第47話 拉致

愛子にお弁当を渡すことを拒否するように、教室の片隅で隠れながらお弁当を食べることにしたんだけど、愛子は毎日のように、教室の外から中を探り、私を探しているようだった。


青山さんと磯野さん、結衣子ちゃんが壁になってくれたおかげで、見つかることもなく、過ごしていたんだけど…



『愛子にお弁当を渡さない=井口君はお昼抜き』と思うと、少しだけ申し訳ないように感じていた。



テスト期間を目前にしたある日の日曜。


コンビニに向かう途中で、愛子とバッタリ遭遇。



『変なのと会った…』



愛子に挨拶もせず、そのまま通り過ぎようとすると、愛子は無言で私の腕を掴んでくる。


「何?」


「ちょっと来て」


「は? 忙しいんだけど」


「弁当渡さないくせに何言ってんの? 拒否権なんてないから」


無理やり腕を振り払おうとしたんだけど、愛子は『どこにこんな力が?』ってくらいの力で掴んでくるから、愛子の手は振り払えず…


そのまま駅前に到着してしまったんだけど、駅前で誰かを待つ健太君の姿が視界に飛び込んだ。



『待ち合わせてた? すんごい嫌。 絶対嫌。 ホント無理』



愛子の腕が離れた途端、その場で踵を返すと、結衣子ちゃんと鈴本君、井口君の姿が視界に飛び込んだ。


「あれ? 結衣子ちゃん? どうしたの?」


「あれ? 若菜ちゃ…」


「よし! みんな揃ったから行こ行こ!!」


結衣子ちゃんの言葉を遮るように、愛子が声を上げ、愛子は私の腕を掴んで駅のほうへ。


「ちょっと! どこに行くつもり!?」


「遊園地。 ずぅっと前から約束してたじゃ~ん。 健太が6枚もタダ券もらったんだって! みんなで行こうって約束したしの、忘れたとは言わせないからね!」


「忘れたも何も聞いてない!!」


「また忘れてるのぉ? とにかく行こ行こ!!」


愛子に押し込まれるように改札を抜け、引きずられるように電車の中へ。


電車の中で結衣子ちゃんに話しを聞こうとしても、愛子は『必死か!』と言わんばかりに話し続け、会話が全く成立しない。



愛子に引きずられたまま遊園地に到着し、ゲートの中にも押し込まれる始末。


無言のままその場を離れようとすると、すかさず愛子の甘えた声が飛んでくる。


「わかにゃ~ん、どこ行くのぉ~?」


「トイレ!!」


露骨に不機嫌な声を出し、八つ当たりをするように歩き始めたせいか、愛子はついてこなかったんだけど、結衣子ちゃんは不安そうに追いかけてきてくれた。


結衣子ちゃんに事情を聴くと、突然鈴本君と井口君が家に来て、「奢るから、付き合って」と言われ、ついてきただけとのこと。


結衣子ちゃんも詳しいことを理解しておらず、不思議そうな表情を浮かべるばかり。


「つまり、結衣子ちゃんも拉致られたってこと?」


「うーん… 『どうしてもお願い』って頭下げてきたからついてきただけで、拉致ではないかな…」


「そっかぁ。 鈴本君にお願いされたら断れないよねぇ…」


「うん… って、え? 知ってた??」


結衣子ちゃんは真っ赤な表情をして私を見つめてくる。


冗談で言ったつもりなんだけど、結衣子ちゃんの様子を見ると、私の冗談は的を得ていたようで、ずっと疑問だったことが確信に変わっていた。


「やっぱりそうだったんだ。 いつから?」


「そ、それより! 早く行かないと後で恐ろしいことになるよ!」


結衣子ちゃんは逃げ出すようにトイレを後に。



『やっぱりそうだったんだ… こんな話聞いたら、余計に帰れなくない? タイミング、失敗したなぁ・・・』



逃げ出すことが絶望的になってしまった状況に、大きくため息をついた後、トイレを後にしていた。

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