く、重い蹴りを食らい地面へと叩きつけられた。


「ぐっ……なぜ私に触れることが……。」


 もろに食らったかと思われたガブリエルだが、彼女は間一髪……自分の腕でルアの蹴りから自分の体を守っていた。しかし、ある程度のダメージはあったようで砂埃の中から守りに使った方の手を押さえながら現れた。


「ガブリエル、あなたなら知っているでしょう?七大天使の結界は、下界の強い欲によって中和されてしまうということを。」


「……なるほど、つまりはルシファー……あなたと同様に欲に堕ちた人間ということですか。」


「フフフ、半分正解と言ったところでしょうか。」


「欲に溺れた者共め……。」


 恨みを込めてそう口にしたガブリエルの目の前に、ルシファーが土埃を貫いて急接近する。


「っ!!」


「私達のことが憎たらしいのはわかりますが……今は戦闘に集中してはいかがでしょうか?ねぇ、ガブリエル?」


 ルアに続いてルシファーも、攻撃を仕掛けようとするが、ガブリエルの体の周りに再び花弁が舞い始めた。

 それを見たルシファーはくすりと笑いながら、ピタリと足を止めた。


「フフフ、審判の百合を守りにまわしましたか。賢明な判断です。ですが、どうしますか?守っているだけでは私達を浄化することなど無理ですよ?」


「そんなことはわかっています。」


 悔しそうな表情を浮かべながら顔をあげたガブリエル。そんな彼女の口元からは、強く噛み締めすぎたせいで少量の鮮血が滴っていた。

 ガブリエルはその血を乱暴に手で拭うと、ポツリと呟く。


「まさか……これを使わされるとは思ってもみませんでしたよ。」


「……?何か奥の手があるとでも……………っ!?」


 ガブリエルがそう呟いた瞬間……ルシファーの目の前からガブリエルの姿が突然消えた。


「まさか……これはっ!!」


 先程まで笑みを浮かべていたルシファーの顔から一瞬にして笑みが消え、彼女はルアの方を振り向く。すると、ルアの背後から審判の百合が迫っていた。


「やはりまずはこの人間から浄化しましょう。」


「えっ?」


 突然後ろから響いた声にルアは振り向くが、彼が振り向いている最中にも、審判の百合は眼前にまで迫ってきていた。

 そしてルアに審判の百合が直撃する刹那……ルアは横から突き飛ばされた。


「させませんよガブリエル。」


「ルシファー、あなたならそうすると思っていましたよ。うふふふふ……♪」


 ルアを突き飛ばし、代わりに審判の百合の効果範囲に入ったルシファー。すると、ルシファーの体の至るところから白い百合が芽吹き花開いていく。


「さぁ、ルシファー浄化の時です。」


「ふ……フフ、これは…………予想外でした………………。」


 最後にルシファーがふっと笑うと、それと同時にルシファーの体を白い百合が埋め尽くしてしまう。そして身体中を白い百合で覆い尽くされたルシファーは地上へと向かって自由落下していく。


「る、ルシファー…………さん。」


 自分の目の前でガブリエルの審判の百合を食らってしまったルシファーを目の当たりにしてしまったルア。絶望する彼のもとへとガブリエルはそっと近づいていく。


「うふふふふ……さぁ、これであなたを守る者はいなくなりましたよ?」


「あ……あっ……。」


「その恐怖に引きつった表情……生き物が死を予感したときにするその表情……あぁ、良いものです。さぁ、もっと深い絶望へと落としてさしあげましょう。下をご覧なさい。」


 ガブリエルに言われるがままルアが下へと目を向けると、数多くの天使達に苦戦する東雲達の姿が……。そして城の中に避難していたリリィとトリトニーが天使達に引き摺り出されてきている姿が彼の目に写った。


「彼女達を浄化したあとはあなたを浄化しましょう。せいぜい最後の最後まで私を楽しませてください。」


 目の前でくすくすと笑うガブリエル。そして地上でピンチにさらされている皆。それを見たルアの中でプツンと何かがキレた。


「……さ……ない。」


「ん?遺言ですか?うふふふふ、私は今機嫌が良いですから聞いてさしあげましょう。さぁ言ってみなさ…………。」


「絶対に…………許さない。」


 瞳から涙を流しながらガブリエルのことを睨み付けたルア。そして彼は喉が張り裂けるほど大声で叫んだ。


「メタモル………フォーゼッ!!!!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る