第36話 嫌がらせ

翌週、お母さんが準備してくれたお弁当の中身を、普段とは違うお弁当箱に詰めていた。


「そっちのお弁当箱にするの?」


「うん。ちょっとね」


それ以上のことは言わず、お父さんとお母さんが仕事に出かけた後、普段使っているお弁当箱を取り出した。


今までずっと、誰に渡しているのかわからなかったから、どう対応していいのかわからなかったけど、相手がわかれば打つ手はある。


しかも、それが井口君と分かれば、容赦はしない。


普段使っているお弁当箱に、5個入りのクリームパンを潰しながら、すべて詰め込んだんだけど、少し隙間が空いている。


『潰しすぎたかな? 食パンが余ってたような…』


隙間を埋めるように食パンを詰め、ポーチの中に割り箸を入れた後、不思議な達成感に満たされていた。



お昼休みになると同時に、不思議そうな表情をした結衣子ちゃんたちと屋上手前に行き、お弁当を食べながら勉強を教えていると、駆け寄ってくる足音が聞こえてくる。


愛子の姿を見た後、無言で菓子パンをぎゅうぎゅうに詰め込んだ、お弁当箱の入ったポーチを手渡した。


「お弁当箱、ちゃんと返してね」


愛子は無言のままポーチを奪い取ると、急ぎ足でその場を後に。


「若菜ちゃん…」


「いいのいいの。 ちゃんとしたから大丈夫」


不思議そうな表情をする結衣子ちゃんに笑顔で答え、青山さんと磯野さんに勉強を教え続けていた。


お弁当を食べ終えた後、教室に戻ったんだけど、井口君の姿だけがなかった。



『どっかで食べてる? もしかして二人で食べてるとか?』



ふと頭によぎった言葉に軽く苛立ちながらも、結衣子ちゃんと勉強を教え続けていた。


放課後になっても、愛子はお弁当箱を持ってこず、仕方なくそのまま自宅へ帰ると、ドアの前にポーチが置かれている。


『なんか一言言えよ!』


苛立ちながらポーチを拾い上げると、重量感を全く感じなかった。



『全部捨てたかぁ… もったいないことしたなぁ…』



家に入り、お弁当箱を開けてみると、中にはパンくずと、少しだけクリームのついた使用済みの割り箸が入っている。



『え? もしかして食べた? あれを? 箸で? 嘘でしょ!?』



お弁当箱の中身に驚いたんだけど、もしかしたら割り箸でツンツンしただけかもしれないし、食べたという確信は持てないでいた。



翌朝、愛子に渡す用のお弁当箱には白米と梅干だけにしてみた。


お昼休みになると、昨日と同じように、愛子がお弁当を取りに来て、放課後、自宅玄関の前にポーチが置かれている。


自宅に入った後、ポーチを開けてみると、使用済みの割り箸が入っていて、お弁当箱の中には、梅干しの種だけが転がり、食べた形跡が残っていた。



『やっぱり食べてるんだ… なんで何も言わないんだろ? あんな嫌がらせ弁当渡されたら、普通、文句言うよね?』



井口君が愛子に文句を言ったとしたら、井口君に言われた何倍もの勢いで、愛子が私に文句を言ってくるはず。


井口君以外の人に渡していたとしたら、余計に文句を言うだろうし、愛子も何らかのアクションを見せるはず。


けど、愛子が何も言わず、玄関にお弁当箱を置いているってことは、井口君は文句を言っていないだろうし、愛子も中身を確認していないってことになる。



『井口君って…ドM? この状況に喜んでるとか? コワッ!!』


鳥肌が立つのを感じながら、お弁当箱を洗っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る